444話 帰還と出発
空から飛び立った俺は、皆の待つその中央へと着地する──。
「カナデさん~、お帰りなさい!」
「おっと……。ただいま、ハーモニー」
瞳に涙を浮かべながら、ハーモニーが飛びついてきた。
俺は彼女を抱きしめ、頬擦りをする。
命あって帰って来た、それを実感する瞬間だ。
「お帰りなさいカナデ様、お帰りをお待ちしておりました。必ず無事だと、信じて……」
「あぁ、心配かけたな」
村人達の歓喜の渦の中、前へと通されたのであろうティアとトゥナも現れた。
彼女らに心配をかけたくない。表情だけでも、なんとか笑顔を取り繕う。
でも、どうやってミコの事を伝えたら……。
「カナデ君、おかえり。あの……ミコちゃんは?」
「……」
トゥナの口から、今一番聞かれたくない言葉が飛び出した。
ここに来る途中、何度も頭の中で反復した説明の言葉は、喉から咄嗟に出て来ない。
まるで胸の途中で突っ掛かってしまった棘の様に。
でも言わないと……。
「ミコは居ない。俺を庇って……。詳しく話すから、一旦家にいこう」
聞こえてた者達の表情は暗い。特に、ミコの関係者は今にも泣き出してしまいそうな顔を見せる。
明るかった雰囲気は一変、誰一人言葉を発する者はいなくなった。
そしてミコと関係の深い者だけが、俺の後へと着いて来る。
◇
「そうなの……。ミコちゃん、カナデ君を助けてくれたんだ?」
家まで着いて来たのは、トゥナ、ハーモニー、ティア、ルームにガイアのおっさん。それと無刃の中から姿を表したシンシ。
俺は皆に全てを説明した。その最中、泣き崩れる者も……。
「すまない、俺が情けないばかりに!」
悔やんでも悔やみきれない。自然と手には力が入る。
「カナデさんが悪い訳じゃありませんよ〜。それにシンシちゃんの時の様に、ミコちゃんを復活させることは出来ないのでしょうか?」
それは考えていた、しかし……。
「残念ながら、それは出来ぬ。御手上げじゃな」
「どうしてですか! シンシ様の時は無事に成功なされたじゃないですか!」
ガイアのおっさんが否定的な声を上げる。
それに対しティアは、納得が行かない様子だ。
やっぱりそうか。おっさんなら、万が一にも復活させることのできる可能性を知っている思ったが。そんなに都合よくは行かないらしい。
「ティア、器だよ。ミコは、魔力を使いきって無銘ごと光になって消えたんだ。打ち直すにも、素材に必要な金属が存在しないんだよ……」
俺の説明を聞き、完全にお通やムードだ。
みんなの口数も減り、暗い雰囲気が漂う。
「でもだ、でも!」
諦めたくない。諦める事なんて出来るはずがない。
例え俺の命をくれてやる事になろうが、何としてもミコだけは‼
「ククルカンが、俺に諦めるなって言ってくれた。きっとそれはミコの事なんだと思う。別に方法があるはずなんだ、きっと、きっと!」
決めたんだ、俺の大切は何一つ失わせないって!
ミコが居ない人生なんて考えられないんだ。考えろ、考えろ。
情報が足りないなら、ギルドに依頼を出すか?
信じてもらえるかは分からないけど、世界を守ったって功績もある。
なんなら、トゥナのお父さんに頼み込んで、国ぐるみで協力してもらっても……。
気持ちばかりが焦り、頭がぐるぐるしている時だ。誰かが俺の肩を叩く。
「ねぇねぇカナデ君、聞いてるの? 少し質問良いかな」
と、トゥナが俺に声を掛けてきたのだ。
「あぁゴメン、考え事をしていた。聞きたい事ってなんだ?」
「えっと、私が聞いた話だと、確かカナデ君が当時の聖剣をスパンッ! ってやったから、ミコちゃんは無銘に移り住んだのよね?」
「うん、それで間違いないよ」
今思えば、それすらも懐かしい。
思い出すだけで、目頭が熱くなっていく。
「素材って、その折れた聖剣じゃ駄目なのかな?」
「……え?」
折れた聖剣? それってもしかして、グローリアで俺が斬ったカラドボルグ……。
「──それだよトゥナ! 必要な素材は、ミコが生まれたときに使われた相性の良いミスリル。それで出来たカラドボルグなら‼」
無銘の中に移り住んだから、器は無銘だと思いこんでいた。
でも違う、そうじゃない。
本来のミコの器は、ガイアのおっさんが打った聖剣カラドボルグの方だ、それなら未だ残っているかもしれない!
「なんじゃ、あれはまだ残っておるのか? あの剣が素材なら、十分に可能じゃな」
おっさんのお墨付きだ、問題は折れたカラドボルグの行方なんだけど……。
「刃の先端は、魔王との戦いでグローリアに埋もれているかもな。でも柄側は確か……」
「フィーデス近くの森の先、私が戦ったあの地ね?」
それが分かれば善は急げだ!
さっそく準備して……。
「カナデさん、こんなこともあろうかと、準備はもう出来てますよ」
「えぇカナデ様、グローリア大陸に向かう最短ルートも調べ済みです。運良くこの村の東、新たに作られた港町に、オールアウト号が停泊しているそうですよ?」
どこからか引きずり出されて来た大荷物。ハーモニーもティアも、行く気満々なようだ。
「あはは……。少し準備が良すぎないか?」
まったく、頼りになる仲間達だ。
俺は彼女達の手際の良さに、顔を引きつらせる。
「カナデ君、行くのよね? ミコちゃんを助ける為の冒険に」
「あぁ、もちろんだ。トゥナ、ハーモニー、ティア、ルームにシンシも付いてきてくれるか?」
彼女達の表情が当然だと物語っている。
それが嬉しくて嬉しくて、俺もやっと心から笑顔になれた。
「さぁ行くぞ! 俺達皆が笑えるハッピーエンド、それを掴むために!!」
余程の成功者でも無い限り、人生ってのは今を生きる者には優しくはない。
自分の思うように物事は進まず、傷付き、ネガったり、深く絶望する事も少なくは無いだろう。
それは孤独感や、絶望、時には自分の価値が分からなくなったり、未来に不安を感じたりするからかもしれない。
でも人は皆、気付きにくいが心に小さな希望の灯火を見い出し、それを集め先を照らし出さなければならない。
そして一歩踏み出す勇気が刃となり、未来を切り開く事が出来る。
抽象的だが、そんな気がする。
まぁ何が言いたいかって言うと……。
自分の大切。それさえ見つけて、意地でも離さなければ、こんな俺でもなんとかやっていける……って、そんな所かな?
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