第30話 スク水!弱点!
あれ? この水着、いつものとは違うぞ?
私のはフリフリがいっぱい付いてる青いタンキニビキニだった筈。だがこれはどこから見ても「スクール水着」だ。
同じなのは色のみで、広げてみると胸元には何やら生地製のプレート? らしきものが縫い付けてあった。
そこには手書きで文字らしきものが書かれてあった。
「アル、これ文字よね? 何て読むの?」
「えま」
「はい? ……あ、私ね」
エマ、と読むらしい。
「私の水着知らない?」
「迷宮の宝箱の中」
「……はい?」
「ダンジョンの最深部で……エマが来るのを待っている!」
「…………」
「ごめん、言ってる意味分からん」
「つまり……奪われたのだ!」
そんなどっかのドキュメンタリー番組のナレーションみたいな渋い言い方しなくても……
「誰の仕業?」
「罠だと分かって……それでも進むのか?」
「答えなさい」
「ミア」
隠すことなく素直に教えてくれた。
という事は基地の「圧縮倉庫」の中か。たまにやるのよね〜あの子は。
しかし今回いたずらの目的は何だろう?
今はいないから動機は分からないが、取り戻すならばアルテミスの言う通り「罠と分かっていて進む」か、それとも「諦める」かの二択となるだろう。
さて、どうすっか。
「取り戻せそう?」
こちらは「進む」を選択した場合。何を企んでいるかわ知らないがそれこそミアの思うつぼ。
「悪の組織の首領を倒せればあるいは……」
まだ続けてるよ……
「はいはい、無理ね!」
以前皆で「電脳世界」に挑んで散々な目に遭わされた。
「そんなこと言わないでやってみたら〜」
「気が向いたらね〜」
無理無理! あんな
ここは素直にこれ着ますかね!
取り敢えず「スクール水着」を着てみる。
するとあ~らビックリ、サイズはぴったり……
──はあーーーーなんでこう次から次へと……
トボトボとジャグジーに戻るとノアはまだ寝ていた。
今回の水着行方不明事件の犯人では無いので気を使って起こさない様にそ~と足を入れたところで、
「……似合ってる、ぞ」
と薄眼で褒めてくれた。
あら見てたのね~、とノアを見ると胸にゼッケンを縫いつけた私と同じスクール水着を着ていた。
「これ知ってた?」
自分の水着の肩紐を引っ張り聞いてみる。
「……うんにゃ、知らなかった、ぞ」
首を振った。
彼女も巻き込まれたクチなのだろう。
「……ただ
縁に置いてあるグラスを取り寄せ、ゴクゴクと飲む。
「私に?」
「……そう。見る、か?」
ジーと目を向けて私の返答を待っている。
何か嫌な予感がする……
こちらもジーと見つめ返す……
ん? 今、口元が少しつり上がらなかったかい?
「止めとく」
前言撤回。審議の結果、共犯の可能性ありと判断。
自分の水着とは暫く会えないのを悲しみつつ、ジャグジーの中に入っていく。
「……そうか、残念だ、ぞ」
本当に残念そうだ……って何がやねん!
その手には乗りませんよ〜だ。ホントは君達はグルだろう?
「あ、そうそう。お土産買ってきたよ♪」
「……おお、すまない、ね〜」
何故かおばあさん口調で礼を言われた。
「ノアの部屋に送っといたから後で見てね。それと出掛けてる間、何かあった?」
情報連結後のアルテミスからは何の報告も入っていない。なので何事も無かったと思われたが、出来ればその「何も無かった」との事実を、留守番を買って出てくれたノアから直接聞きたかったので敢えて口にした。
「……外は暇、私は充実してた、ぜ」
緑色のトロピカルジュース? をズズズーと一気に飲み干すノア。
「アイツは……奴は来なかった?」
奴とは例の不審艦。
「……今のところ、は。私としては来て欲しいんだ、が」
「なんで?」
聞くと目を瞑ったままニヤケ出す。
「……ふふふふふふふふふ」
「ど、どしたの?」
「……早く来ない〜かな〜」
「ノア?」
「……エマ達が出掛けている間にいくつか完成した、ぜ〜」
「あ〜武器? 「質量兵器」だっけ?」
「それも完成した、ぞ。ソッチは(艦に)搭載しとかんと、な」
ニヤケが止まらないらしく、身体を微妙に捩って喜び始めた。
「それも?」
「……あとは秘密♡ 質量兵器は流体物質の総量が少なかったから、艦搭載分は思ってたより小さくなった、けど。まあその分、基地は手厚くしといた、ぜ。あとは……ミアが帰ってきたら総仕上げ……ふふふふふふ」
──また顔が悪い子モードになってるし……
「後で紹介するけどラングからお客さん連れてきたから」
ちょっと話題を変えようか。
「……クレアだった、か? 何がどうしてこうなった、の?」
「話せば……長くはないんだけど、仕事だってさ。なんか私の「護衛」をしたいんだとさ」
「…………護衛、か」
目を細め難しい顔で考え込んでしまう。
「ノア?」
気になったので声をかけようとしたが、いつになく真剣な表情をしていたので止める。
とそこに「あ〜いたいた! お姉様〜!」と手を振るランと、そのすぐ後ろから恥ずかしそうに手で身体を隠しながらついてくるクレアの姿が。
二人はネームプレートこそ無いが私達と同じスクール水着を着ていた。
そばまで寄ると一人は自然体で、もう一人は「素っ裸の姉ちゃんが大事なところを両手を使って必死に隠す定番の仕草」をしながらモジモジと横並びで立つ。
すると私とノアの視線は自然とモジモジしているクレアの「ある部分」に向けられる。
そう、水着を着ているにも拘らず無理やり隠そうと伸ばされた腕により雪崩を起している立派な山脈に。
隣にはスクール水着が似合う、とっても「すれんだー」なランが堂々と立っているので、その動きが余計に目立ってしまう。
まあ恥ずかしい、その気持ちはよ~く分かる。だけどね、君はこんな異常な環境に自ら志願して来たんだよ?
東洋のことわざの「郷に入ったら郷に従え」の精神で早く慣れるかサッサと開き直らんと精神が持たないよ?
私の視線に気付き目が合うと、恥ずかしそうに目を逸らせながら妙な色気を漂わせ始めた。
そんな仕草を見て私とノアは顔を見合わせて同時に呟く。
「「悪は成敗せねば」」と。
二人は無言でジャグジーから出るとクレアに忍び寄る。
直後、プールサイドにクレアの叫び声? が響き渡るのであった……
「うう……もうお嫁にいけない……」
どこかで聞いたセリフ。
みんなそんなに嫁に行きたいのかね〜?
エマとノアが詰め寄ると空気を読んだランが後方に回り込み逃げ道がを塞ぐ。そのままモジモジしていたクレアに襲い掛かると「くすぐり攻撃」が約三分続いた。
「な、何でこんなこんなことに〜」
「これは探索部公式の「入部儀式」よ!」
適当言って誤魔化す。
妬みからとか、自分に無いモノの感触を確かめたかったからとか、では決してない。あくまでもこれはスキンシップの一環。
「ぎ、儀式〜⁈」
「……これでクレアも我々の
流石ノア。その調子。
「な、仲間……」
何故かクレアが感動している。
「え? 私まだ「入部儀式」は受けてませんよ?」
思わぬ所に裏切り者が。
「クレア? 分かってるよね?」
アイコンタクトを送る。
「……任せて♪
「きゃぁぁぁぁ……」
裏切り者への制裁が始まった……
「はへ〜〜も、もう一回♡」
そうだ、こいつはこういう子だったんだ……ってことは裏切りはワザとか!
「ちょうど良かった。こちらが情報部のクレア、でこっちがノア」
「クレアです。よろしく♪」
まだ少し顔が赤いクレアがジャグジーの中で正座しながらノアに手を差し出す。
「…………ノアちゃんで〜す」
コイツは何故か上目遣いで顔を赤らめモジモジしながらクレアに手を差し出す。
「……あ、あの〜……お、お土産は?」
「あ、後でね」
「…………うん♡」
目をウルウルさせたノアを見てクレアの顔が更に赤くなる。
「「…………」」
脇では私とランがお淑やかなノアを見てメッチャ引く。
──てかアンタ達、スク水で何やってんの?
「クレアさん、騙されてはダメですよ……」
「……え?」
ランの耳打ちにクレアは我に返る。
「……ちっ」
なんか聞こえたような……
「ハァハァ、私としたことが……自分を見失うとこだった!」
かなりヤバかったようだ。
「はい、それまで! そろそろマキ達が帰ってくるぞ」
率先してジャグジーから出る。
続いてランも出る。
クレアが出る際にフラついたので手を貸す。
最後にノアが出てきた。
ノアはすれ違う一瞬、こちらを見て悪い子の顔をしていた。
──あの顔は何か企んでるな……多分だけど。
マキとシャーリーの二人は時間ギリギリに帰ってきた。
空間モニターに映る二人の顔は行く前と比べて肌艶が明らかに違っていた。
アンタ達、何してきたの?
そのまま作戦会議室にて合流。
数日ぶりとなる「報告会」だが今回からシャーリーが加わった。
皆に席をどうするか? と聞いたところ「この面子ならどこでも同じ」ということで以下のように決まった。
並び順はエマから見て左側からシャーリー、ノア、マキ、ラン。
今回の騒動が起きる前の全員の席順は、私を起点として時計回りにエリー→ラーナ&ローナ→シェリー&シャーリー→(ワイズ&ロイズ)→ミア&ノア→マリ&マキ→ルイス&ルーク→リン&ラン→アリス&エリスとなっていた。
因みにワイズ&ロイズはまだ未成年。作戦には参加出来ないので一度も使われたことの無い、常時空席の新品状態。
そして今回限りのつもりでクレアにも参加して貰った。
目的は仲間への紹介と「皆の反応」を見る為。
そのクレアの席はランの隣り。椅子はエリーの物を使用。
マキとシャーリーにはここに来る途中に、クレアが情報部員で私の護衛任務で滞在していることを説明しといた。
その際、仲間を探しの現状は話しても構わないが「遺跡関連」を話題にするのだけは禁止とした。
正式に紹介後は私の心配を他所に、マキもシャーリーも警戒をせずフレンドリーに接していた。
マキあたりが絡んでこないか心配したけど杞憂に終わる。
二人とも美味しい物でも食べたから大らかなのかな? と思いながら報告を受ける。
「今日は午前中は二重惑星を三箇所、午後は単星四箇所調べてきたど〜」
「結果は散々だったよね〜」
とか言ってる割りに、二人とも残念そうには見えない。
その気持ちは良く分かる。というのもここにいるメンバーの「ペア」は全員生きている。それだけは分かっている。
最優先で探している「行方不明ペア」はローナ姉妹と男共、そして叫び声と共に消えたエリスと姉のアリスのみ。
この中で皆と仲の良かったエリスを除けば接点は仕事関連だけで、プライベートにおいては接点は少なかった。
なので基地崩壊時の様な切迫感は今は無いのだ。
ただ私は皆とはちょっと違う。
では何が違うのか?
それはここで過ごした年月による違い。
私にとって「あの二人」は「姉」と呼べるくらいの存在だったと、最近になって気付いた。
──まあ気晴らしになったのならいいか。
夕食はクレアの歓迎会と称して、普段報告会で使用している居酒屋をチョイス。
名前は確か……「昇龍(ションロン)」だったかな? あの店も少しだけ改装を施した。
あたしゃいつも転送一発だったから名前なんて知らないわ。
集合時間は18:30とした。
クレアをマキ達に任せ、喫茶店「ドカッチェ」に一人で向かう。
夕食までの一時をコーヒーを飲んで過ごすために。
紅茶ではなく、コーヒーを選んだ理由。それは騒動が起こる寸前に飲んだブラックコーヒーが思いの外、美味しかったから。
コーヒーは詳しくないので、とりあえず余り苦くないやつをお任せで注文。
するとカプチーノとアップルパイのセットが運ばれてきた。
本来ならば砂糖だが今回は蜂蜜が添えてあった。
まずは何も入れずにカプチーノを一口。
うん、仄かな苦味とミルクのまろやかさがマッチングしていて美味しい。
口に付いた泡を舌で舐め取る。
次は蜂蜜を少し入れて泡を消さない様に注意しながらユックリと掻き混ぜてから一口。
──成程。蜂蜜だと甘くなり過ぎないのね。
もう一口飲んでからアップルパイをフォークで刻んで口の中へ。
──ん〜幸せ♡ 至福のひと時。ただし、こいつらがいなければ、だが……
「ちょっと! ここは私が座るの! 押さないで‼︎」
「違いますぅー! 私が先に選んだんですぅーー!」
子供の喧嘩かい……
いつの間にかゾロゾロと現れ、私の右隣の席をシャーリーとランが奪い合っている。
体力で言えばシャーリーには敵わないランは椅子にしがみ付いて体でシャーリーを押し返す。
左隣には既にノアが定番の「くりーむしらたまあんみつ」を澄まし顔で食べており二人の争いには関心が無いといったご様子。
全く、四人掛けの円形テーブルなんだからどこ座っても同じだろうにね。
隣のテーブルではマキとクレアがバトル中の二人を呆れ顔で見ていた。
──はぁ〜行き先告げずに来たんだけどな〜
「そうだノア。艦搭載の質量兵器の取説(レクチャー)は? やっといた方が良くない?」
「……今は……まあいい、か。エマのお願い
ノアの号令を聞くと突然全員の顔から
それちょっと怖いって!
古代のホラー黎明期に流行った悪霊に取り憑かれた女の子が首を半回転させる映画そのもの。
声を掛けたノアもそれを見てビクッとしてる。
「……み、みんな可愛くない、ぞ。やっぱりやーめた!」
ノアちゃん案外デリケートなのね。
「ほれ、全員笑顔!」
すると態勢そのまま顔だけ笑顔になる。
うん、余計に怖いわ。
しかもクレアまでやってるし。
「……え、えまーー怖い、よーー」
半べそで泣きついてきた。
「あ、ズルイ! 私もー」
負けずとランが笑顔で抱きついてくる。
私の正面に座っているシャーリーまでもが動こうとしいた。
はぁーーもういいや。取説はまた今度ね。
後に何故あんな行動を? と皆に聞いたところ「エマのお願いだし」の「だし」の部分が引っかかったとのこと。
私も知らないうちに地雷踏まないように言動には気をつけないとね!
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