最終話 名

 月日は流れ、グローロア大陸での魔物の行動は今まで通りのものとなっている。

 ただ天敵である人が居ない為か、少し数が増えているように感じた。 


 現地に到着した兵達は、対魔物用の砦建築で未だ大きな動きは見せておらず、その為かフィーデス周辺は手付かずだった。

 そして不思議な事に、聖剣はまるで俺達が来るのを待つかのように地面に刺さっていたのだ。


「本当、あれは奇跡の様だった。きっとミコが、起こして欲しいって言ってたんだな」


 そして数日前にシュピーレン村へ戻ると、そこでは難民の受け入れがとっくに始まっており、その中には、おやびんやウサーズ達の姿も見えた……。

 しかし、その事については割愛しよう。


 俺は村に着くや否や、皆にみ守られる中、無銘の代わりとなるミコの器を打ち始めた。


 それにしても、ミコの居ない冒険は少し味気ない物だった。

 今回の冒険も山あり谷あり、色んな事があったはずなのに……。

 

 話してやりたい。冒険中に何があったか、どんなものを見て、何を食べたか。

 プロポーズなんかもしたり、失敗したりもあったな。ははは、アレは一大イベントだった……。


 いっぱい、いっぱいありすぎて上手に伝えられないかもしれないけど、少しずつでも話してあげたいな。

 まぁ、アイツは興味ないかもだけど……。


 そして今日、とうとうこの日を迎えることができたのだ──。


「ふぅ、無名や無刃に負けず劣らずいい出来だ。次はとうとう焼き入れだな……」


 俺は額に汗をしながら水の温度を確認後、あらたな刃を火炉に入れ沸かした。

 

 すでに完成まじかのミコの器。

 泣いても笑っても、ここで全てが決まる。


「頼むミコ、戻ってきてくれ‼」


 水につけると同時に、蒸気と共に眩い閃光が発せられた。

 シンシの時と同じ現象だ!


 水槽から水上げされた刃は、緩やかな弧を描き姿を表した。


「──ミコ、居るんだろ? ミコ!!」


 他の仲間も、固唾を呑んで見守っている。

 それでもシンシの時同様、返事をする素振りが見えなかった。


「皆、お前の事を待ってるんだよ。早く起きろって、御馳走だって準備できて……」


『御馳走、御馳走って言ったカナ‼』


 ところがだ、御馳走の名を出した途端に念話が聞こえた。

 そして俺達の前に、小さな方のミコが元気いっぱいで飛び出してきたのだ。


「ミコ‼」


 俺は彼女を抱きしめた。

 強く、強く。もうけして離さない、そう誓って。


「く、苦しいシ、潰れるカナ‼」


 嫌がるミコに頬擦りをする。

 嬉しいのは当然だがそれだけではない。今はきっと酷い顔をしている、見られたくなかったのだ。


 そんなじゃれ合いはしばらく続き、俺は落ち着いた所で顔を上げた。


「あれ、皆は?」


 気付くと鍛冶場には誰一人居なかった。

 俺とミコ、二人だけを残して……。


「あ~……。何か変な気を回させちゃったみたいだな」


 皆もミコと再開を喜び合いたかっただろうに。

 なんか、悪い事しちゃったな。


 冷静になり、顔から火が出そうになる。


「なんだか照れ臭いし、俺達も帰って飯でも……」


「うんしょ、うんしょ」


 少し手と目を離すと、ミコは目の前には居なかった。

 脇に置いてある新たな器、それを小さい体で持ち上げようとしているのだ。


「おい、こらミコ! まだ未完成で刃がついてないとは言え重いんだ、潰されたらどうするんだよ」


「ねぇねぇ、カナデカナデ」


「ん? なんだよ」


 こちらを見ているミコの口からは「カナデ、この剣の名前を教えてほしいカナ!」っと、懐かしい言葉が発せられた。


 何処かで聞いたことがあるような。

 俺は、初めて彼女と出会った時のことを思い出す。


「あぁ、懐かしいな。確か『すまないミコ……こいつには名前が無いんだよ』だったかな?」


 俺達は、互いに見つめ合って笑い合う。

 あれから随分色んな事があった。

 右も左も分からないこの世界で、生き残る事に必死で……。それでもこうしてハッピーエンドを迎えている、こんなに嬉しい事は無い。


「実はな、ミコ。今回は決めてあるんだ」


 じいちゃんを超えた時、初めてつけようと思っていた帯刀の名。

 そして、剣に宿る親友ミコの名を借りて──。 


「この刀の銘は『帯刀ノ命たてわきのみこと』そう名付けるつもりだ」


「タテワキノミコト? ボクとカナデの名前が入ってるカナ!?」


 完成した刀は、末代まで家宝として語り、継がせていこう。

 正式にミコを、家族として迎える意味をかねて。


「さぁ、完成させるのは明日だ。ご馳走食べに行こうぜ」

 

「うんカナ!!」


 未完成の帯刀ノ命を手に、ミコと家に向かう。


 長い人生だ、今後も多くの障害が行く手を阻むだろう。

 それでも俺は必ず乗り越えて見せる。

 なんたって当時と違い、今は愛する大切が沢山居るのだから。

 

                 Fin

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