第35話 奴か? 二人目!
「脱出? どういうこと?」
「……分からない。艦の中が一番安全な筈。それなのにわざわざ外に逃げるなんて……」
いざ乗り込んでみたら誰も居なかった。誰も居ないとは思ってもみなかったので驚きが大きい。
「……一番の問題は、重要な機器類が丸ごと無くなっている点だ、ぞ」
「ノア!」「ノアちゃん!」
いつの間にか澄まし顔で脇にいた。
「どういうこと?」
「……多分だが、艦の重要な部分だけを分離して脱出したってな感じ、だね」
「なんでそんなことを」
「……理由があってのことでない、かい? それよりも何処にいるか、だな。多分近くだとは思うけど、ね」
「何で分かるの?」
「……推進力系が丸々残っているのと、逆に圧縮倉庫と艦AIが無い。維持に最低限の自己防衛機能を作動させた上で放棄した、てな感じ。艦AIが無ければ跳躍も短距離移動も不可能で現状維持が精一杯。その辺に放置しとけば誰かが発見してくれるかも、てとこか。最低限の防衛機能って言っても、今回みたいに同じ探索艦かエリアマスター級の奴を引っ張って来ないと移動すら出来ない、し〜。逆にそれさえ揃えば今回みたいに制圧も可能だよ、ね」
今まで聞いた事がない早口で教えてくれた。
「なるほど……流石ノアちゃんね」
褒めたらドヤ顔で胸を張り私達を見下ろそうと背が低いのに頑張っていた。
いつものノアなら褒められると照れたりするんだけど……少しは成長したかな?
「という事はどちらかにいるってこと?」
「多分そうなるかな?」
「どっちだと思う?」
「……まあ、普通に考えれば……な」
「「ですよね〜〜」」
お約束、というか人の目に付かない方といえば……
嵐か……やだな〜
とりあえず放置艦はアシ2号と合体させ瓢箪型にて連れて行くことにした。
さらにルーシーには「回収したからもう害は無い」と説明し「隣の惑星で遊んでから帰る」と説明しておいた。
ただ、遊んでいる間は
もし来たら命の保証はせんぞ〜てな感じで。
これで心置きなく捜索が出来そうだ。
──あっ……忘れてた。「遺跡」もこの惑星にあるんだったか?
(まあ「遺跡」は後回しにするって事でいいかな? アル君?)
(…………)
(最近ちょっと口数が少ないんでないかい? サラに怒られたから?)
(…………)
ま、いいか。
「ノア先生! ここはやはり「ハンゾウ君」の出番ではないかと!」
前回の素晴らしい活躍が走馬灯の様に次々と思い出される。
「ハンゾウ君ってなーにー?」
そうか、クレアは知らないんだよね。
「ハンゾウ君はノアが開発したニンジャよ!」
「オーニンジャ! ハラキリ? チリメンドンヤ?」
「『プッ」』
おなじやんけ! ノアと二人して吹き出してしまう。
「え? 何?」
「何でもない。私と同じこと言ったからね〜」
一語一句違わずに。
「よし、ハンゾウ君の出番の前にもう一回、この惑星を調べとくかね」
『……了解、っす』
ノアは自艦に戻り私の艦から分離。
こちらが北半球、ノアに南半球を軌道上から調べることにした。
調べると予想通り惑星全体を覆っている分厚い雲の下は嵐となっていて、かなりの広範囲で雷雨や吹雪となっていた。
陸地と海の割合も今まで「遺跡」があった惑星のペアとなっていた方の惑星に似ていることも判明した。
うん、ここでも情報に差が……いや全体的に気温がかなり下がっているからか。暖かくなって雪や氷が溶ければ……
肝心の脱出者だが……信号を辿ったら今回は直ぐに見つけた。
北半球の極限の陸地。ご丁寧に「遺跡」の直上500mで一緒に「氷漬け」になってた。
今は迷彩は解除されているらしくセンサーにも直ぐに反応したので苦もなく見つけることが出来た。
これじゃハンゾウ君の出番は無しだね!
ただ一つ問題が。
折角見つけたが、この位置だと救出するときに誤って落としてしまう可能性が。下手をすれば「遺跡」まで救出してしまう可能性が出てきた。
というのも探索艦を形成している物質は、基本的には「金属」の部類に入りかなりの質量がある。
宇宙空間では問題にならない質量でも、引力圏下では無視出来ない重さなのだ。
こりゃ慎重にやり方を選ばんとな。
でどうすっか……
ん? ところでなんでこんな天候になってるの?
元々はプラント作れるくらいに穏やかだったんだよね?
てゆうか、どうみても自然現象……ではないよね?
「ノア、この天候おかしくない? どう見ても作為を感じるんだけど」
『……当たり、かも。今回は「イルス君」……いや「ボツ郎」に決めた、ぞ!』
「ぼ、ボツ郎?」
『……行け!「ボツ郎」、よ!』
ハンゾウ君と同じ形状をした物体がアシ2号から元気よく飛び出す。
『……さらに「ハンゾウ君」、監視を頼む、ぞ!』
ボツ郎の後を追い掛ける様にハンゾウ君も静かに離脱して行く。
ボツ郎が惑星に降下すると大気圏内を縦横無尽に駆け巡り始めた。
その遥か上空を単二×二個搭載にバージョンアップしたハンゾウ君が僚機を監視をする。
『先生! ハンゾウ君カラ通信! 全部デ二百五十六個発見シマシタデス!』
『……おお! でかした、ぞ! では早速突進〜、破壊せよ、と‼︎』
活き活きとした二人。
「……ノア? 楽しそうなところごめんね。説明ぷりーず」
『……おう、今この星の気象を操作してる奴の炙り出しをしてたとこ、だ。「イルス君」並に隠れるのが上手だったので、な。「ボツ郎」に大気を掻き回して貰い、不自然な僅かな揺らぎを「ハンゾウ君」に調べて貰ってたんだ、な』
「「へ〜〜」」
こんだけ荒れている中から見つけるなんて。
『……で、見つけた装置を今、「ボツ郎」が破壊しまくっているという訳、だ』
「「へ〜〜〜〜」」
『先生! 殲滅デ良イデスカ?』
『……一匹鹵獲〜』
『了解デス!』
「どうやって破壊してるの?」
『……奴はトラブルメーカーで、な。近寄るだけで、相手が勝手に寄ってくる、ぜ。アシ2号の体を使ってるから、触れるだけで勝手に自滅してくれるんだ、な』
「寄ってくるって……重力操作?」
『……いや「お約束」要素だ、な』
「はい?」
『……企業秘密、だぞ?』
『タマ〜ニ言イツケヲ守ラズ敵二捕マリ、周リニ迷惑ヲカケマスデス』
「あ、そう」
「アハハ、情報部としては是非「お約束要素」を教えて欲しいかな!」
クレアがお腹を抱えて笑い始めた。
私には……よく分からない設定だ
そう言えばルーシーが「気候システムを手配」とか言っていたのを思い出す。
予想だが、人が住む前提の惑星には必ず天候操作はもとより自然災害を起こさない為の「システム」が全周囲に張り巡らされているのだが、この惑星の天候を管理していた機器が、何かしらの誤作動を起こした事によってこんな事態に陥ってしまったのではないかと思われる。
だがそれもあり得ない。
この手の「人命」を左右しかねない機器はセーフティ機能が何重にも構築されてある筈で、最悪の場合は「人命を最優先とした強制停止」するのが決まりとなっている。
多分、やはり、いや間違いなく「消失」と連動している。つまり分離した艦も含めたこの状況は「誰かの仕業」であると。
殲滅は直ぐ終わったが、天候が回復するには時間が掛かりそうだ。
我々には悪天候でも行動する分には殆ど支障はないけど、艦を覆っているあの氷をどうにかしないと……
「ボツ郎にお願いできない?」
『……ボツ郎だと惑星ごと破壊しかねない、ぜ?』
「じゃあさっきは? 良かったの?」
『……フラグ立ててないからOK〜』
「ふ、フラグ〜?」
「アハハハハ」
またクレアが笑い出した。
「もう! 笑い事じゃないって!」
「ごめんごめん。で、どうするの〜?」
『……エマの出番だ、ぞ?』
「私? 何で?」
『……場所が確定してるんだ、よ? ゆっくり、ゆっくりとエマが突撃。その後を私が追い掛けて掻っ攫う、で』
「だから何故に私が?」
「アハハハハハハ、何か雑ぅ〜」
ツボに入ったみたい。
「え〜〜何も収穫がないよ〜」
『……収穫じゃなくて人命救助、だよ?。下方向にずれなければ「遺跡」も無事でもーまんたい、だせ〜♪』
「それが一番手取り早いか……ねえ、銃はどう?」
『……範囲が狭すぎるし時間がかかり過ぎる、な。諦めなさい、ね』
「……はい。分かりました」
『……いい子だ、ね』
「アハハハハハハハハ」
役に立たない護衛だこと。まあ仕方ない……行くか。
ただあいつらのどちらかだと思うとこのまま旅にでも出たい気分だ。
どこか〜とおくへ〜いきたい♪
はあ〜〜温泉に入りたい……
「あっそうだ! 情報部は何であいつらの事把握してないんだろう?」
「えーー今それ持ち出すの⁈」
『……エマ』
「分かった! 行けばいいんでしょ! もー、アル!」
「突撃開始します」
まず、アシ2号と合体していた放置艦を、今いる静止軌道上で分離。戻るまで放置とした。
さらに「ボツ郎」と「ハンゾウ君」を放置艦の位置まで撤収させ護衛を任せる。
次に二艦は白色卵型の縦列にて、大気圏の上層の中間圏まで引力に引かれるまま突入すると直ぐに艦全体がプラズマに包まれ火の玉となった。
エマ自身、こういう形で大気層に入るのは初めてで新鮮な面持ちで全方位モニターを眺めていたが、傍にいるクレアはかなり怯えているようで、エマの後ろから抱きついてきた。
全方位モニターを消してもいいんだけど、クレアはさっき大笑いしてくれたんでお返しだ!
ノアは……「ぐ、軍曹! 減速出来ません〜ぞ〜」と訳の分からないことを真剣な表情で口走っていた。
ノアちゃん、今、減速しちゃ駄目でしょ?
途中で「ボツ郎」と「ハンゾウ君」とすれ違う。その際、ボツ郎の機体がだいぶ大きくなっているのが見えた。
多分「鹵獲」した機器が中に入っているからだろう。
大気圏下層に侵入、減速するため艦を円盤状に薄く広げた。
今回は目標を通過するまで推進力を使わないで降下、限界まで速度を落とし艦で氷山に体当たりし粉砕するつもり。
反重力推進は方向の調整でのみ使用。
初めから反重力推進力を使わないのは特に意味はない。今回はそんな気分なだけ。
対流圏はかなり荒れているが、流石最新鋭探索艦。制御が完璧で全く揺れる気配はない。
まあ揺れてもコックピットにいる限りは分からないけどね。
氷山まで約十kmに近づくと艦を円錐形に変え、先端を埋没している脱出艦にロックオン。
キーンという風切音をたてそのまま突入していく。
氷山の表面には雪が積もっていたが、衝撃と風圧で突入口から半径五百mくらいの雪が全て吹き飛ぶ。
氷の重みで圧縮されていた突入口周りの氷も、入口付近がすり鉢状に粉々に吹き飛び広がっていく。
入口は二艦通過後は大きな音をさせて崩壊していった。
先頭のアル艦は直ぐに球体形をした脱出艦に到着。そのまま球体を突き刺すよう氷山の中を押していく、が途中で中心点がズレて「落として」しまうが気にせずそのまま通り過ぎる。
そしてアルテミス艦の直ぐ後ろ、数mの距離をついてきていたアシ2号が瞬時に拾い上げそのまま艦内に収納、そのまま後に続く。
数秒も立たないうちに、二艦はそのまま氷山を突き抜けた。
これらはノアにとっては予め予想されていた事態。
なのでアルテミスが脱出艦を艦内に取り込むという案もあったがエマが頑なに拒否。そのまま脱出艦を盾にして押し出す形にしたのだが、途中で「落とす」事態も容易に想像出来たので、その場合は
今作戦は初めからアシ2号単機で回収すれば済む話。ただそれではエマの
エマが先頭切って動かなければ救出の意義が薄れる。その辺りはエマ自身も分かっていたからこそ拒絶はしなかった。
まあ他にもエマのストレス発散の意味合いも多分に含まれていたが……
すると抜けた穴から陰圧によって勢いよく砕かれた氷の破片やら粒子が大量に噴き出した。
その直後、出口となった穴全体が崩壊したが、下方にある「遺跡」は押し潰されずに済んだようだ。
作戦成功だ。
二艦はそのまま反重力推進で静止軌道上まで一気に上昇。「ボツ郎」と「ハンゾウ君」との合流を果たすと、アシ2号に取り込まれた状態で乗り込み準備を開始する。
今回も三人揃って乗り込みする為、ノアのコックピットに移動し最終打ち合わせを行う。
「確認ね。もし男か知らない奴で、こちらの静止を聞かないようなら迷わず撃って」
クレアに渡した銃を見ながら頭を指差して言う。
「男なら無条件ね? OK」
「アル、乗っ取りよろしく。今回は「有線」だから遠慮は要らない。もし仲間の艦だったらウイルスチェックと情報抜き取りよろしく。アシは艦のサポートと周囲警戒をお願いできる?」
「了解です」「了解デス」
「ノアはクレアのサポート」
「……フッ、背中は任せ、な」
「私は……ここで待機」
二人ともコケた。
「この期に及んで……」
呆れ顔のクレア。
「えへ♡」
「さあ、行くわよ」
「嫌ぁーーーー行きたくないーーーー」
クレアを先頭にノアに引っ張られたエマが続く。
レベル4にて命令したからか、今回も拒否されずに通路が開いたのでゆっくり飛んでいく。
遅いのは暴れて嫌がるエマを引っ張って行くからだ。
だいぶ時間が掛かったが、やっとコックピット手前まで辿り着いた。この頃には観念したのかエマは大人しくなっていた。
コックピット手前で前回同様一時停止、三人は顔を見合わせて順に突入していく。
明るくなっている球体内に入ると目の前には……
真っ黒な宇宙服と長い赤髪を
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