第15話 宴会前!会議?
二人が戻ってきたので自艦へと戻る。そのまま出航し基地から10km程と目視可能な目と鼻の先で集結。昨夜と同じく「寛ぎスペース」を作った。
「さて(宴会を)始める前に明日の予定を決めときましょう」
乾杯の後、ジュースが入ったグラスを置く。
因みに今回は今後の予定を話し合うので、話し合いが終わるまでは全員アルコールを禁止とした。
全員の目の前に空間モニターが現れ、そこに偵察艦が軌道上から撮影した「遺跡」がと思われる物が映し出される。
「まず「遺跡」が見つかった宙域。ここはシャーリー達が行っている筈なので、なんでも構わないから彼女達がいた痕跡を見つけて欲しいの」
そこへと向かう予定のマキとランに説明を続ける。
「あとは「遺跡」ね。これについては痕跡調査で思わしくない結果の時のみ接近、調査対象とする。ただし大気圏内への侵入、該当惑星への着陸および「遺跡」への接触は厳禁とします。なので軌道上からの調査のみとします。それと自艦のAIに僅かでも違和感を感じたらその時点で撤収。これは約束というよりも命令」
「「了解」」
──気づいた時には既に手遅れだと思うけど……
本来なら私が先頭切って向かうべきだが、現状では幾つか問題を抱えておりここから離れられない。
先ず基地AIの件。
基地AIメインシステム入手の目途が立っておらず、ここからアルテミスを連れだせない。
そして私自身の問題。
何も分かっていない状態で「遺跡」に近付いて良いものか。正直言えば近寄りたくない。
さらにアルテミスは私を「最有力候補」と言っていたが裏を返せば「候補」は他にもいるとも言える。
それが誰を指しているのかは分からないがここにいる三人ではないとは断言はできない。
これは他の者にも言える事だが、近付けば私自身に何かしらの変化が起こる可能性が高い。
起きた場合、ここでの経験から残された三人でその「何か」に対応しきれるとは思えない。
──待つのが……いや、行かせるのがこんなに苦痛に感じるなんて……行方不明の仲間の誰かが見つかるまでこの状態が続くのか……
でも向かう者もその不安を抱えている筈。
むしろマキ達が帰ってきたら私がおらず、再び基地が穴ぼこだらけなんて事態もあり得る。
──あんな嫌な思い、この子達に二度と味わせたくない……
「しかしこれが「遺跡」か……。何やどっかで見たような……」
「同じく」
悩んでいたところに話し声が。私の心配をよそに三人共モニターに目が釘付け状態。
気持ちを切り替え、改めて「遺跡」を眺める。
モニターには
「「あ、あの星!」」
ランとマキが同時に叫ぶ。
二人が言うには私が気を失った惑星にあった、あの建物に雰囲気が似ていると。でもこちらは完全に屋根は崩壊しており、床にもかなりの大穴が空いていて「遺跡」というより「廃墟」に近いのではないかと。
因みに私は気付いたら建物の中にいたので、似ていると言われてもピンとこない。
惑星の表面は山脈と海が殆どで、人が好んで住みたいと思う場所とは思えない。
これが人が住むのを前提として建てられたのなら、この惑星全体を人が住むのに適した環境に改造している筈。
にも関わらず改造した痕跡が見られない。
もう一方の隣の惑星はほぼ全面が海。陸地は数カ所に点在しているのみ。
こちらの海も……組成から人の手が加えられてはいるが、やはり開発は一切なされていない。
肝心の遺跡と思われるその建物……いや廃墟がある場所は周囲が高い山脈に囲まれた小さな盆地の中にあった。傍らにはもう一つ崩れかけているが同じく木製の簡素な住居跡らしき物が見える。
この建物の素材や構造は、仮に我々人類が使っていたとしたら、宇宙に出るのに真空管を使う前の時代の建築技術レベルということになる。
そんな時代にこんな所に来れるわけない。逆にここまで来れる文明レベルならば、趣味でもこんな建物を使うとは思えない。
いったいここは何なのだろう……
このタイミングであの「草原惑星」の探査数値の結果を聞いていないことを思い出す。
後でアルに聞いてみよう。
「……エマは気になることがあるの、か?」
悩んでいたのに気付いていたのか、ノアが心配そうな表情で訪ねてくる。
「正直、ある。けど今は……そこには行けない」
「……何故行けない、の?」
「今は……進めたくない。先には……まだダメ」
話せる事と話せない事。そこに感情が絡み合い上手く表現出来ない。
「エマさん」
ランが伺うように私の顔を覗き込む。
「ならみんなで行きません?」
言い終えてから笑顔に変わる。
「
そこにマキが割り込む。
「メインAIも七割方は復旧していますし、現状維持ならば問題はないかと思います」
確かに現状維持であれば問題ない。
「……私は反対だ、ぞ」
今度はノアが割り込む。
「何故?」
「……エマが行く必要がないから、だ」
ランに瞬きせずに冷めた視線を向けて答える。
それに対してランはノアではなくエマやマキに向けて口を開いた。
「確かにサラ主任や皆さんの怪我は心配です。姉様やみんなの行き先を探すのも重要です。でも今回の出来事は全て「遺跡」が絡んでいる様な気がしてならないんです」
立ち上がり力説するラン。
いつもなら受け身で自分の意見を言わないが今回は何故か積極的に感じてしまう。
皆が感じる違和感の理由は直ぐに判明する。
「も、もしそこでみんなの手掛かりが見つからなかったら? もし主任達の意識が戻らなかったら? 惑星が突然現れたなら、ドリーみたいに突然消えてしまうことだってありえませんか?」
顔を真っ赤にしながら涙目で訴え続ける。積もり積もっていた感情が溢れ出すように。
「エマさんも行けば……みんなで行けば……もしかしたら「遺跡」のことも何もかもが分かって、みんなの足取りも」「ラン!」
真っ直ぐ見据えたマキの一声でランは押し黙る。それから視線がエマへと向けられる。
「ご、ごめんなさい……エマさんも……辛い……ですよね……。でもあっちに行っている間にエマさんの身に何かあったら、私……」
言い終えると俯き動かなくなる。
そんなランを皆は無言で見つめる。
「……エマ、提案する、ぞ。明日の私の出番は無し、で。そして私とランが交代、で」
二人の性格や雰囲気から予想していなかった提案に私とマキは呆気に取られてしまう。
ランもノアの提案が意外だったのか、ポカーンと口を開けたまま固まってしまう。
「うん分かった。でもねこの惑星はドリーみたいに消えないと思う。なぜなら(私も)いずれそこに行くことになるから」
「「「?」」」
(そうでしょ?)
(はい。この惑星は多分
(多分? 何故多分なの? 消えないんでしょ? 私が行くまでは?)
(…………)
ダンマリかいな。全くこのAIは。
あれ? 今の会話で何かが引っ掛かる。
そういえば何か忘れている気がする……
「マキはどう思う?」
マキは姉のマリとは違い普段は受け身で、自分の意思を積極的に言ってこない。なので彼女が今回の件をどう考えているのか、未だに聞けていない。
この際だからどう思っているかを尋ねてみる。
すると頭の後ろで腕を組んで椅子に寄りかかりながらランを横目で見ながら話してくれた。
「消えた奴らは、まぁいつかは会える思っとるし、逆に自分達で何とかせぇとも思っとる。せやからウチ的には基本待ちで急いで動かんでもええと思う。「遺跡」に関しては正直分からんことだらけやしこれも待ちでええかと。大体エマも今は混乱しとるやろ? そっちの件はサラが治ったら聞けばええんちゃう? それとラン、ノアもこう言ってくれたし、明日はここでエマと一緒に待機にしとけ。まあ美味しいとこはウチが独り占めでボーナス百倍やから。な、エマ?」
一気に教えてくれた。
「分かった。ランちゃんは明日は私と待機。いい?」
ボーナス百倍は華麗にスルーする。
「……はい。ごめんなさい。マキさんも……ノアも……ごめんなさい」
立ち上がると皆に深々と頭を下げた。
「ところで一つ聞いてもええか?」
「はい? なに?」
「ノアは明日どこに行く予定だったん?」
「「…………」」
ノアを見る。
ノアも私を見る。
数秒の間、表情を変えずにお互いを見つめ合う。
「何や話せんの? 隠し事は無しやで?」
「いや別にそういう訳ではなくてね? う〜ん」
「……いいんでない、か?」
「そうね。ノアには本部と各エリアの基地をウロついて貰うつもりだったのよ」
「……ただし一切の接触はなしで、だぞ?」
「探索部け?」
「そう」
「な、何故身内の基地に?」
「ハッキリ言えば信じられなかったから」
即答する。
「「…………」」
「目的は情報収集。だから絶対に見つかってはダメ。探知圏外から覗いて、勝手に入ってきた情報を頂いて、そのまま戻るようにお願いした」
「……早く行きたかった、ぞ」
落胆の色を
「だけどまあ、昨日とは状況が変わったからね。行かなくても大体は分かったから」
そうは言ったがまだ信じるには程遠い。今はただ単に優先度が下がっただけで、今後何かが起これば警戒心は跳ね上がるだろう。
「……もういいの、か?」
「うん」
「……そうか。残念だ、ぞ」
本当に残念そう。
「何でまたそんな事企らんだんや?」
「違和感……いや不信感からかな。アルの暴走の件でサラ達の態度に違和感を抱いてね。サラと繋がっていそうな人達まで信じられなくなってたの」
一時はローナさえ疑った。その後、ローナだけは疑心の対象から外れたが。
「だけど、この状況から抜け出すには情報量が圧倒的に足りない。なら情報を持っていそうな奴らから貰えばいいんじゃないかってね」
「……でもそれすら「誰かの企みの一環」で手ぐすね引いて待ち構えられてたらやばい、やろ? だから裏をかいて見つからない様にコッソリ、と」
助けを求めるなら先ずは味方から。誰でもそう考える。
そして私達が疑いもせずに基地や本部のそばに現れた所を……。それを警戒していたのだ。
「企み? なん?」
マキが眉を寄せて小声で詰め寄ってくる。
ていうか、周囲何光年と四人以外に誰もおらんでしょうに。
「えーと」(エマ)
(分かってるって!)
アルからイエローカードが出た。
「ごめんね。これ以上は「機密」に該当しちゃうからノアにすら説明していないの。だからノアのように「察して」ね」
「……分かった。任せとき〜」
と言ってニヤリと笑う。
勘違いしてないといいけど。ていうか正解に辿り着く訳ないか。
「それじゃ二人とも明日はよろしく」
「「了解」」
よし、次はこっち。
「ランちゃん」
「……はい?」
「明日、私とデートしない?」
「ふぇ? え? あ、はい……」
「そんなに遠くには行かないから」
「はい……えっえっ〜私と⁈」
「そう、嫌?」
「い、嫌ぁ⁈ あ、あるわけ、じゃなくて喜んで‼︎」
機嫌が直ったようだ。
鋭い視線を感じたのでそちらを見るとマキとノアがジト目で私を見ていた。特にノアの視線が怖い程痛い。
二人に軽くウインクをすると、マキは少し引き気味に顔を背けた。
ノアは……意図を察してくれたようで鋭い視線が元へと戻った。
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