第21話 昇給?採掘!
「それじゃ次は私達の番ね」
「はい!」
元気の良い返事。そうだ、いい機会だし……
「ラン?」
ノア・マキ・ランと横並びで座っている三人。右手のランに声をかける。
「はい?」
「二人に説明してくれる?」
「え? 私が、ですか?」
「フォローするから説明してみて」
「は、はい。了解……です」
鋭い目付きの人たちは今はいないんだし、そんなに緊張しなくても大丈夫だ〜
ランは席から立ち上がるとマキ達に向き直る。それから二重惑星に到着した時にいた不明艦や探索艦の残骸のこと。その後に寄ったDエリア基地が無事だった事を正確に、主観を交えず、順序よく説明していく。
「で、よろしかったですよね? お姉様?」
「うん、百点」
「良かった〜」
安心したのか肩の力が抜けていく。
……こういう時にこそ後輩育成をしないとね〜
Bエリアで一番経験が浅いが、一番マトモな性格のラン。そこに「図太さ」が身につけば、将来良いリーダーになれる筈。
そう、サラに怒鳴られても気にしないくらいの「図太さ」が身につけば。
こんな発想が出来るようになったのもハンク主任のお陰。
ついでと説明の間、三人の様子をさり気なく観察してみた。すると気になる点を一つ、見つけてしまう。
それはノア。
説明中、何度か眉間がピクピクと反応していた。
ノアは理論派で重箱の隅を突くような真似はしないが、間違いがあれば遠慮せずに指摘するタイプ。
先程の説明におかしな点は無かったと思うけど。
まあ見なかった事にしとこう……とはいかなかった。
「……ラン。何故エマのことを「お姉様」と呼ぶの、だ?」
鋭い目つきでランを問い詰め始めた。
そっちかい!
「はい? お姉様はお姉様だからです」
勝ち誇った余裕のある笑み。
暫く見つめ合う二人。
「……フ」
ノアが含み笑いを浮かべ視線を逸らす。
「なな何です⁈ その「フ」は?」
「……何でもない、ぜ」
「二人とも
静観していたマキが二人の顔に両手を翳して静止する。一触即発のところで止めに入ってくれた。
丁度いいかと、ノアに向けて説明する。
「ノア。調べれば分かるけど調査の間、私を護衛してくれたご褒美よ」
「それでか! そうかラン役に立ったか! ちぃーとばかし心配してたんや!」
反応したのはマキ。
「はい! 頑張りました!」
「そうかそうか!」
胸を張るランを見ながら何度も頷く。
どうやら昨日のランの様子を見て、マキなりに心配してくれていたようだ。
なら私はこっちのフォローをしておくか。
(ノアにも感謝してるよ? 次はノアとデートしてあげるから怒らないの)
(……約束だ、ぞ。……ム? 次、とは?)
あ、不味った。額から冷や汗が……
(ノアが戻るまでの短い合間にお揃いの服を作ろうと思って買い物してたの。さっき渡したやつがそう)
(……服、か)
(そう、私からのプレゼント♡)
(……勘弁して、やろう)
プレゼントとの単語に目が挙動不審になりソワソワし始めた。
ノアは実はプレゼントには弱いのかも?
こんなやり取りが増えてくると、自分が世渡り上手になった気がしてくる。
いかんいかん、こんなスキルはいらんぜよ!
さてさて仕切り直してっと。
「それでさっきランが説明してくれた中に出た、Dエリア主任が教えてくれた「ヒント」のお蔭で捜索先が少しだけ絞れそうなんだな」
「似た惑星やな?」
「そう。先ずは今回我々Bエリアで挑んだ「遺跡」がある惑星と似た条件のピックアップ作業を基地AIにさせる。そこから手分けしてしらみ潰しに捜索していくつもり。一応、
「でも、それだとかなり時間が掛かりませんか?」
ランが言いたいのは単独行動なら四か所同時に回れるのに、という意味。二人で組むと半分に減ってしまい効率が悪くなるのでは、と。
「それは承知の上。希望的予測になるけど、サラが復帰したら少しは事態が良くなると思う。ただそこまでは待てない。ジッと待つのも性に合わない。そして出来るだけリスクを負わず仲間を探したい」
「はい」
「だから二人一組にした。例え1mmしか前に進めなくても。これが私達が今できる「足掻き」なんだと」
「気に入ったでその足掻き! 案ずるより産むが易しってな! 全てウチに任せとき!」
マキが机を叩いて賛同してくれた。
「うん一緒に頑張ろう! でも明日はお休みね~」
「へ? 何でやねん?」
「まずは行き先の選定しないと。闇雲に行ってもね〜。アル、任せてもいい?」
「任されました。
「そんなに早く出来るの?」
「はい。但し平行してお願いしたいことがあります」
なんやねん願い事って?
「先日からお願いしている資源採掘に行って貰えませんか?」
おお! すっかり忘れてたよ!
「そろそろ在庫ヤバい?」
「いえ、通常分に関してはまだ余裕がありますが、先程から
「ところで特殊な要望? 誰から?」
出すとしたら私達四人だけ。なので三人を見る。
真正面にいるマキと右隣にいるランと目が合うが首を横に振っている。
残るノアを見ると……真剣な顔つき。たまに目を瞑るくらいで一点を見つめ動かずにいた。
犯人はーーお前だーー!
「ノア」
「…………」
「ノ~ア~ちゃ~ん」
「…………」
かなりの集中らしく呼び掛けに反応しない。
「分かった。リストが出揃ったら教えて」
諦めてアルテミスに指示を出す。その時視界に人影が。
マキがノアの脇に移動。隙だらけの脇腹をそ〜とツンツンし始めた。
それにピクンと反応する、がまだまだ集中は続く。それを眺めていたランも急ぎ背後から近づき耳元へフ〜と息を吹きかける。
すると「……ん〜ん」と顔が赤くなってきた。
──この二人はノアに恨みでも有るのだろうか……それともただ戯れたいだけなのか……
「二人とも止めなさい」
話し合いは終わった。そろそろお開きにしようかね。
「あーー忘れるとこだった。お給料のことだけど……」
「お? ボーナス百倍?」
「ワクワク、ドキドキ」
悪ガキ二人はお給料というワードで悪戯を止めると期待を込めた眼差しを向けてくる。
「ちゃんと貰えるって。額は……ハナちゃんとシャルロットに聞いてね」
すると二人は一瞬で黙り込む。今、自艦AIに聞いているのだろう。
あ、行き成り目が点になった
お、今度は瞬きが早くなった。
む? 二人で見つめ合いだしたぞ。
あーーこんなとこで熱い抱擁するなんて……
さて今の内に
(ハナちゃん、シャルロット、アシ二号。ちょっと行ってくる。誰も近寄らせないでね~)
(((了解しました〜ごゆっくり〜)))
どこに行くのか、何しに行くのか、分かっているみたい。
搭乗者達とは違い皆素直でおりこうさん。
自分の世界に浸かっている三人を残しサラに会いに行く。目的は本日分の報告。
今日は医務担当アンドロイドはいなかった。
サラがいるカプセルまで足音を立てて近付く。
脇にはご丁寧に椅子が置かれてあった。
これもアルテミスが用意してくれたんだと思う。
モニターでサラの状態を確認するが昨日と変わりなくバイタルは安定している。
培養している部位もすくすくと育ってきており全てが順調。
良い意味で変わりが無いことに安堵してから椅子に腰掛け、頭部がある方へ向き直る。
そのまま
一通り話し終えると最後は笑顔に。
「ハンク主任が遊びに来いって。決着をつけるぞって言ってたよ」と言葉で伝えた。
二、三度瞬きをしてから立ち上がり、みんなの所へと戻る。
通路を飛びながら、皆に連絡を取るとまだ会議室にいた。
ちょっと遅いが昼食に誘うと全員OKとのことだったので待ち合わせをし揃って食べた。
その後は各々基地生活に戻る為の準備を始めるために暫しの解散。自由行動とした。
私は自室に戻った。
我が家に戻ってきたのは私服に着替えるため。
何日ぶりかの我が家。
相変わらずの殺風景だがここに来るとやはり落ち着く。
食事の時にみんなと話し合った結果、基地生活に戻るにあたり以前と同じく私服に戻す事に決めた。
宇宙服を脱ぐ。
この心情の変化は色々な要因が重なった結果。
レベル4になって色々分かってきたこと。そしてDエリアでハンクに会えたところが大きい。
この二つが無ければ未だに艦生活を続けていたと思う。
私は変われたがあの三人は違う。
私はエリアマスターになり情報に触れたから割り切れたが、何も知らない三人は不安で堪らないだろう。
だからこそ
率先して宇宙服を脱ぐ決断をした。
少しでも不安解消に繋がるならと。
因みに
大切なものは、世界で一番安全な
久しぶりに下着を身に付け私服に着替えた。
ここ数日、常に宇宙服だったので久しぶりの生地の感触が新鮮に感じられた。
着替えてからベッドに横たわる。
行き成り色んな事が起きたけど、
全員普通の年頃の女の子だしね。
あと食事や娯楽施設などは基本、自分が奢ることとした。
収入が驚くほど増えたが、今のところ全く使い道がない。
それならみんなのために使おうと決めた。
その代わりに資源採掘には私は強制参加と三人に快諾させた。
ノアも収入が増えて純粋に喜んでいた。
副業で結構稼いでいたんじゃなかったっけ?
気になったのでアシ二号に聞いてみたら、漫画の収入はミアとの共有財産になるらしく、双方が納得出来ないものには一切使えないとの取り決めがあるらしい。
なので自由に使えるお金が増えて喜んでいる、との事だった。
姉妹なのに結構シビアな関係……
と思っていたらノアからメールが届いた。
アシ二号との内緒話がバレたのかと一瞬ドキッとしたが、どうやら帰還後に情報共有したデータの中から、調査中にアルテミスが持って帰ったDエリアの探索艦の残骸を見つけ出したらしく、その一切合切が欲しいとのお願いのメールであった。
そこで「何に使うのか」と尋ねたところ「自衛のための装備製作」との返事が返ってくる。
今のところ「お守りアイテム」以外は役に立っているので素直にOKを出す。
アルテミスには相談されたら協力するようにと伝えておく。
その際、基地の復旧状況の報告を受けた。
メイン電源はあと二日で調整完了。メインAIの最終調整は四日以内に終わるとのこと。
AIは新たにDエリア基地から貰った基本システムのお陰で、もう少しで様々な機能が使えるようになる。
ただ数日前の状態に「より」近付けるには積み重ねてきた「経験」が必要。
なので情報共有により各艦AIに残されていたアップデート情報や四艦分の「様々な記録」も併せてインストールする予定でいる。
予測では二日後には通常業務に支障のない範囲まで使えるようになると。
それを聞いてふと疑問を抱いたので聞いてみたら、アルテミスら艦AIが収まっている箱は人の背丈の倍くらいの大きさだと教えてくれた。
基地AIは物理的に探索艦AIの何倍もの大きさの機器。にも関わらずスペックは大差ないらしい。探索艦AIの性能には驚いた。
ただ一概には比較出来ない。
基地AIは私達や艦の面倒を見るだけでなく、広大なエリア管理や膨大なデータの蓄積までしているのだから、本体が大きくなってしまうのは致し方ない。
因みに基地AIとは違い、探索艦のAI本体はブラックボックスとなっており、探索部本部にある『工房』でしか製造及び修理は出来ないので覚えておくようにと注意を受ける。
それ以外の機材に関しては各基地からオーダーが入った場合のみ、必要量を送ってくるので各基地でも修理が行えるとのこと。
ただし手に入れるには条件が。
探索艦に使われている機材は探索艦専用に開発された物や専用チューニングを施した物が殆どで、探索艦は部の存在も含めて国家機密の性質上、エリアマスターからの申請が必須となっている。
どんな事情があろうとも、例え探索者や基地職員が懇願しても、おいそれとは応じてくれないらしい。
それが偶然にも手に入った。いやハンクはそれらを
そして待望の基地AIがもう直ぐ復活する。
ノアは賢いのでその辺りの事情はさっしているだろう。
だからこそ悪い事には使わない。
だから二つ返事て許可を出した。
──でもそれらを使ってノアは何を作ろうというのだろうか? まあアレコレ言わない方がノアの能力を活かせると思うから放っておくかね……
今は久しぶりの一人。
取り急ぎの用事もない。
夕食までの時間を考えるとキラキラ石……じゃなかった、採掘に行くには時間が物足りない。
採掘は効率よく、さらに気持ちよく回りたい。
採掘リストはいつ頃出来上がるのかな……
ベッドで横になったまま、逸る気持ちを抑えて目を瞑りアルテミスを呼び出す。
(アル?)
(はい?)
(採掘リストはいつ頃出来上がる?)
(もう出来てますよ)
(そう、みんな近場で済みそう?)
(大体は……ただ一箇所を除いて)
(……なんか嫌な予感がするんだけどね〜〜)
(はい、多分その「感」は当たりですね〜〜)
(……でどこよ?)
(マキノアが行った「遺跡」がある惑星です)
(…………)
(…………)
(分かったわよ! 行けばいいんでしょ⁉︎)
(はい、よろよろ〜)
どうやら強制クエスト発生のようだ。
(明日でいいよね?)
(はい)
みんなにボイスメールしとこ。
『皆の衆へ
今日は疲れたので寝ま〜す
食事は各自好きに食べてね〜
あまり飲み過ぎないように♡
明日は一日お休みで自由行動としま〜す
私は資源採掘に行ってきま〜す♡
現在参加者募集中〜!
我こそはという勇者は10:00に待機室集〜合〜♪』
棒読みで録音を残しそのままふて寝した。
久方ぶりに服を着たまま。
疲れていたのか、それとも安心したのか翌朝まで一度も目を覚さなかった。
翌日の待機室。
入ると期待を裏切る「勇者」が一人いた。
若葉色の宇宙服を着たノアだった。
部屋に入ると1人掛けソファーに座り、澄まし顔で緑茶を飲んでいた。
「おはよ!」
と言いながらノアに近づく。
ノアはズズズとお茶を飲み干すと、小さく「……おは〜」と言って立ち上がる。
「他は……いないか」
「……二人は多分寝ている、ぞ」
「そうなの?」
「……てか昨日遅くまで「昇給祝い」で飲んでたから、ね」
「ノアも?」
「……私は途中で抜けた、よ〜ん」
ふ〜ん、よっぽど嬉しかったんだね。まぁ
「朝ごはん食べた?」
「……まだこれからだ、ぞ。エマは?」
「私もまだなんだ。どうする?」
「……実はこれを作って貰った、ぞ」
と言って脇に置いてあった風呂敷包を広げた。
なんと風呂敷の中には銀紙に包まれた「オニギリ」が大量が入っているではないか。
「……職員食堂のおばちゃんに作って貰った、ぜ」
おばちゃん?
あーあの割烹着を着た、どこから見ても同じ髪型の特殊アンドロイドのおばちゃんね。
確か口癖が「マグロ〜」と「コンブ〜」だったか?
職員食堂も日替わりで担当アンドロイドを替えており、さらに味付けも微妙に変えてくる。
その中でも人気トップを独走しているおばちゃんは特に忙しい? らしく滅多に現れない「レア」アンドロイド。見掛けたら迷わず連絡網が回ってくるくらい料理に定評がある。
とりあえず一個食べる。
中身は……野沢菜漬け!
う〜ん、ミソスープが飲みたい。
「……余ったのはお弁当にしようか、ね」
「そうね。お腹も膨れたし早速行こうか」
「……ところでどこまで行く、の?」
「あ、そうか。リスト渡すね」
すっかり忘れてたよ。
アルテミスからアシ2号にデータが渡るとノアの前にモニターが現れた。
「……これ、最後の惑星にも行くの、か?」
「んーーーー私の……「個人的仕事」かな? 嫌?」
「……分かった、ぞ。私も半分は「仕事」というか「約束」だ、ぞ」
「ありがと」
そう言ってからそれぞれのドックへと向かう。因みに風呂敷包はノアが持っていった。
採掘作業開始。
1回目某惑星。
「フン♪ フン♪ フン♪」
上機嫌だ。
艦突撃粉砕→回収・分別・圧縮。巨大な山脈が三分も経たずに消えた。
二回目某惑星。
「フン♪ フン♪ フン♪」
上機嫌だ。
艦突撃粉砕→回収・分別・圧縮。大陸に巨大なクレーターの出来上がり。
三回目某小惑星。
「フン♪ フン♪ フン♪」
上機嫌だ。
艦突撃粉砕。空いた穴から向こう側が見えた……
予定の採掘終了。
合体して一緒に昼食のオニギリを食べている。
「大漁大漁! 後で「鑑定」するのが大変ね♪♪」
「……さ、最後は採掘なの、か???」
「ん? そうよ……何?」
「……回収してない⁈ ……いえ……なんでもありません、ね……」
お茶を持つノアの手が小刻みに震えていた。
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