第22話 遺跡!怪しい艦2


 昼食を終えそのまま「遺跡」がある惑星の静止軌道上にやってきた。


『……あそこだ、ぞ』


 教えてくれた座標を拡大してみると確かに足跡らしきものが残っていた。

 木々の間の小道から木造の家屋跡らしき建物へと一直線に伸びる足跡。建物の前には暫くその場に留まっていたかの、踏み荒らされた足跡の脇が。

 その足跡は隣にある廃墟……いや「遺跡」には向かわなかったようで、来た道に沿って引き返していた。

 その映像を見ながら大きなため息をつく。



 ──さて、どうしたものか……



 やっぱりあそこに行かないと……ダメっぽいね。

 でも行ったら……また意識を失うかも。

 それでも行かないと……


 自分の体に何が起きているの?

 今は気を失うだけで済んでいるけどこの先は……


『……エマ?』


 呼び声で現実に引き戻されモニターから目を離す。


 自分の都合でここに来た。返事をしない訳にはいかない。 

 曖昧な気分のまま笑みを返す。


「……うん、ちょっと行ってくる。フォローよろしくね」


『……分かった、ぞ。ここから見てる、ね』


 心配そうな顔。一切訳を聞かないノアは本当に賢い子。彼女らを育てた親はさぞかし立派な人物なのだろう。

 軽く手を振り降下を開始する。

 そうだ、今の内に確認しておこう。


(アル、ノアがいても問題ない?)

(はい)

(ホントに? 機密的な部分で)

(レベルにはいくつかの概念があり情報を「得る」場合、あくまでもこちらから情報開示が出来ないというだけで、自らの意思で関わろうとする行為自体を阻止する訳ではありません。但し知り得たことを口外しようとした場合には阻害、又は干渉が入ると思います。勿論偶然も有り得ません)

(つまり見るのは構わないが喋るな、と)

(はい、それなら誰も傷つきません)



 ──ノアなら大丈夫……察してくれる。



 降下中に降りられそうな場所を探す。あるのは事前に説明があった開けた空間だけだった。

 大した距離でもなさそうなのでそこへ向かい木々の先端スレスレまで降下し、そこから艦の一部を地面まで伸ばして降りようと考えた。

 その方法を使えば「遺跡」そばに降りれるだろうとの声も聞こえてきそうだが、あの状態の建物に艦が近付けば重力震の影響で一瞬で「廃墟」と化してしまうだろう。


 目標まで約100mの距離。

 降り立つと草が踏みつけて出来た道が「遺跡」の方へと一直線に続いているのが目に入る。



 ──誰かさんもここから向かったのかもね……



 足跡を辿って木々の中へと入って行く。

 普通の惑星ならば鳥や動物がいて結構賑やかなのだが、ここはその手の気配が一切感じられない。

 恐ろしいと思えるほどに静かな空間だった。

 四方が山に囲まれているせいか風も無く、動くモノはアルテミスから漏れ出ている重力震に影響を受けた木々や草花だけだった。


 光があまり差し込まない暗い木々の合間の小道を抜けるころにはその音さえ聞こえなくなっていた。


 そして突然視界が開ける。

 暗闇に慣れた目には眩しく感じ、手で光を遮りながら目を瞑る。

 数秒経ってからゆっくりと目を開けると目的の「遺跡」と「廃墟」が見えた。


 先ずその場から「遺跡」の観察を始める。

 隣の「廃墟」とは異なり元々壁が無かったからか、数本の柱を残して天井部が全て落下しており「ほぼ崩壊した」状態。

 ここで「あるモノ」が思い浮かぶ。

 そう「あの建物」に似ている。造りや構造、細工に至るまで多くの共通点が見つかった。

 ただ規模はかなり小さいが。


 隣に目を移す。こちらも所々崩壊が進んでいるが「遺跡」と比べればまだ原型を留めており中にも入れそうだった。


 その二つ以外で目立つ点といえば足跡。

 私の数歩先から草一本生えていない地面。そこには映像にあった足跡がくっきりと残っており「遺跡」ではなく廃屋の方へと続いていた。


 早速チェックを始めようと「遺跡」に向かう。

「遺跡」の数m手前まで近づくと、崩れ落ちた屋根の残骸が足元にまで散乱しており、文字通りの足の踏み間もない状態であった。

 それを見てこれ以上は近づけないと判断する。

 特に目に付くモノも無さそうなので隣りの建物へと移動する。


 こちらは「遺跡」に比べるとかなりマシで、入り口の扉以外は辛うじて原型を保っていた。

 近づくと、入り口であったであろう木で出来た片開きの扉は蝶番が外れて地面に転がっていた。

 木窓は辛うじて嵌っているがいつ落下してもおかしくないくらいボロボロだった。


「足跡」だが丁度私がいる位置で止まっており、ここから先には一歩も進んだ形跡がなく、この場に留まっていたようだった。


 転がっている扉を横目に入口へ。そこから中を覗き込む。

 明るい所から暗い中を覗いたからか「暗順応」に時間がとられる。直ぐに目が慣れ徐々にだが中の様子が見えてきた。


 中は小さなリビング? と奥にはまだ部屋が続いていた。

 窓にはガラスなどはなく、観音開きタイプの木製の板で仕切られているだけ。

 この惑星には虫や小動物の類はいないようだし、気候も安定しているようなので、なくても困らなかったのかもしれない。

 その戸の隙間から光が差し込んでお陰で辛うじて室内が見えているが、光が当たらない所は真っ暗で目を凝らしてもここからは良く見えない。

 ただ内部は外見程、傷んではいないのだけは見てとれた。


 一通り見終え中に踏み込む。

 土足のまま上がり込んだ先は小さなリビング。そこには椅子が二脚と正方形のテーブルが一つ置いてあるだけ。

 部屋の1/3まで進むと目が慣れてきたので、奥の部屋に「何か」が置かれてあるのに気付けた。

 だかここからではそれが「何か」までは分からない。


「お邪魔しますよ〜」


 誰に言った訳でもなく断りながら中へと進んでゆく。

 部屋の中央に置かれた椅子とテーブル。

 奥に進もうとした際、足元に不安を覚えたので無意識に埃が積もっている椅子に右手が触れた。


 その途端、目の前が真っ暗になった。




 ・・・・・・




「こんな所まで連れて来たと思ったら放置して、自分達はサッサと引き上げちゃったよ!」


 正面に座っているの黒髪のショートヘアの少女が、何かを飲みながら文句を言っている。


「しょうがないでしょ? こうでもしないと集中出来ないでしょ?」


 口を動かしていないにも関わらず何故か自分の声が聞こえた。


「でもさ〜本当に成功するのかな〜」


 黒髪の少女が口を尖らせて飲み物を見つめながら呟く。


「するのかな〜? じゃなくてさせるの! 私達が!」

「そうだね! 私達二人でね!」


 笑顔を私に向けて言った。


 綺麗なロッジ風の木造の家の隅には大量の荷物が山積みされている。ガラスのない窓からは太陽の光が差し込んでいて、部屋の中を明るく照らしていた。

 家の中で家具と呼べるような物はこのテーブルと椅子、さらに奥の部屋にベットが二つ置いてあり、その上には柔らかそうな布団が敷いてあった。


「さあサッサと片付け始めましょ!」

「うん! でもその前に……お腹空いた!」

「もう! しょうがない。先にご飯にしましょうかね!」

「やったーー!」


 黒髪の少女は大喜びだった。




 ・・・・・・




 そこで意識が戻る。

 暗くて寂しい部屋。

 椅子に触れた状態で立っていた。


 そのまま動かずに埃が積もったテーブルと椅子を見る。



 ──同じ物だ。



 先程の明るくて暖かい部屋を思い出しながら辺りを見渡す。

 暗闇に目がだいぶ慣れたのか奥まで見えるようになっていた。

 奥の部屋に向かうと……枠組みだけの木製ベッドが二つ。他は何も残されていなかった。



 ──ここも同じ。



 振り返り再度椅子を見る。



 ──がここにいた……



 エマの脳裏にはがクッキリと蘇っていた。初めて気を失った時に見たあの光景が。

 今の今まで忘れていたが、今はハッキリと覚えている。

 あの時に出てきた二人の少女。そして今見た少女達が同一人物だということも。



 ──もしかして残留思念的なもの?



 なんとなく、だがそう感じた。

 そう感じてしまったのはあの光景を思い出したから。

 あれは仲の良かった二人の少女の別れの瞬間だった。

 あの後はどうなったのかは知らないが、ここの荒れ果てた状態を見るにかなりの年月が経っていると思う。

 もしかしたらもう生きてはいないだろうと。



 ──私に何か伝えたいの? 私は貴方達を知らないのに、どうして私になの?



 ──もしかしてあの子達が「あの方」なのかも……



「あの方」はあの二人の事なのだろうか……と思ったところでまた意識を失う。

 今度はその場に力なく崩れ落ちた。





 目を覚ますと後頭部に温もりを感じた。

 次に顔に光る何かが落ちてきた。

 ぼやける視界の先にはノアの顔。


「……やっと起きた……か?」


 心配そうに覗き込んでいる。



 ──ここは……



 まだ意識がボーとしており問いに答えるだけの気力が湧かない。焦点の合わない目で周囲を見回す。


 先程と変わらぬ暗い部屋。

 脇には椅子とテーブル。

 その脇で床に横たわっている私。

 今はノアが膝枕をしてくれているみたい。


「ん、お……はよ」


 目を閉じて無理やり笑顔を作りながらやっと返事をする。

 すると軽く額を撫でられた。

 ノアの顔を見ると、目元から涙が溢れて私の顔にポタポタと落ちてきた。


「ゴメ……ンね……心配……かけちゃったね」


 力の入らない手を何とか伸ばしノアの頬を優しく撫でる。

 ノアも何も言わず私の額を撫で続けた。

 そうしている内に手足に力が戻ったのでノアの手を優しく掴むと、一度ゆっくりと、大きく深呼吸をする。

 それから手を離し、ゆっくりとした動作で立ち上がる。

 そのままノアに向き直りこちらを見上げているノアに手を差し出す。

 差し出された手を躊躇いながらも掴んで立ち上がると、勢いそのまま私に抱きついてきた。

 ノアは暫くの間、私の胸に顔をうずめて無言で泣いた。


 不可抗力、だが予測は出来た。にも拘らずノアに辛い思いをさせてしまった。

 せめてものお詫びとノアが落ち着くまで頭を優しく撫で続けた……




 暫くして廃屋から出るとアルテミスとアシ二号が私達を迎えに、木々の先端付近までギリギリまで艦を降下させて待機してくれていた。


「ドウヤラ無事ノヨウデスネ」


 アシ二号も心配してくれていたみたい。


「…………」



 ──アルテミスこいつは何も言ってこない。



「……おう、ぞ」


 ノアは……いつものノアに戻っている。


「トコロデ先程カラ隣ノ惑星ヨリ、何カ信号ノヨウナモノヲ発セラレテイマスデス」

「信号? どんな?」

「意味不明ナ……確定デキマセンデス。因ミニ丁度、エマサンガ倒レラレタ辺リカラ、発信サレ始メマシタデス」


 私が倒れた時? と聞いてノアを見る。ノアも私を見る。


「……行って、みる?」

「そうね。後は帰るだけだし……ちょっと寄ってみるか」


 何かの手掛かりかもしれない。

 艦に乗り込みそのまま上昇。隣の水の惑星へと移動する。





『コノ辺リナンデスガ』


 信号が出ているらしき海の直上の静止軌道に到着。真上から海面を見下ろす。

 現在該当地域は天候も良く波も穏やか。主星の光りを反射しキラキラと輝いている。


 この壮大な大自然をリアルで体感出来るのは、世界最高峰の性能を持った探索艦を操れる探索者の特権だと思っている。

 私やエリーが球体内コックピットに座席を用意しない理由はここにある。

 球体モニターがありのままの素晴らしい世界を映し出してくれるのに、シートなどで視界を遮ってしうのは勿体ないと思っている。だから私達は真空空間に身一つで漂う世界を選択堪能した。


 だが今は景色など気にしていられない。

 ここを調査した回数は今回も含めれば三回。三度も調査して何も見つからなかった。にも拘らず「変化」が起きた。

 偶然だとしても景色程度で折角起きた「変化」を見逃すが訳にはいかない。


 軌道上に到着と同時に探査を行った。

 探索艦の機器の性能は折り紙つき。惑星程度、中心核の中心点まで容易に調べられる。

 なのだが何度調べても何も


 未だに信号を出し続けている見えない

 その信号の発信位置だけは既に判明している。真下のかなり深い海底付近。


『……仕方ない、な。クモガクレハンゾウ君、初陣、だぞ』


 アシ二号から「イルス君」と同じ形状・大きさの物体が分離し海へと「落下」していく。


 今回の向かう先は海。なので隕石よろしくプラズマの尾を引きながら物凄い速度で海面へ突入してゆく。

 衝突余波で数十m級の大津波と水蒸気が発生、円状に広がってゆく。

 その様子をモニターで直上から眺める。


「……「クモガクレハンゾウ君」の性能は?」

『……名の通り「隠れる事柄」に特化した「ニンジャ」なのでごじゃる、ぞよ』

「おお! ニンジャ? ハラキリ? チリメンドンヤ?」


 とりあえずそれ風な知っている単語を並べてみた。


『……まあ見て、なって』


 またスルーされてしまった……


 ハンゾウ君から早速、海中の映像が届く。

 海中には小型の魚は多くいるが大型魚の姿は見当たらない。

 先程の衝撃で何処かに逃げてしまったのかもしれない。


「これどうやって移動してるの?」


 結構な速さで潜っている。モニター映像の揺れ具合からスクリューではないと思う。


『……こうやって、だぞ』


 椅子から立ち上がると両手を真っ直ぐ上にあげ、真剣な顔つきで腰を左右に降り始めた。


「か、可愛い〜♡」


 その仕草を見てまた言ってしまう。

 ノアは顔を真っ赤にするとその体勢のまま固まってしまう。


『先生! アソコニ何カアリマスデス!』


 ハンゾウ君が何かを見つけたようだ。

 とりあえずノアは後回しにし海底が映った画像に向き直りその「何か」に集中する。


「何だろう……」


 映像は加工処理後で昼間の様に明るい。

 辺り一面砂で覆われた海底に、所々岩が顔を出しているだけの生物が存在しない殺風景な世界であった。

 そこをクネクネとゆっくり進むハンゾウ君。すると先に巨大な黒い物体が現れた。


「こ、この色は!」


 見たことがある、というか先日もDエリアの二重惑星で自分達もしていた、隠蔽迷彩状態の探索艦。


 迷彩中の艦をこんなにしっかりと認識出来るなんてハンゾウ君てば凄い!


「という事は探索艦確定!」

『……の様だな、っと』


 お、ノアちゃん自動復帰!


『……ハンゾウ君からのデータによると……探索艦だ、な』

「いや、見れば分かるでしょ!」


 思わずツッコんでしまった。


『……どうする、多分だが中に人がいると思う、ぞ』

「根拠は?」

『……質量、かな』


 それを聞きいて、


「行こうノア!」


 と叫んでいた。


 白色卵型のまま降下を始めるアルテミスとアシ二号。

 ハンゾウ君と同じ道筋。だがこちらは自由落下では無く加速しながら降りてゆく。

 そのせいで遠くからでも分かるレベルの巨大なプラズマの尾を引きながら、まるで上空から光線が発せられたかの如く一直線に海面へと突っ込んでゆく。

 降下にともなう「G」や衝撃などは球体内コックピットに重力制御を働かせているお蔭で搭乗員は何も感じない程に穏やか。

 だが海面には衝撃の凄まじさを表す様に、数百m級の巨大津波が発生していた。

 この津波は遮る物が殆どないこの惑星では一周してこの場に戻ってくる事になるだろう。


 この惑星には人はいないし陸地も無い。開発すらしていないなら津波が起きても誰も困らないと「無い無い尽しないないづくし」なのだからと気にせず、ハンゾウ君の誘導シグナルの方へと進んでゆくとボンヤリと黒い「何か」が見えてきた。


『……分かり難い、な。ちょっと待って、て』


 と言いノアがアシ二号に指示を出す。

 するとモニター内の「何か」がくっきりと見えるようになった。


『……ハンゾウ君と我々の艦のセンサーをリンクさせた、ぜ。これなら覗けない物はない、かも?』


 疑問形なんだ……あたしゃ素直に凄いと思うよ? だからもっと自信持とうぜ!


「さて、どうしようか」


 そうだ、ノア先生に聞いてみよう!


『……ここじゃ面倒めんどいから、一先ず宇宙まで上げようか、の~』

「分かった。じゃあ持ち上げて下から押そうか」


 アルテミスとアシ二号が薄く網状に延び、沈んだまま動かなくなっている探索艦の下の砂にめり込ませる。

 そして真下で合体・抱え込むと、反重力装置の力で引っ張り上げ始めた。

 超高圧力下と一見大変そうに思えるが探索艦には造作もない作業。


 球体型になっているハンゾウ君がその作業を遠巻きに眺める。そのハンゾウ君からの映像も空間モニターに映し出している。

 反重力炉から発生する重力震の影響で海底の砂や泥が小刻みに揺れ始め舞い上がり始める。

 視界が悪くなる前に艦が浮く。浮いてからは速度を徐々に上げていき、海面に達する頃には水抵抗をものともせずに音速近くまで速度を上げていた。


 二艦は青空の下に数百m級の水柱と津波を起しながら、一気に大気圏外へと飛び立つ。

 因みにその様子をハンゾウ君が撮影しながら後から付いていく。


 静止軌道に戻ってきたところで停止。そこで一旦分離し距離を取る。


「それじゃ早速調べてみようかね」


 先ずは通信から試そう。


「えー聞こえますか? あなたは誰ですか?」


 棒読みで問い掛けたが反応ない。未だに出続けている信号にも変化は見られない。


『……殴る、か?』


 ファイティンポーズをしながら物騒な事を言ってきた。


 ちょっとやそっとの衝撃を与えても中の人間には伝わらない。

 ノアもそんな事は承知の上で言っている。

 別の意味でのショックを与えろという意味だろう。


「う〜ん……それは最終手段で」

『……そう、か。やるならいつでも言って、ね』


 とりあえず愛想笑いを返しとく。


『コチラカラノ通信ハ受信シテイルヨウデスネ』

「……それなら手はあるか。アル? レベル4で通信」

「どうぞ」

「貴艦の所属と名前及び搭乗者の氏名を名乗りなさい」


 ここはBエリア。私のレベル4権限は有効の筈。


『反応アリマセンデス』


 フッ……困ったぜ。さてどうすっか?


『……乗り込もう、ぜ』


 ノアの口元が少し釣り上がってきた。

 さっきから悪い子モードになってるね。


「それが手っ取り早いか。このまま放置もできないし」


 腰の銃に目をやる。

 お守りアイテムはちゃんと持ってきている。

 でもまさかこれを使う日がやってくるとは。

 てかまだ練習もしてないよ? 「ポチッとな」しか……


 でもこの艦はなんであんな所に沈んでいたんだろう? 隠蔽状態で。姿隠している割には信号を出したりして。


 ただ制圧するなら反応がない動かない今しかない。

 いや罠かも……


 いかんいかん。また悪い癖が出ている。

 今回は私達のテリトリーで陰湿な行為? をしていた奴をとっ捕まえて天誅を下すのだ!

 正義は我にある! それでいい!


「ノア、そちら側に「穴(つうろ)」を開かせるから乗り込んで。私は反対側から行く。ハンゾウ君には周囲警戒をさせて」


『……分かった。合わせる?』


 お互いの声に緊張感が滲み出ている。


「勿論! また連絡する」


 無言艦に向き直る。


「アル! 再度レベル4エリアマスター権限であの艦に命令! 『我々とドッキングせよ! さらに「通路」を開け』と」

「…………信号を受信。ドッキングは了承されました」


 お? 今度は素直じゃん。

 搭乗者自分の意志か? それともやっと艦AIにレベル4の命令が届いたのか……

 どちらにしてもやるなら今しかない!


「ノア! 突入準備!」

『……了解』

「アシは周囲警戒とアルのバックアップよろしく!」

『了解デス』

「アル! に注意! 「乗っ取り」ヨロシク!」

「了解」


 白色卵型の二艦が黒色球体を挟む形で素早く寄って行くと間もなく艦同士が接触。


「アル! 合図と同時に穴を繋げて! ノア、穴が開い開通したら即突入!」

『……いつでもいい、よ~ん』


 銃を持ち、構える。

 弾はスタン弾。

 探索者なら宇宙服に当てても効果は無い。なので覆われていない頭部を狙うしかない。

 被殺傷系のスタン弾なら頭部保護シールドも作動しないだろう。たぶん……


 ま、どっちにしても当たらない……だろうけど。


「みんな行くぞ……GO‼︎」

『……各々方、討ち入りで、ござる!』


 合図と同時に穴が開いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る