第15話静かな森大作戦⑥
「神泉さん、落ち着いた?」
「……うん」
泣き始めてから5分ほどたっただろうか。倉敷くんがハンカチを貸してくれたおかげで、割とすぐ泣き止むことができた。
まさか今日こんなことになるとはなぁ……。落ち着いてきたらまたお兄ちゃんにムカムカしてきた。
「いやぁ、それにしてもビックリしたなぁ。まさか神泉さんのお兄さんがいるとは思わなかったからさ」
「今日は休みだと思ってたんだけど、まさか出勤しているとは……。ごめんねビックリさせて。あとでキツく言っておくから」
「あ〜、そのことなんだけど神泉さん、お兄さんにはもう怒らないであげて?」
「え、でも」
倉敷くんのお願いだから聞かないわけにはいかないけど、どうしてだろう。
私がキョトンとしていると、倉敷くんは笑顔で言ってくれる。
「お兄さんも絵里香さんと同じで、神泉さんのことが大好きなんだね。だから心配だったんだよきっと」
心配、心配ねぇ。まぁ確かにそういう感じではあったけど、何もあそこまでしなくても……。
「それに、俺は神泉さんと仲良くなりたいんだ。それ即ち、俺自身がお兄さんに認めてもらわなければならないっていうことだと思う!」
「え!? そ、そう言うものなの?」
「そう言うものなのさ。家族から『あの友達とは付き合いやめなさい』って言われるのって、嫌じゃない?」
「う〜ん、確かにそうかも」
言われてみたら確かに。もし家族に佐奈とは絶交しなさいなんて言われたら、私は猛反発してしまうだろう。それと同じことなのかも……?
「だから、神泉さんが怒らなくても良いんだよ。ここからは俺の問題、俺への課せられた試練なんだ……!」
「あ、はっはい」
お、おぉう……なんか倉敷くんが燃えてる。まぁ確かに人に嫌な印象持たれるのって、あまり気持ちの良いことではないもんね。
「あともやしって言われないように鍛えないと」
あ、それ結構気にしてたのね。大丈夫だよ倉敷くん、私もやし大好きだから……もやし増し増しでいけるから。
「それに、話せばすぐにわかってくれると思うんだ。さっきも、今日俺が神泉さんと一緒にいる理由説明したら、割と理解してくれた雰囲気出してくれてたし。……まぁ直後に神泉さんに怒られてたから、真偽はわからないけど」
「ごご、ごめんなさい」
あの時はカーッとなってつい……。思い返せばあの時倉敷くんは『栞里さんとはクラスメイトで〜……』って説明してくれていたっけ? 確かにそのあとお兄ちゃんが『そう言う理由なら〜』みたいなことを言っていたような……。
ん? ちょっと待って私。なんか大事なこと見落としてない? 倉敷くん、説明する時、私のことなんて言ってた? え、『栞里さん』って言ってなかった?
聞き間違いじゃないよね? さっき、倉敷くん私のこと『栞里さん』って言わなかった? ねぇ、栞里さんって言ったよね? え、は、幻聴? 思い返せば耳から角砂糖ねじ込まれたくらい甘い響きだったんだけど? なんで今更思い返すの私。もう一回言ってくれないかな、聞きたい、聞きたい……——。
「ねぇ倉敷くん、さっきお兄ちゃんに説明した時のセリフ、一語一句間違わずもう一回言ってくれない?」
「何でスマホを録音モードに!?」
それでも優しい倉敷くんは、要望通り一語一句変えずに言ってくれました。
今日の夜はこれ聴きながら寝よう……。
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