未来か過去か⁈ そんなの私には関係な〜い!

想永猫丸

第1話 幕開け! 二人の少女!

 とある銀河のありきたりな星系に、人類の母星である地球と同じ大きさの惑星が二つ、まるで手を握っているかの如く、生まれた時から変わらぬ距離・同じ速さで回転を続けていた。


 一方の惑星は水に覆われた青く輝く星。

 もう一方は『地球』と似た星。

 どちらも『連星』という点を除けばよく見かける、ありきたりな惑星。


 その『地球』と似た惑星に、二人の幼い少女が手を繋ぎ、覚束ない足取りで草原の中を歩いていた。

 その場所は「夜」にも拘らず薄暗い青空が広がる、どこまでも続く草原の真っ只中に二人だけで。


 その二人の少女が向かう先には小さな木造の建物が。周りには遮る物は何も存在しておらず風も吹いてはいなかった。


 少女達は建物から離れた場所で突然立ち止る。そして片方の前を向いたまま口を開き小声で話を始める。

 僅かな時間何やら話し込んでいたが、再び歩みを始めた。シッカリと手を繋いで。


 周りには何もない。

 無風で草も微動だにしていない。

 自分達の心臓の早まる鼓動の音以外、何の音も聞こえない。自分達の足音さえも。


 まるでこの惑星には二人しか存在していないと思える静けさ。


 少女達が向かう先。大草原に場違いとも思える、古代の「東洋の島国の建築物」を思わせるには壁はなく床と柱と屋根のみ。

 広さも二十m×二十mくらいの正方形をしており、各柱の上部には唯一の光源である蝋燭の炎がユラユラと揺れているだけ。


 外の明るさに反して中はとても暗い。

 蝋燭の灯りに慣れないと中に人がいるかどうかが分からないレベルの暗さ。

 建物内も外と同様、いや暗い分だけより静寂さが増していた。


 暗闇と静寂が支配している中へ少女達が入れそのまま部屋の中央へと向かう。

 そこで二人は僅かな間、お互いの目を見つめながら立ち尽くす。

 片方は悲哀と慈愛に満ちた笑み浮かべながら。

 もう片方の少女は泣くのを必死で我慢している様で悲壮感を漂わせながら。


 すると笑みを浮かべた少女の全身が淡い光を発し出す。

 その表情はとても穏やかでまるで聖母の様。

 もう一人の少女は対照的に悲痛な表情に変わり、目には零れ落ちそうなほどの涙が溢れてくる。


 泣くのを必死に我慢している少女の顔に、光る右手がそっと。その右手は……透けていた。いや右手だけでなく身体全体が透けていた。


 二人共黒髪だが、髪型はロングとショートでそれ以外は瓜二つ。

 年齢は十代前半で身長も百四十cmちょっと。

 外見は古代風に例えれば『純和風的』な女の子。


 その二人の少女のやり取りを眺めている者がいた。

 少女達を遠巻き囲むように、部屋の四隅に座っていた4人の男女。

 彼ら彼女らは少女たちがここに踏み込む前から身動ぎ一つせずに無言で正座をし、事の成り行きを見守っていた。




「今まで……一緒にいてくれて……ありがとう……」




 言葉を発しながら数歩後ろへと後退る。頬に添えられていた手も顔から離れてゆく。

 離れてゆく手に気付き少女が慌てて付いて行こうとしたが、足が縺れて倒れ込む。

 それを見ると立ち止り反射的に手を差し出す。

 差し出された手をみてついに堪えきれなくなったのか顔を上げ必死に何かを叫ぶ、が光に包まれている少女の耳には既に届かない。そうもう何も届く事はない。


 右手を掴もうとするが手は輪郭が何とか分かる程度までに透けており、触れる事さえ叶わなかった。

 必死に何度も掴もうとする。そうしている間にも体が薄れてゆく。


 何かを叫ふ。せきを切ったように目から大粒の涙を流しながら。

 両手で何度も掴もうとする、が掴めず擦り抜けてしまいバランスを崩して顔から床へ倒れこんでしまう。



 そこで掴むのを諦める。その代わりに涙と鼻水でくしゃくしゃになった泣き顔を無理やり笑顔に変へてから、消えゆく少女に向けて小さく、だが決心を込めた声で呟いた。




(必ず見つけるから)




 殆ど消えかかっている少女には聞こえていない。ただそう言っているように思えた。


 泣いている少女に目一杯の笑顔を見せながら、



「行ってきます……」



 と。

 その言葉を最後に、少女は光と共に何も残さずに姿を消してしまう。


 再び静寂が訪れる。その場に残された少女は両手えお強く握りしめる。そして涙を流しながら心に誓う。



 《お父さんお母さんごめんなさい……約束守れなかった……でも……必ず助ける……だからそれまで……お姉ちゃん……待ってて》



 そう心に誓いを立て顔を上げた瞬間、目の前に小さな光が現れる。その光は一瞬で大きな光の球へと変化する。

 そして光の球が徐々に人の姿を形取り、白いワンピースを着た金髪の少女へと変貌した。


 その少女は身体から発していた光が収まると、意識が無いようでその場にゆっくりと崩れ落ちていった……








 それから約二百年後の真空空間。


「はぁ〜今回も空振りか〜」


 漆黒の外とは真逆な真っ白な空間に身一つで浮かびながら、大きなため息をつく女性。


 首から下は身体のラインがハッキリと分かる白色のボディスーツ型の宇宙服を着ているこの女性、ライトブラウンの腰まである髪を後ろで三つ編みにしており、どちらかと言えばあまり起伏がない体つきをしている。


 緊張感なんて微塵も感じられない表情で目を閉じ両手を頭の後ろで組んで、身体を微妙に左右によじりながら何かを考えているようだ。


 そんな彼女の顔前には空間モニターが一つ。そこには様々な数値が表示されている。

 薄目を開けその数値を一瞥した後、再度目を閉じ大きなため息をしつつ、脳内にて現在位置の再確認の指示を出す。



(エマ、報告)



 指示に応えたのは幼い感じだがしっかりとした声。

 この声はエマの相棒で名は『アルテミス』と言い、この艦のメインAI。

 このアルテミスは『探索部』所属の『探索艦』であり、エマと呼ばれた女性の専用艦。

 探索艦の中では第七世代型と呼ばれる艦で最新型の艦でもある。

 この艦の大半は流体物質で構成されており、用途に合わせ形状が自在に変化出来る優れもので探索部のみが扱える最重要機密の物質。

 因みに待機状態の艦は完全な球体であり、直径は約百五十mとそこそこデカい。


 推進系はこの時代には一般的となっている技術で、性能を除けば目新しいモノは特にない。

 推進系の中核をなしているのは『反重力炉』であり、推進力や電力を得るための反物質を精製・変換・消費を行っている、メインAIアルテミスと同じくらい重要な装置。



 その反重力炉技術の最大の恩恵は移動で主に二つの手段が存在する。

 一つ目は通常空間、つまり近距離移動をする場合は『反重力推進』を使い、星系内の端から端まで最大速力ならば僅か数秒と光の進む速度とは比較にならない速さを生み出す。


 もう一つは星系から星系へ、銀河から銀河へといった「長距離」に移動する場合には『跳躍』と呼ばれている手段を使う。

 これは艦内部にある装置で極小規模の『ビックバン』を人工的に起こし、そのエネルギーを推進力として利用する。

 この技術によって瞬時に数~数千光年も移動する事を可能としている。


 この素晴らしい移動手段のお蔭で人類の活動領域は飛躍的に広がり、母星となる地球がある銀河系を中心に30億光年程度までの詳細な「宇宙地図」がかなり昔に完成に至った。


(ここで注意。「反重力推進」や「跳躍」といった画期的な移動手段に時差は発生しない。所謂「相対性理論」は、光や質量を語る理論であり、光の速度を超えれた時点で「相対性理論」などの古い理論は役目を終え破綻している)


 その「宇宙地図」だが今でも完成を目指し調査部専門の部署調査艦専用の無人艦が日々活動を続けている。



 そんな探索艦。二つの部分を除き一般に使われている技術が活用されている。

 反重力炉や反重力装置、資材を保管している「圧縮倉庫」にしても、他の部署所属の艦や宇宙船とは「性能による差」を除けば同じ技術が使われており、それこそ「性能差」を除けば特筆すべき点は無い。


 他の艦にはなく探索艦にしか無い物、それは外装とメインAIの二つ。

 外装はブラックホールと接触しても分解せず・干渉受けずにいられるほどの特殊な流体物質が用いらており、この物質を破壊するのは自然環境下では不可能といえる強靭さを備えている。


 そして艦を制御しているメインAI。

 この時代のAIはどんな些細な機器でも標準的に積まれているほどの身近な存在。

 この艦にも当然採用されており専用AIとして開発したものが積まれている。

 とはいえ製造から搭乗者となる探索者が決まるまではどの艦も全くの同じの基本プログラム。

 最大の特徴は搭乗者の成長に合わせた人格を形成してゆくという点。そして不必要と思われる程の高性能な点。



 その探索部所属の探索艦であるアルテミスは現在完全停止状態。

 移動の指示が出ていないので白色の球体で真っ暗な宇宙空間に漂っていた。


(はいよ、アルテミスアル)


 声に出さず脳内通話で返答をする


(周辺探査終了、目標物、反応ない)


 アルも少し残念そうに報告してきた。

 探査終了とは任務を終えた、というのと同義。つまりこの領域ここにはもう用事がないということ。

 その言葉を『待ってました!』とばかりに思考を切り替えて艦外に意識を移す。すると自分が空間が一瞬で暗闇へと変わった。


 エマがいる空間は艦の中心部、半径三m程の球体。空気で満たされた空間で、所謂「コックピット」の扱いとなっている。

 球体内コックピットは艦AIに指示しない限りは無重力空間。

 こだけではないが体の姿勢・重力制御をアルテミスが探索者搭乗者の意向を汲み、探索者本人にストレスを感じさせないように常に配慮をしている。

 なので球体内コックピットでは常に球体中心部で固定されている。

 因みに探索者の大半は球体内コックピットにシートを用意しそこに座って指示を出す。エマの様にフワフワ浮いている者はまずいない。



 ──さてここからは趣味の時間だ。サッサと仕事報告を終え、寄り道に向かおう! そう、趣味であるキラキラ光る鉱石の採取に勤しむのだ。



 今、球体コックピットの内壁全周には外の暗闇の中に輝く無数の星々の明かりと、今回対象となった惑星の巨大な姿が映してある。

 この内壁は弾力を帯びた造りとなっているが、通常は艦外の様子を映し出すのが主な役割。

 さらに空間に呼び出せるモニター、通称『空間モニター』とそのマンマの呼び名だが、そちらは艦内では補助的な役割として使い分けている。


 どちらも高性能なモニターであるのは変わりがなく、視覚を通せば宇宙空間に身一つで漂っているのと変わらない景色が味わえる。

 余談だが、普段は球体型をしているが状況に応じて広さ・形を変化させる事が可能。



 逸る気持ちを抑え姉を呼び出す。


(エリ姉聞こえる?)

(はいな〜、どうしたのエマ〜?)


 『繋がりリンク』を通して脳内に聞こえる声。

 明るくハッキリとした、だがどこか間延びした話し方。

 Bエリア基地ホームで待機している双子の姉の『エリー』だ。


(今回も全部外れ)


  ちょっと早口で簡潔に報告。早口なのは言わずもがな。


(あらあら残念〜影も形も〜?)


 あまり残念そうには聞こえない返事。


(うん)


 まだ一度も例のモノにお目にかかっていない。

 他エリアのチームも含めて。


(出発前の主任の話は覚えてるよね〜? もう半分は帰還してるわよ〜。早く戻ってきなさいね〜)


 温和なエリーには珍しく怒りがにじんでいる言い方。


 む? 何か忘れている様な……は! そうだ、ビリは全員に……


「ヤバ! アル帰還‼」


 珍しく声に出しての指示。

 探索艦同士は性能の差は無い。そして今回の探索行動仕事の範囲もほぼ同じだから、純粋に探索区域を出発した順に到着することとなる。

 つまり探索艦アルテミスは出来ない。


 アルテミスとは乗艦していない時でも、常時脳内に埋め込まれたチップを通し電波により繋がっている。これは探索者特有のシステムでエマが特別という訳ではない。

 全ての探索者は同一環境となっており、声に出さなくても艦AIが色々なパターンを考慮した上で待機状態にサポートしてくれている。もちろん、個々の性格も踏まえた上で。


「了解」


 どこか呆れた感じの返事をしたアルテミスは早速艦を漆黒色の円錐型に変えると同時に、底面に当たる場所から目視出来ない程の眩い光を発し出す。


 次の瞬間、音も衝撃もなく探索艦は光の粒子を全体から一瞬だけ撒き散らせた後『跳躍』を開始。Bエリア基地に急いで? 帰っていった。

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