第28話 情報部! 特権!


 ノアのお土産は手に入った。次は自分の土産である紅茶専門店へと向かう。

 今度は私のテリトリー。軍資金も豊富にあることだし、妥協せずにグイグイいかせていただきます!

 ……と意気込んで乗り込んだが特級はダージリンのみ……悲しい。

 でも一級のAランクは4種類買えた。暫くは在庫を気にしてチビチビ飲まなくて済む。

「特級ダージリン」だがエリーが無事帰還を果たしたら二人で飲むと決めたので、それまでは手を出さずにアルテミスに預けておくことした。


 いや〜久々に良い買い物が出来た。

 これだけ散財したにも関わらず、今月のお給料はまだ半分は残っているという心地良さ。

 さて、ちょいと早いが待ち合わせ場所に向かうかね!


 ランとはメインフロア脇、上階への転送装置が無い三十mくらいのスペースに、壁から生えたなんか訳わからない幾何学的なモニュメントから色とりどりの水が噴き出す噴水広場を待ち合わせ場所とした。

 この場所に決めたのは、利用する人が殆どいなかったから。


 いない理由は想像がついた。

 ここメインフロアはショッピングモールへの入口。出口に当たる転送装置はここではなく他の場所にある。

 さらに他階にも休憩エリアがあるので、わざわざ入口を待ち合わせ場所に選ぶものはいないだろうと。


 ランとは別れてから連絡を取っていない。彼女にはやる気満々のシャルロットがついているし、折角の気晴らしタイムの邪魔はしたく無かったので敢えて連絡は取らなかった。

 だがランのことだ、気を利かして先に来ているかもしれないと思い、座っている者達を確かめてみたがいなかったので、安堵しながら人がいない壁際の席を選んで待つことにした。


 どっこいしょ、と椅子に腰を下ろすと同時にアルテミスが話しかけてくる。


(エマ、尾行)


 突然の報告、さらに尾行という単語に一瞬固まるが予想の範囲内だったので冷静に対応。


(いつから?)

(ランと別れてからだね〜。五人が入れ替わりで遠巻きに)


 座り直すフリをしながら後方を確認、広場の方に体の向きを微調整して視線を動かさずに周囲に気を配る。


(流石プロ〜。エマの視界には絶対に入らないようにしてたよ〜)


 ん? 遠隔監視だけではなかった? もしやいつでも実力行使するつもりで待機していた?


(ランは?)

(あっちにはいないよ)

(いない? ……私だけ?)

(そう)

(因みに誰?)

(情報部)

(……そう)


 情報部なら我々の技術力くらいは把握している筈。

 まさか監視がバレないとか「自分達が」監視されていないとは思っていない……筈。つまりバレる前提での監視。

 ましてやこの星系はBエリア。私達はそのBエリア所属の探索者。他エリアならまだしも自エリア内なら誰に対しても気を使う必要はないのを知っている、筈。

 後で聞いてみるか……


(ランは今どこ?)

(……もうすぐ視界に入る)



 ……お姉様〜お待たせしました〜



 遠くから手を振りこちらに歩いて来るのが見えた。

 そのランに向け笑顔で手を振る。


(周りに何人いる?)

(八人)


 ってことはこの休憩スペースにいる全員。


(襲ってきたら薙ぎ倒していいわよ)


 周囲のアンドロイドを総動員して。


(それはないと思う)

(何故?)

(指揮系統のトップから「監視」と「護衛」の命令が出ているからね)

(……トップ、誰?)

(クレア少尉)


 惑星のトップが少尉? そう言えば「特務課」とは何ぞや? いやそれより……


(……情報部まで「覗ける」の?)

(いえ〜い♪ 今はね。エマとミアのお陰だね)


 私? エリアマスター権限か。


(ん? ?)

(? そう護衛)

(護衛って私を?)

(大元のログが〜この星系内には存在しないので〜分っかりっませ〜ん)

(そう。ん? 今って言った?)

(うん言ったよ?)

(…………まっいっか。は残さないでね)


 ミアと言えば以前艦AIのプログラムを弄ってたな〜と。

 それよりアルテミスの口調がコロコロ変わる方が気になるわ。もしかしてそれもミアのせい?


「お姉様、何かありましたか?」


 いつの間にか私の顔を覗き込んでいた……てか顔近いって!


「ううん、何でもない。さ、食事に行きましょう!」


 手を出す気がないなら放っとこう。

 でも「監視」は分かるが「護衛」?

 しかも私を⁇


 まっ、いーか。

 アルテミス達に加えて「情報部」まで護衛してくれるのなら安心だよね。






 指定された待ち合わせ場所である、起動エレベーターそばの洋食レストランの前に来た。

「美味しいお店」と抽象的な要望をしたところ「ならここで」とスンナリ決まった。

店外からでも分かるほどに混んでおり、賑やかな話し声がそこら中から聞こえてきた。


「エマさ〜ん、ここで〜す♪」


 店に入るなりクレアが立ち上がり、手招きをして席を教えてくれた。

 席に着くと「人」のウエイターが注文を取りにやってくるとクレアはメニューを見ずに三人分を注文する。


「さてさて、先ずは自己紹介から始めますね〜」


 と言って二人の前にモニターを出す。


 モニターには『情報部特務課所属Bエリア「惑星ラング担当」クレア少尉二十三歳』と顔写真付きの証明書が表示されてあった。

 この証明書は中央政府公認の証明書。所属機関ごとに微妙に様式が異なるが、地方行政府以上の役人や政府関連機関向けの、身元を証明する唯一の手段となる。勿論「照合鍵ユニオンキー」対応で偽造は不可。

 つまり情報部って言うのは本当ってこと。


「私は……」と口を開いたら「エマさんとランさん♪」と先に言われた。


 名を呼ばれたランは不審な人を見る目でクレアを訝しげに見つめる。


「そんな目で見ないで〜これからお世話になる人達のことぐらいは知ってて当然よね〜♪」


 もう来るのが決定事項らしい……なんだかな〜


「その事なんだけど、どうして基地に行きたいの?」


 率直に聞いてみよう。


「ん〜隠し事は嫌いなんでハッキリ言いますと……エマさん、貴方の「四六時中警護」を上から言われましてね」


 私の反応を見ているのか、笑顔のまま僅かに首を傾け覗き込んでくる。


「私? なんで?」


 敢えて惚ける。



 ──どこまで知ってるの? ……いや、知ってるんだろう。



「おかしいと思われるかもしれませんが「理由」は聞いてません。命令は「24時間監視と護衛」とのみ。シンプルですよね〜ハハ」


 ケラケラと笑っている。

 ランを見ると私を見ながら少し呆れ顔をしてみせた。


「知ってるかもしれないけど、今基地はゴタゴタしててね。サラとは直ぐには会えないわよ」


 少しだけ「カマ」をかけてみる。


「構いませんよ。私の任務対象は「エマさんだけ」ですから、そばにいさせて貰えれば」


 私の不安をよそに、ニコやか笑顔で親指立ててグーを突き出してきた。

 どちらとも取れない言動。これでは昨今の基地の騒動に情報部が何処まで関与しているのか読めない。


「もう一つ、何故私を「護衛」するの」


 少し声のトーンを落として話す。


「大丈夫ですよ周りは気にしないで。そばで座っているのは全員、私の部下だから」


 一瞬時が止まる。


(アル⁉︎)

(その通り〜。みんな「丸腰」だから大丈夫だ〜。仕掛けの類いもないし〜。いざとなったら援護すっから話続けたら〜?)


(シャルロット!)

(片時も目を離してはおりませんからご安心を‼︎)


 油断してた……ちょっと


「確認取れました? 続けても?」


 待ってくれていたみたい。

 待っていたということはクレアは探索者の立ち位置と艦との関係仕組みを理解している。

 この店にはアンドロイドがのだと悟る。

 ここまで用意周到となるとクレア少尉はそれなりの立場なのだな、と。


 無言で頷く。


「ここはリゾート地として有名なんで、探索者の護衛任務はちょこちょこ入るんですけど「二十四時間」というのは初めてでして。私なりにちょこっと調べさせて貰ったんですね」


 腕を組んで目を瞑り、頷きながら話を続ける。


「そうしたら何故だか調査部に奇妙な動きが見つかりましてね。上は掴んでいたみたいだけど、末端には情報を下ろしてくれないんです。で、こっちからも問い合わせしたんですけどこういう組織なんでね~星系責任者の私にさえ情報を出し渋る始末でして」

「調査部?」

「はい調査部です。最近任務領域以外に艦を移動させているようです~」

「…………」


 ハンク主任に続き、ここでも調査部の名が出てきた。


「で、文句言ったら終いには怒られちゃいまして。エマ護衛対象の情報だけで仕事しろと」

「私の情報?」

「はい。エマさんの情報。……見ます? 見たいですか?」

「……見せてくれるの?」

「構いませんよ」


 新たに空間モニターが現れ、そこにどこで盗撮したのか私の顔写真付きの氏名、年齢、性別、所属部署、家族構成等、在り来たりなプロフィールが表示されていた。


「ん? これはどういう意味?」


「護衛ランク」の欄があり、そこには『S』が三つ並んでいるのを見付ける。

 クレアに尋ねると、水を一口飲んでから前屈みになり顔を近づけて小声で呟く。


「『SSSトリプルエス』とは「最上位」という意味です。エマさん、貴方何者?」


 と会ってから初めての真顔をしてみせた。

 以前の自分なら引いていたかもしれない迫力。

 だがつい最近の出来事に比べたらこの程度の「圧」には屈しない。


「……私? 私はただの紅茶好きの綺麗なお姉さんよ?」

「そうです‼︎ お姉様は優しくて、綺麗で、とっても面倒見がよくて……」

「ラン、ありがとう。落ち着いて、ね」


 立ち上がって抗議してくれたランに笑顔で座る様に促すと、プンプンしながらも直ぐに座ってくれた。

 座った後も気持ちを表すかのようにちょっとほっぺが膨れたままだった。


「そんなに怒らないでねランさん♪ 貴方も大変ね♪」


 笑顔に戻してから謝る。ランはクレアを上目遣いでジッと睨む。


「あんまり揶揄わないでくれる? こちらはまだ貴方の同行を許可してないのよ?」


 揶揄うというのは色んな意味でだ。

 クレアなら多分分かるだろう。

 これ以上の腹の探り合いをサッサと終わらせるつもりで「同行」という最大の切り札を切った。


 ここは私達のエリア。エリアマスター権限や「探索者特権」も使いたい放題。

 例えそれを行使しても一切罪には問われない。

「探索者特権」について極端な言い方をすれば『自分を害する者から身を守る』という名目さえあれば、星一つ住民ごと消滅させてもお咎めは一切ない。

 さらに探索部の仕組みを知っているなら艦に乗った時点から私達の匙加減一つで行動は制限されるし、外部とのコンタクトも取れなくなるのは想像がつく筈。


 真偽がどの辺りにあるのかは知らないが、私達との良好な関係を望むならこの辺りで駆け引きを止めてくれるだろう。

 それとも駆け引き云々ではなく、ただ単に気を引くだけとか、足止めする気なら実力行使に出てでもサッサと引き上げるだけ。

 ハッキリ言ってこれ以上の面倒事はごめん被りたいところ。

 情報部なら言わずもそれくらいの判断がつくだろう。


「すいませんでした。やり過ぎましたね。謝罪します」


 意外にも素直に頭を下げてきた。


「貴方も立場上、色々あるでしょうけど私達探索者はそういうのは嫌いなの。稀に好きな奴もいるけど……」


 謝罪したので今後を考慮して気を使った言い回しで釘を刺しておく。


「分かりました。お詫びの印にここは私が奢りますね♪」


 クレアがウエイターに指示を出すと直ぐに料理を運んでくる。しかも多人数で。

 四人掛けにしては大きいテーブルに五人もの店員ウエイターが「全種類漏れなく持ってきました!」っといった感じで沢山の料理を一気に運んでくる。

 そのあまりの量の多さに何事か? と周りの客までチラチラと覗き見し始める。


 因みにこの店のウエイターはアンドロイドではなく全員人間。その「人間」が待機していたところを見るに事前に打ち合わせ済みだったのだろう。

 つまりここまでは向こうのシナリオ通り事が運んでいることになる。


 まあ調査部なら速攻で断って……いや蹴散らしていたけど、今のところ情報部に恨みはない。良い印象もないけど……

 今後は変な行動をしたり、有益な情報を出し渋るようなら、軟禁・隔離した上でどこか適当な惑星で放逐すればいい。


 等と考えを巡らせていたら……


「お姉様……」


 ランが腕をツンツンと小突いてきた。


「どしたの?」

「これ……」


 テーブルの上に目が釘付けだ。


 見ると端からはみ出すほどの皿が隙間が無いくらいに並べられていた。


「さあさあ、遠慮なく食べて下さい!」


 両手を広げ満面の笑み。


「はあ〜」


 極端な奴……なんかずっとこいつのペースに乗せられてる。


(アル? ちょっとだけ調べ物してくれる?)

(何を?)

(クレアの過去を根掘り葉掘り)

(面白そう! 任せて〜)



 ──後で取引材料にでも使えればいいけど……






 食後クレアとは一旦分かれ、アルテミスが待っている宇宙港に向かう。

 その際、今まで遠巻きに監視・護衛していた情報部の職員は私達から三mくらい離れた距離まで、人目も気にせず囲むように接近・同行するようになった。


 古代の「ダイトウリョウ」の護衛SPを彷彿させる光景。歩くと異様な雰囲気に人が避けていく。


 そんな状況にランは私の腕にしがみつき怯えていた。私は……全く気にならなかった。

 だっているかどうか分からない外敵? を気にしなくて良くなったから。



 それと提案された条件だが……


 ◯同行者はクレアのみ。

 一人なのは探索部基地には探索者と探索部職員だけで部外者はおらず安全安心。さらに基地もそうだが探索艦もほぼ無敵要塞。

 つまり宇宙空間に限れば何人連れて行こうが「護衛任務」の役には立たない。

 なので通常時は基地の中にいさせてもらうだけで構わない、と。


 ◯エマが地上に降りる際は必ず同行。

 これは現地の情報部員との連携を取る為に、自ら赴き説明する必要があるから、と。


 この二点のみ。

 その程度なら何ら問題は無い。拒否する要因も見当たらない。

 なので了承したが引き換え条件として、


 ◯情報部が持っている「情報」を適時私達に流すこと。

 ◯探索者、特に我々Bエリアの不利益になることはしないこと


 を条件に出すと二つ返事で了承してくれた。

 なので基地内での行動の自由を保証した。

 サラの許可無く部外者を入れてよいものか、ちょっとだけ迷ったが、立入禁止エリアの設定とアルテミスや基地AIに「四六時監視」させとけば問題ないと判断した。


 その結論に至ったのには一応理由がある。

 相手は情報部。監視程度は掻い潜り破壊活動はお手のもの? と思われるかもしれないが、基地内は「自室」と「探索艦」以外は基地AIが隅々まで「掌握」しているので、少しでも怪しい行動を取ればアンドロイドに即拘束されるだろう。


 仮に、仮にだが基地AIの掻い潜り破壊活動が成功したとする。その後に「脱出」しようとしても部外者が基地から「外に出る」手段は限られる。

 手段として真っ先に思い浮かぶのは探索艦と連絡艦だが、乗り込もうと接近した時点で艦AIに即バレるし、そもそも探索者かエリアマスターの許可が無ければ乗り込めないし動かせない。

 残るは探索部運行の定期輸送便だが、それが来るまで逃げ回るのは無理だし、仮に逃げ回れたとしても探索部所有の艦が基地と探索部の施設を行き来しているだけで航路が決まっているのでどの道捕まる。

 そもそも輸送艦も探索艦同様、一般の宇宙船とは根本的に構造が異なるので、密航はどう足掻こうが不可能なのだ。


 つまり真っ先に逃げ道が無いのをクレアに認識させるだけで行動を制限出来る。


 唯一気をつけなければならないのはハッキングで基地や艦の制御権を奪われること。

 ただそれに関しても可能性は0だと断言出来る。


 何故心配いらないのか?

 それはクレアが連れてゆくから。


 まあどちらにしても彼女の言葉を全て信じた訳ではない。信じるかどうかは今後の出方次第。

 ただ情報部とのパイプはあった方が良いのには違いないので、取り敢えずは行動の自由を保証した。



 まあ、暫くは様子見だね。

 あ、この件もサラに丸投げしよっと。

 へへへ、サラの困り顔が眼に浮かぶわ〜

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