第31話 最終

      31


 とうとう迎えた儀式の最終ステップ。僕のお腹には、歪な魔方陣がでかでかと書かれていた。正広が最初は描いてくれていたのだが、あまりにも線が汚いので見かねた春葉が代わりに全部描いてくれた。年頃の男子が裸の上半身を見られるというのはあまり気分がよろしくないのだが、自分で綺麗に描ききる自信があるわけでもなかったので結局されるがままだった。

「じゃ、これでどうするの?」

 マジックの蓋を閉める春葉が僕に尋ねる。

「んー……一例だと、高いところから飛び降りつつお祈りするらしい」

「それ死ぬんじゃね?」

 正広がすかさず突っ込んでくる。

「でも、死の危機に魂を晒せ、みたいな事が書いてあって……」

「さすがにそれは無理よ……だって死んじゃうじゃない」

「それもそうだよなあ。死ぬのは僕も困る」

「でもそれだと今度は儀式が終わらないのよね」

「ちょっと本読み直してみる」

 僕は鞄からボロボロの古書を引っ張り出してきて、最後の方のページを何回も目を通す。けれども、僕たちが今知っている以上の情報は得られそうに無かった。

「じゃーあれじゃね? 死にそうだけど絶対死なない状況を作ればいいんだろ?」

「実際にどうするんだよ」

「六階とかから飛び降りるけど、下には布団敷きまくっとくとか」

「真面目に考えなさいよ」

「大真面目だっての! じゃあお前らなんか他に案あるのかよ?」

「それは……私も無いけど」

「まあまあ二人とも落ち着いて」

 ところがその後も結局代替案は出てきそうになく、垂れ流していた朝のワイドショーが気付けばお昼の旅番組に変わっていた。今日、なずなさんは何だか外せない用事があるらしくて、僕たちはお昼ご飯を自分達で調達するように言われていた。

「とりあえず何かご飯でも買いに行こう。もうお昼だし」

「そーしよーぜ。俺もう腹減ったわ……」

 僕たちは吹天道のスーパーに向かう事にした。既に儀式の足りなかった分の材料を買いに行くために何度か行ったことがあったから、場所はよく知っていた。

「あ、でも電車の時間大丈夫か? 確かお昼どきだと二時間に一本しか走ってないはずだろ?」

 僕が思い出してそう言うと、春葉が一枚の小さな紙とにらめっこし始める。青野乃駅の時刻表のようだった。

「……えっと、次は七分後ね」

「全然時間無いじゃないか!」

「走んぞ!」

 一目散にリビングを飛び出した正広。僕と春葉も慌てて後を追いかける。

「ちょっと待てって!」

 正広は引退してもさすが運動部といった感じで、走るペースに僕も春葉も全然追いつけなかった。かといって、僕達がちんたらしてたら電車が行ってしまうのでそれはそれで困る。

 息切れで頭がくらくらしてきた。こんなに全力疾走するのはいつ振りだろうか。

 正広が後ろの様子を見ようと振り向いたので、正広にもう少しペースを下げてもらおうと僕は絶え絶えの息で呼びかける。

「正広、ちょっ、速い……」

「ばかっ、朝日前っ!」

 こっちを向いた正広が大きな声で叫ぶ。

「は?」

 正広を追って十字路を飛び出すと、左にそれなりのスピードが出た軽トラが目の前で。

 あ、ヤバ――

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