女神かく語り
夕暮れの教室。
机の上に、銀髪の少女が腰かけていた。
素朴で、傍にいるだけで人を安心させるような、そんな愛らしい顔立ちの少女である。しかし銀髪という異質な髪のせいなのか、はたまたトリックスターという言葉を連想させる微笑みのせいなのか、素朴さは反転し、蠱惑的な印象を強く感じさせた。
「ええ、
少女――女神は、ここではない遠くを眺めながら、笑みを浮かべた。
「リティアさんも当たり前のように察していたみたいですが、あの方は正しく聡明ですからね。口にしてもいたずらにお兄さん達の不安を煽るだけだと、素知らぬ風を通すのはさすがです。まあ、彼にとって私の言葉は絶対な指針ですからね。出会って間もないお二人のために、その指針を曲げるだけの理由もなかったということでしょう」
机から立ち上がる。
視線は変わらず虚空に向いたまま、誰かに話しかけるように言葉を続けた。
「『物語』を終わらせて、世界が干渉する余地をなくす。お兄さんが「悪のフレール」と名付けた想念は『原型』になっている乙女ゲーム『サンドリヨンに花束を』に沿ってお兄さん達に害を成そうとしている、ならばレールそのものをなくしてしまえば干渉されることはない……。ええ、はい。もちろんそんなことはありません」
にっこりと。
女神の顔に浮かぶのは微笑み。
それは慈愛に満ちているような、愉悦だけしか考えていないような、人とは一線を画した存在だけが造ることができる不気味で神秘的な表情だった。
「『物語』を終わらせるということは、今までレールに沿ってしか動けなかった想念の枷を外すようなもの。さながら檻から解き放たれた狂犬のように、「悪のフレール」はお兄さんに牙を剥くでしょう」
歌うように言った後、女神は不服そうに唇を尖らせる。
「……あ、もしかして私がお兄さんを生贄に、世界を安定させようという算段だと思いました?そんなことないじゃないですか。今の章の最初にも言いましたが、お兄さん一人を殺して沈静化するほどやわな澱みじゃありませんし、何より私自身、お兄さんや妹さんを気に入っているんですから。お気に入りを無意味に壊すほど、悪趣味じゃありませんよ私」
不満を訴えてから、くるりと一回転。
そして今度は椅子に腰かけると、大仰に両腕を広げてみせた。
「これから先には、
さながら役者のような仕草で、女神は朗々と語る。
自分自身も、舞台の上にいる演者にすぎないとでも言うように。
「ですが、今私の話に耳を傾けてくださっている貴方。後悔させないとは言えませんが、貴方が追ってきたフレールの物語、その一区切りを、できることなら終わりまで見届けていただけたらと」
あと三話で終わりますから、と。
最後にそう言って、女神は可愛らしくウインクをした。
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