白い迷い

神崎真紅©️

私には何もない。

普通の人が普通に持っている記憶が、日々を追うごとに消えてゆく。

そして、ただ、白い空虚な自分が存在するだけ。


思い出せないのだ。

私にもある筈の名前、家族、住まい、友達、趣味、仕事。

全てを忘れてしまった。

それが、例え病気のせいだとしても。

辛い、という言葉の形容の仕方も分からない。

悲しい、という感情もよく分からない。

ただ、淋しい、という感情だけは少し残っていた。


私は、若年性アルツハイマー症という病いに侵されているらしい、という事もよく分からない。その病気は、難し過ぎて分からない。


私は目覚める度に、私の頭の中に「記憶」というものが存在しないか確認してみるのだが、いつも少しの絶望を招くだけだった。そしてここは何処なのだろうという疑問からその日が始まる。

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