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 「ーーー、あれ?」



 其処はがらんとした座敷だった。

 あるものといえば、隅に佇む箪笥と敷きっぱなしの小花模様の布団。掛け布団は半分ばかり捲れており、さっきまで誰かが遊んでいたように、周辺には人形やおはじきが散らばっている。もちろん見覚えはないし、持ち主の姿も見当たらない。


 自分は、襖の近くに座り込んでいた。とりあえず、外の様子が知りたくて引手に指をかける。しかし、開かない。


「嘘だろ」


 力を込めても同じだった。ぴくりとも動かない。


「どうしよう……ここは何処?そもそも、何で僕はこんなところに」


「いや……待てよ、あれ?………………

 

……………………………

       僕って、誰だ」



 信じられないことに、何も思い出せなかった。名前も、年も、家族も。どんな人生を送ってきたのか、片鱗も記憶に無い。

 慌てて、自分の姿を見下ろしてみる。手足の細さからして、十歳前後だろう。着ている紺の着物もあちこち捲ってみたが、残念ながら名前の縫込みなどは無かった。


 ただ一つ確信しているのは、此処が異様な場所だということ。それだけが小さく燻る焦燥として胸にあった。


「まず、この部屋から出ないと。他の所なら、誰かいるかもしれない」

 

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