第5話連絡先交換大作戦①
◇◇◇
〜お昼休み〜
「って言うことがあったね。ねぇ聞いてるの佐奈」
昨日、雨の中倉敷くんと一緒に帰った私は、その事を嬉々として佐奈に話していた。
「聞いてるわよ。よかったわねぇほんと」
「これも佐奈が放課後に私を残してくれたおかげだよ」
「じゃあステバで奢るって話はなかったことに……」
「それはそれ、これはこれ」
「さいですか……」
感謝はしているけれど、私を放置したことに変わりはないので奢ってはもらいます。
「しかしまぁ、あの栞里がよく勇気を出したものだねぇ」
「うん、私頑張ったの。褒めて」
「はいはい栞里はすごかったねぇ可愛いねぇ」
佐奈が私の頭を撫でてくれる。頭を撫でられるのは好き。何だかんだでこうやって私を甘やかしてくれるのは佐奈だけだ。と言うか、私が佐奈にしかこういった面を見せられないのだけれど……。
「それで? 一緒に相合傘したくらいなんだから、帰ってからもラインとかしてたんでしょ? どういう会話したんだよぉ」
「え? ライン?」
「え?」
……え?
「あんた……、まさか未だに倉敷くんのライン知らない……とかないよね?」
「あ……あは……あはは……——」
「あははじゃないでしょーッ!」
知りませんよぉ! 知りませんけど何か問題でもぉ!? あいや問題だらけだ知らないのは不味いよねぇハイ!
「わわわ、私だって知りたいもん! でも聞く機会なくて……それにライン交換しよって言うの、恥ずかしくて……」
「んあぁ! 焦れったい! クラスメイト何だからライン交換くらい普通でしょうよ! そうでなくとも昨日一緒に相合傘までして帰ってるのに、一体何してたの!」
「え? あ、あのね、倉敷くんが私のこと色々聞いてくれたの。私に質問されて嬉しかったから、俺もしたいって。え、えへへ……」
「んなホワホワ話を聞きたいんじゃないっちゅうねんなぁ! あぁもうこの娘ったら、なにピンクのオーラ出してるの可愛いッ!」
なんか佐奈が机をバンバンと叩いているけど、どうしたのだろう。
いや、それより倉敷くんのラインだ。確かに私、知らないや。挨拶とかしてくれるようになったり、お話したり、一緒にあああ相合傘……したことで満足してたけど、夜とか、学校がお休みの日とかに倉敷くんとお話できたら、それはそれは幸せ何じゃないだろうか。
「ねぇ佐奈、どうしたら倉敷くんのライン交換できるかな?」
「普通に聞いたら?」
「何でそんな投げやりなの!?」
いつものメモ帳はどうしたの!? ちょっと前まで意気揚々と見せつけてきてたのに。
「いやだって、ライン交換するのにどうしたらいいもこうも……ねぇ?」
「うーん、まぁそう? だよねぇ……」
確かにそう……か。変に意識するから難しくなるんだよね。クラスメイトなら必要な連絡とかあるかもしれないもんね。そう、だから連絡先を聞くことは何らおかしなことじゃないんだ。
「じゃ、じゃあ頑張って聞いてみ……ます!」
「はい頑張ってね」
胸の前で小さく握り拳を作る私の頭を、佐奈はまた撫でてくれました。
◇◇◇
〜放課後〜
「よ、よし。帰りの挨拶のついでにここ交換するぞ」
私は手早く荷物をまとめると、震える手でスマートフォンを握りしめ、斜め前方の席にいる倉敷くんのところへ向かう。
「あ、あの、倉敷くん」
「ん? なに?」
仏頂面で話しかけた私に優しい顔で振り向いてくれた。やめてその優しい顔、すごく好きっ!
「あ、あのね……えっと」
「?」
倉敷くんが微笑んだまま、私が何か言うのをじっと待ってくれている。あぁ、こんな私に何て優しいんだろう。
後ろに組んだ手で、握っているスマートフォンをギュッと握りしめ、大きく息を吸い込み、私は気合を入れると。
「バ、バイバイ……」
「!? バ、バイバイ神泉さん……!」
結局、そっぽを向いて帰りの挨拶をしてしまう……。
倉敷くんは何か良いことがあったのか、軽い足取りでお友達のところへ駆けて行ってしまった……——。
「私の意気地なし……」
意気消沈した私は、遠くで睨んでいる佐奈のところへトボトボと向かったのでした。
〜次の日の放課後〜
「きょ、今日こそラインの交換をば……」
昨日のリベンジとばかりに、私は今度こそ気合を入れて席を立つ。
今日はちゃんと言える。……昨日はあれから佐奈と一緒に、ちゃんと言う練習をしたんだもん。練習している最中、緊張して佐奈に目が怖いって言われたから顔は見れそうにないけど……。あ、緊張してきた瞳もっと小さくなってそう。
小声で練習したセリフを何度も復習しながら、おずおずと倉敷くんの所へ向かう。すると、不意に倉敷くんがこちらを見やり、急に目が合ってしまう。油断していたところで急に倉敷くんと目が合った私は、予期せぬ事態にテンパり、
「——……!!!?!?!??!?!?」
え、何で急にこっち向くの!? 気配がした!? 私が気合入れすぎたから殺気みたいな気配した!? 確かに緊張して目は怖いことになっているかもしれないけど、そんな急にこっち向くほどに!?
唐突に目が合ってしまった私は、恥ずかしさなのか照れなのか、よくわからない感情が急速に胸の内を襲い、パニックになってしまう。うまく言う事を聞かなくなった身体は、歩を早めてしまい。
「あ、神泉さ——」
「くくく倉敷くん、あ、あのえとその、バババイィイン……ッ!」
「え、ババイ!? あ、ちょ……ま……神泉さん!?」
なにババインて!? なに早歩きで倉敷くんの隣スルーしているの!? 今からでも戻って……あぁダメ今日はもう完全に心折れた恥ずかしいもうイヤッ!
倉敷くんとラインを交換できる日は、果たして来るのだろうか……。
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