420話 造込み
「カ、カナデさん!」
「なんだ、まだ叩きおるのか!?」
一つ目のミスリルを一先ず叩き終え、二つ目のミスリルに取り掛かったところだ。
不意に顔を上げると、何度も、何度も繰り返し大槌を振うガイアのおっさんとオルデカの膝が笑っている。
重量物を幾度となく振り回す、疲労が出ても仕方ない。
しかし槌を振って、腕では無く膝に来ている所を見ると、流石としか言いようがないな。
「あぁ。事前にも説明した通り、今回は四種の鋼を合わせる四方詰めで一本の刀を作り上げる。じいちゃんは三種の鋼を合わせる本三枚を得意としてた、きっと無銘の
合わせる枚数を増やせば良いと言うものでもないが、他に案もないしな。
本三枚とは、刃に当たる刃鉄、峰部分の芯鉄、その両脇を挟む皮鉄の、三種類の鋼をひと塊りにし、延ばし、刀の形に仕上げたもの。
それに対し、今回作る四方詰め。
それは刃に当たる刃先、峰に当たる
両脇を挟む皮鉄の四種の鋼を一塊にし、刀として仕上げたものだ。
「で、でも結局は同じ素材を重ねてるだけですよね? それになんの意味が……」
「意味はある! この造込み作業があるからこそ、硬く、しなやかな刀が生まれる! 細い刀で折れにくく、良く斬れる刃を仕上げるためには必ず必要な工程なんだよ……」
それが現代の科学でも再現できない、刀匠だけが打つ事が出来た技術。
刃先、棟鉄は中心に使われる芯鉄より固く、皮鉄はさらに固い鋼を使う。
今回はシンシの剣を溶かし、鍛え上げ芯鉄に。
ミスリンが用意してくれたミスリルを、 刃先と棟鉄、皮鉄に使う予定なのだが……。
「くっ……しまった!?」
手元が狂い、俺が振り下ろした小槌が金床を叩く。
片目だと遠近感が取りにくい……。ってそれより──!
「良かった、目立たない程度の傷か?」
金床の作業面を、じっと見つめた。
これに大きな傷が出来れば、仕上がりにも影響が出るからな。
せっかく村人達が作ってくれた設備なんだ、大切に使わないと。
「……今日はここまでじゃ、続きは明日じゃ!」
「なっ──どうしてなんだよ、まだ外は明るいじゃないか!」
おっさんからの、突然の作業停止命令だった。
実際、作業を始めて五時間は立っていないのだろう、どうして急に……。
「ワシ等の魔力は枯れかけておる。それに……」
ガイアのおっさんは、俺に向かい指を指した。
「右目も見えず、遠近感が取りづらいのじゃろ? その状況で槌を振るってきたのじゃ、主も気付かぬ間に疲弊しておる」
指の先を追うと、俺の身に着けている白装束は汗で体に張り付くほどだった。
言われてみれば、喉がカラカラなうえ、普段槌を振ってる以上に腕も重く感じる。
これが魔力を放出しながらの鍛造……。
「分かった、続きは明日にしよう」
俺は大人しく槌を置き、炉の火を落とした。
焦ることは無い。きっとまだ時間があるはずだっと、自分に言い聞かせて……。
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