423話 聖刀制作二日目

「小僧……。おぬし、今が大事な時期だと本当に理解しておるのか? 一体、何を考えておる」


 今朝方の事だ。


 トゥナと朝帰りをした俺は、こっそりと自宅に忍び込んだ。

 ハーモニーとティアの裏をかき、普段出入りに使っている勝手口ではなく、玄関から帰宅。

 しかし驚くことに、彼女達はそれを予測していたように、腕を組み待ち構えていたのだ。

 油断していた俺は、咄嗟の機転が利かず、え無く御用。

 情けなくも、顔に引っ掻き傷とビンタの跡をつけている……。


「いや~その……。返す言葉もございません」


 そして現在、俺は情けなくも皆が集まっている鍛冶場で縮こまっているのだ。


「まぁ良いわ。昨日の続き、よもや出来ぬとは言わぬよな?」


「あ、あぁ。こんな見た目だが気持ちは充実してる。どれだけだってやってやるさ!」


 起死回生の手も見えた。後はシンシを起こすのみ‼

 これでやる気が出ない訳がない。


「そうですか~。充実、どれだけでも……。カナデさん、昨晩はさぞお楽しみだったようですね!!」


「いえ、ハーモニーさん……。そう言う意味では無くてですね?」


 つい、敬語になってしまう。


 ここ最近、怒りっぱなしで可愛い顔が台無しなハーモニー。

 なんでこう、人がやる気を出すタイミングで水を差すかな?


 そして今日も今日とて、さも当然なご様子で、トゥナ、ハーモニー、ティアの三名は俺の仕事を見守り来ていた。


「本当の所はどうなんですかね~!」っと、頬を膨らませるハーモニ。


「ねぇ、どうして朝帰りって良くない事なの?」っと、純粋無垢な瞳で問いかけるトゥナに。


 極めつけにティアの奴は「し、刺激が強すぎますね……」っと、鼻に乙女に似つかわしくない詰め物をしていた。


 この三人ときたら……。

 平常運転すぎて、世界の危機だって事を忘れそうになるよ。


「まったく、なんて情けない。男子おのこ女子おなごの御機嫌伺いなどと……」


 年長者のガイアのおっさんが、ため息交じりで土下座中の俺に説教を始めた。

 しかし、男女差別はいけない。

 何故なら今日は、彼女達だけではないのだから──。


「おとん、後でおかんに報告しとくかんな。覚悟しとき」


 自分の作ったマジックアイテムの具合が見たいと、偶然ルームが居合わせていたのだ。

 その事を忘れていたのだろう、おっさんの顔色が見る見るうちに悪くなっていった……。


「宣言撤回じゃ、女子無くして男子は生まれぬ。小僧よ、娘っ子達を怒らせるとは何事じゃ!」


「おっさん……急に手のひら返しやがって」


 こんな人が打った剣で、救われた世界。本当に大丈夫なのだろうか?


 一向に進まぬ作業、流石に見かねたのだろう──。


「え~っと御二人とも? 随分前から火も着いてますし、いい加減仕事してくれませんかね?」


 っと、火炉の火を起こしていたオルデカが、呆れ顔で俺達のやり取りに口を出してきた。

 

 しかしタイミングが悪い。

 誰にも向けることが出来なかったモヤモヤの矛先は、彼のもとへ──。


「そんなの分かっておるわい!」


「あんたの緊張をほぐすために決まってるだろ!」


 っと、オルデカに八つ当たりをしてしまうダメ鍛冶師の俺達。


 彼を含め、周囲の者皆が俺達に冷たい視線を浴びせてきた。

 

 ヤメテそんな目で見ないで‼ って、いつまでもやっていても仕方がない。いい加減気持ちを切り替えよう。

 

「常談は終わりだ。ガイアおっさん、オルデカさん──やるぞ!!」


 心機一転、火箸を使いミスリルを赤々と燃える炭の中に突っ込んだ。

 そして鞴を使い空気を送り、熱せられるのをまった……。


「カナデさんも御師匠も、流石職人ですね。さっきの雰囲気、勢いだけでうやむやにする気なんて」


 さっきの仕返しなのだろう。オルデカがジト目のまま、俺達だけに聞こえる声で呟いた。


「む、無駄話をするでない!」


「そ、そんなことより直に沸く、準備をしてくれよ?」


 シンシ復活の二日目の作業は、こんなグダグダなままスタートを切ることになったのだった……。

 

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