418話 炉に熱を
「──ただいま。お待たせ、これで全ての準備が整った!」
俺は家に帰るなり、気合を入れ皆に声を掛けた。
とうとう待ち望んだ、この時が来たのだ。
まったく、それにしても誰が思おうか? じいちゃんを超えたいって想いで続けてきた刀鍛冶が、異世界を救うきっかけになる大仕事になるだなんて……。
「本当、じいちゃんが偉大だと目標にしてる俺が困るんだよな」
なんて頭を掻きながらぼやいてみるものの、胸の高鳴りは止むことを知らない。
だってそうだろ? ついでとは言え世界を救うだぞ。人生でこんな大仕事、一度あるか無いか、なのだから──職人冥利に尽きるってもんだ!
「よし、そろそろシンシを起こす段取りを始めようか?」
環境も揃い、仲間達に囲まれて、皆からは……多分信頼されている。
今後、一波乱あるだろうが愛する女性が三人も傍に居るんだ。
そんな今が大好きだ。例え相手が父さんだろうと、俺の幸せを奪わせはしない‼
「さぁ行こう──‼」
俺は、食卓テーブルの上の小槌を手にする。
その後に続く様に、ガイアのおっさんとオルデカが大槌を肩に担いだ。
そして俺達は俺達の本来あるべき
◇
「──って、皆ついてくるのかよ!?」
家を出て直ぐの事だ。
背後からの視線を感じ振り向くと、何故かトゥナ、ハーモニー、ティアの三名が着いて来てたのだ。
「えっと……駄目かしら? カナデ君が剣を作る所、実際に見てみたくて……」
駄目って訳じゃないけど、ギャラリーが居ると緊張するかもしれない。何より刀鍛冶は一時間、二時間で出来るものでは無い。むしろ今回は、数日間を予定している。
火花が散ったりで見始めは良いが、同じことの繰り返しで見映えが……。
「フォルトゥナ様は『勇者様、誕生物語の冒頭と同じね!』って、楽しみにしておられましたからね」
ティアが口元を手で隠し、満面の笑みで答えた。
いや、知らないって……。
なに? この世界の勇者の話の出だし、そんな風になってんの?
「いや、そんな大それた事じゃ……」
横並びで歩き、小ささがより際立つハーモニーも何かを言いたそうだ。
ハーモニーはトゥナと違い、勇者に憧れたりはしてないし余計に退屈なんじゃ?
「それに、妻なら夫の働く姿を見たいと思うのは必然ですよ~?」
「──って、誰が妻だよ‼」
この子怖い! 最近は本当、迷いも
「小僧よ。響きの奴もモテおったが、時と場合はわきまえておったぞ?」
「え? これ、俺のせいですか?」
相変わらず、緊張感も無く皆が笑顔を見せた。
でもシンシを起こしに向かうなら、きっとこんな雰囲気が正解なのだろう。
気づけば目の前には空に向かいそびえ立つ、一本の煙突が見えた。
中に入ると職人達は中央に、ギャラリーは部屋の端に立つ。
「じゃ、火を着ける!」
鍛冶場に着くなり俺は
ここで灯す炎が、シンシに命の熱を与えるきっかけとなる。
火打石火をカチン! っとこすり合わせると、削れた打ち金が熱を持ち火花へと変わった。
何度も繰り返しているうちに、ドリアードさんが準備してくれた、杉の木から作り出した着火剤に火が移る。
「よし、火が着いた」
生まれたばかりの小さな灯を徐々に大きくし、最終的に木炭に火を移す。
鞴で空気を送り、炭は赤々と色味を帯びていく。
「な、なぁカナデさん」
突然の事だ、向かいに居るガイアのおっさんの弟子、オルデカから俺は声を掛けられた。
しかも彼は、とても不安そうな表情を浮かべている……。
「どうかしたのか?」
どうもしない訳が無かった。何故なら目の前のオルデカの顔色は良くなく、いつしか手は震え、冷汗を流しているのだから……。
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