444話 帰還と出発

 空から飛び立った俺は、皆の待つその中央へと着地する──。


「カナデさん~、お帰りなさい!」


「おっと……。ただいま、ハーモニー」


 瞳に涙を浮かべながら、ハーモニーが飛びついてきた。

 俺は彼女を抱きしめ、頬擦りをする。

 命あって帰って来た、それを実感する瞬間だ。 


「お帰りなさいカナデ様、お帰りをお待ちしておりました。必ず無事だと、信じて……」


「あぁ、心配かけたな」


 村人達の歓喜の渦の中、前へと通されたのであろうティアとトゥナも現れた。

 

 彼女らに心配をかけたくない。表情だけでも、なんとか笑顔を取り繕う。

 でも、どうやってミコの事を伝えたら……。


「カナデ君、おかえり。あの……ミコちゃんは?」


「……」

 

 トゥナの口から、今一番聞かれたくない言葉が飛び出した。

 ここに来る途中、何度も頭の中で反復した説明の言葉は、喉から咄嗟に出て来ない。

 まるで胸の途中で突っ掛かってしまった棘の様に。

 でも言わないと……。


「ミコは居ない。俺を庇って……。詳しく話すから、一旦家にいこう」


 聞こえてた者達の表情は暗い。特に、ミコの関係者は今にも泣き出してしまいそうな顔を見せる。


 明るかった雰囲気は一変、誰一人言葉を発する者はいなくなった。

 そしてミコと関係の深い者だけが、俺の後へと着いて来る。



「そうなの……。ミコちゃん、カナデ君を助けてくれたんだ?」


 家まで着いて来たのは、トゥナ、ハーモニー、ティア、ルームにガイアのおっさん。それと無刃の中から姿を表したシンシ。


 俺は皆に全てを説明した。その最中、泣き崩れる者も……。


「すまない、俺が情けないばかりに!」


 悔やんでも悔やみきれない。自然と手には力が入る。


「カナデさんが悪い訳じゃありませんよ〜。それにシンシちゃんの時の様に、ミコちゃんを復活させることは出来ないのでしょうか?」


 それは考えていた、しかし……。


「残念ながら、それは出来ぬ。御手上げじゃな」


「どうしてですか! シンシ様の時は無事に成功なされたじゃないですか!」


 ガイアのおっさんが否定的な声を上げる。

 それに対しティアは、納得が行かない様子だ。


 やっぱりそうか。おっさんなら、万が一にも復活させることのできる可能性を知っている思ったが。そんなに都合よくは行かないらしい。


「ティア、器だよ。ミコは、魔力を使いきって無銘ごと光になって消えたんだ。打ち直すにも、素材に必要な金属が存在しないんだよ……」


 俺の説明を聞き、完全にお通やムードだ。

 みんなの口数も減り、暗い雰囲気が漂う。


「でもだ、でも!」


 諦めたくない。諦める事なんて出来るはずがない。

 例え俺の命をくれてやる事になろうが、何としてもミコだけは‼


「ククルカンが、俺に諦めるなって言ってくれた。きっとそれはミコの事なんだと思う。別に方法があるはずなんだ、きっと、きっと!」


 決めたんだ、俺の大切は何一つ失わせないって!

 ミコが居ない人生なんて考えられないんだ。考えろ、考えろ。

 情報が足りないなら、ギルドに依頼を出すか?

 信じてもらえるかは分からないけど、世界を守ったって功績もある。

 なんなら、トゥナのお父さんに頼み込んで、国ぐるみで協力してもらっても……。


 気持ちばかりが焦り、頭がぐるぐるしている時だ。誰かが俺の肩を叩く。


「ねぇねぇカナデ君、聞いてるの? 少し質問良いかな」


 と、トゥナが俺に声を掛けてきたのだ。


「あぁゴメン、考え事をしていた。聞きたい事ってなんだ?」


「えっと、私が聞いた話だと、確かカナデ君が当時の聖剣をスパンッ! ってやったから、ミコちゃんは無銘に移り住んだのよね?」


「うん、それで間違いないよ」


 今思えば、それすらも懐かしい。

 思い出すだけで、目頭が熱くなっていく。


「素材って、その折れた聖剣じゃ駄目なのかな?」


「……え?」


 折れた聖剣? それってもしかして、グローリアで俺が斬ったカラドボルグ……。


「──それだよトゥナ! 必要な素材は、ミコが生まれたときに使われた相性の良いミスリル。それで出来たカラドボルグなら‼」


 無銘の中に移り住んだから、器は無銘だと思いこんでいた。

 でも違う、そうじゃない。

 本来のミコの器は、ガイアのおっさんが打った聖剣カラドボルグの方だ、それなら未だ残っているかもしれない!


「なんじゃ、あれはまだ残っておるのか? あの剣が素材なら、十分に可能じゃな」


 おっさんのお墨付きだ、問題は折れたカラドボルグの行方なんだけど……。


「刃の先端は、魔王との戦いでグローリアに埋もれているかもな。でも柄側は確か……」


「フィーデス近くの森の先、私が戦ったあの地ね?」


 それが分かれば善は急げだ!

 さっそく準備して……。


「カナデさん、こんなこともあろうかと、準備はもう出来てますよ」


「えぇカナデ様、グローリア大陸に向かう最短ルートも調べ済みです。運良くこの村の東、新たに作られた港町に、オールアウト号が停泊しているそうですよ?」


 どこからか引きずり出されて来た大荷物。ハーモニーもティアも、行く気満々なようだ。


「あはは……。少し準備が良すぎないか?」


 まったく、頼りになる仲間達だ。

 俺は彼女達の手際の良さに、顔を引きつらせる。


「カナデ君、行くのよね? ミコちゃんを助ける為の冒険に」


「あぁ、もちろんだ。トゥナ、ハーモニー、ティア、ルームにシンシも付いてきてくれるか?」


 彼女達の表情が当然だと物語っている。

 それが嬉しくて嬉しくて、俺もやっと心から笑顔になれた。

 

「さぁ行くぞ! 俺達皆が笑えるハッピーエンド、それを掴むために!!」

 

 余程の成功者でも無い限り、人生ってのは今を生きる者には優しくはない。

 自分の思うように物事は進まず、傷付き、ネガったり、深く絶望する事も少なくは無いだろう。


 それは孤独感や、絶望、時には自分の価値が分からなくなったり、未来に不安を感じたりするからかもしれない。


 でも人は皆、気付きにくいが心に小さな希望の灯火を見い出し、それを集め先を照らし出さなければならない。

 そして一歩踏み出す勇気が刃となり、未来を切り開く事が出来る。


  抽象的だが、そんな気がする。


 まぁ何が言いたいかって言うと……。


 自分の大切。それさえ見つけて、意地でも離さなければ、こんな俺でもなんとかやっていける……って、そんな所かな?

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