第6話連絡先交換大作戦②
◇◇◇
〜翌朝〜
「はぁ……」
結局昨日もライン聞けなかった……。たかが『ライン交換しよ』の一言じゃん。何でその一言が言えないんだろう。
こんなんじゃ、仮にラインの交換ができたとしても、果たして常日頃から連絡を取り合うことはできるのだろうか? まぁ多分できないよね! 想像しただけで悶絶しちゃうもの! 朝起きて『おはよう』って送ったり、特に用事がなくても『今なにしてる?』とか相手の行動が気になっちゃったりとかキャーーーー!!!! 想像しただけでエキセントリック何ですけどぉ!!!!
「……落ち込んでたと思えば急にカバンに顔埋めて悶絶している栞里ちゃん、頭大丈夫?」
「駄目だと思う」
だって想像しちゃったらしょうがないじゃん。好きな人とお話できるってのは、本当に胸がドキドキすることなんだよ? 抑えきれない気持ちってのは、どうしても顔に出ちゃうの。表情豊かな女の子なら、きっと幸せそうに愛でたくなる表情をするのだろうけど、私みたいな表情の硬い女子は見るに耐えない顔をしてしまうだろう。だからついついカバンという密閉空間に顔を埋めてしまうのだが。
「……? あれ?」
「どしたー栞里」
カバンに顔を埋めたことにより、違和感を一つ覚える。
「あれ? あれれ?」
スポンっとカバンから顔を抜いた私は、カバンの口をチャック全開で開け、中身を確認する。
ない、ないない。やはりない。
「今日、お弁当忘れちゃったみたい」
よくよく今朝の事を思い返すと、昨日のダメージが抜けきれていないからか、フラフラと支度をして家を出た気がする。お弁当をカバンに入れた記憶は当然ない。
「お昼は購買に行ってパン買わないと……はぁ、やってしまった」
「まぁたまにはパンもいいじゃない」
「じゃあお昼、佐奈も一緒に買いに来てくれる?」
「お昼のパン争奪戦覚えてないの? あたしゃあお弁当あるから行かないよ」
「ケチ……」
普通の学校である我が校には、当然学食など存在しない。故に、お弁当を忘れた者、そもそもお昼は購買頼りの者等、お昼を調達する人間は全て購買に集中するのだ。
この学校に入学してすぐ、学校でパンを買うという一つの憧れめいたものにかられ、佐奈とお昼に購買へ行ったらひどい目に合ったのを今でも覚えている。
「帰ってくるの待っててあげるから頑張りなさい」
「うぅ……お昼休みになったらダッシュで行かないと……」
最悪の事態(パンの売り切れ)を想定しつつ、気合を入れる私であった。
◇◇◇
〜お昼休み〜
購買の前までやって来た私は、ただでさえ小さな瞳をさらに丸くした。
「え、こ、購買ってこんな人すごかったっけ」
そこには長蛇の列……なんて行儀の良いものはなく、我こそは先にと人を退け合うおぞましい戦場ができていた。
「学校側はこれ放置してて良いのかな? いつか怪我人が出ると思うけど……」
しかし、現状に文句を言っていてもパンは手に入らない。この人だかりを見るに、あと10分もしたらコッペパンすら売り切れてしまうだろう。
一番人気は昔ながらの焼きそばパンやコロッケパンらしい。だが、正直焼きそばパンとかコロッケパンに魅力をそこまで感じない私は、最前列にいる必要がないことが唯一の救いである。
「なんか美味しそうなの……明太パンとか、チーズのパンとか、あんぱんとかがあれば良いかな」
それくらいなら中間くらいでもまだ間に合うだろう。取り敢えず最後尾についてみる。
「……」
中々進まない。
「…………」
全然進まない。
「………………」
本当に進まない!
どうしようこのままじゃあ今日のお昼コッペパンだ! いやまぁコッペパンでも食べれるだけマシなんだけどね。最悪お昼抜きになってしまう! それは辛いよぉ……。
「と、取り敢えず突っ込んでみよう……えい!」
壁のようになっている人だかりに突っ込んでみるが、やはり進まない。それに、人を押しのけて中に割って入るというのは、どうしても気が引ける。
「あの、すみません……すみません……通してくださ……すみません!」
「ん? ひっ!? ごごごめん! 俺なんかした!? 怒ってる!?」
前の男の人が私の顔を見るなり謝って来た。たぶん一生懸命になってたから、眉間にシワがよってかなり怖い目つきになっていたんだろうなぁ……。
久しぶりに人を怖がらせてしまった。何だか申し訳ないし、やっぱりちょっと落ち込む。
もう今日はお昼良いかな。この人だかりが消えて、もしパンが余ってたらそれで良いし、なくなったらなくなったで良いや。お弁当忘れた私がいけないんだし。
行列から離れ、最後尾から少し離れた壁に寄りかかり列を見る。何だか少しブルーなのは、お腹が減って来たからかなぁ。
「はぁあ、ツイてないな」
スマホを取り出し、佐奈に遅れるから先に食べててとラインをする。待たせたら悪いしね。
佐奈からすぐに返事は来た。苦戦することは予定通りだから待ってるとのこと。何だかんだで、佐奈は優しいのである。やだ泣きそう。
私が返事を返そうとスマホに注視していると、視界の角で誰か立っている。気になった私は顔をあげると、目の前にはいくつかのパンを購入していた倉敷くんが立っていて。
「どうしたの、神泉さん?」
私を心配しているのだろうか。少しオロオロしている倉敷くんは非常に可愛い。
「え、あの、えぇと、パンを買いにね」
「あぁ〜……」
私の一言で察したのか、倉敷くんは人の壁を一度見やると、優しい笑顔で私の方へ振り返り。
「あの、神泉がよかったらなんだけど、俺が買ってこようか?」
「え?」
少しハニかんだ倉敷くんの笑顔に、私のブルーな気持ちはすっかりピンク色に煌めいていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます