403話 魔王誕生秘話2

「俺が……人質に?」


「そうだ。渚さんはお前を助けるために、自らの意思で再び戻ったんだ……。ただ、当時のグローリア王は本当にろくでもない奴でな」


 ろくでもないって……いったい何が──。


「渚さんが自分達の元へと戻ると、当時のグローリア王は泣きじゃくるお前を見て『ガキは面倒だ、人質は一人居れば良いか?』っと、俺達への見せしめに傷つけたのさ」


「そっ! そんな……」


 なんて胸くそ悪い話だ、俺が召喚された時の王も大概だが、この話に出てくるグローリア王はそれ以上の外道だ。

 そんなことが、生まれたばかりの自分の身に降り注いでいたなんて……。


 鎮は急にアゴに手当て「そう言えばあの時、お前は治らないほどの怪我をおってたはずだが……」っと、何やら独り言のような事を口にする。


 でも、この話が本当ならおかしくないか──?


「じゃぁなんで、母さんじゃなく俺が生きてるんだ? その話だと、殺されるのは俺の方だろ」


「あぁ? それを見た渚さんは、自殺したんだよ。俺達の目の前でな!!」


「なっ!? なんでまた……」


 いや、聞くまでも……。


「あいつらも焦ってたな。渚さんが死ねば、人質は赤子のお前しか居なくなる、慌てて渚さんの治療を試みたようだが、ポーションだの得たいの知れない回復アイテムが主流のこの世界。スキルの影響で効果がでなくてな?」


 やっぱり、母さんは──俺を守って!


「結局グローリア王は、命の助からない渚さんを人質にするのを諦めた訳だ」


 そんな事があったのか……。

 今まで多くを見聞きし、触れ、感じたりできているのもすべて、母さんが自分を犠牲にして俺を助けたから。


「今でも鮮明に覚えている。抱き抱えた渚さんがどんどん冷たくなって行く感覚を……。最後の最後まで『カナデをお願い』って言いながら命を引き取って。はっは、良い女だろ? そして俺はグローリアから抜け出し、俺は人類の敵になった。めでたしめでたし」


 知らなかった……俺は本当に、何もかも知らなすぎた。


 でも、それならなぜ──?


「じいちゃんは……じいちゃんはなんでその事を俺に内緒にしてたんだよ……」


「考えてもみれば、言えるはずなんてねぇよな。大好きな孫に『お前の父親は自分が殺した』なんてな!!」


 鎮は、じいちゃんを馬鹿にするように腹を抱え笑い始めた。 


「これが俺が世界を敵に回した経緯だ。どうだ、お涙頂戴だろ? くそ爺には殺されはしたが、カナデが無事にここまで育ったんだ。そこだけは感謝しないとな」


 俺は、力なくその場に膝をつく。


 分からない……。

 意図した事でもないのに、俺達召喚者がなぜそんな目に合わないと行けないんだよ。

 それさえなければ、今頃家族皆で笑って過ごせていたかもしれないって言うのに……。


「──おかしい……そんなのおかしいわ」


「トゥナ……」


 ポーションにより傷が癒えトゥナは、立ち上がり俺の前に出る。

 手足は震え、それでも鎮を真っ直ぐ睨み付けながら──。


「確かに許せないし、貴方の境遇には同情もする。怒る理由も分かるわ……。でも、グローリアの町を滅ぼしたならもう復讐は終わったじゃない。どうして、関係の無い人達まで殺すの!?」


「関係がない? 大有りさ、終わりなんかじねぇよ。そもそも争い事なんてあったから、俺達は呼ばれたんだ」


 確かにそうかもしれない。

 争いがなければ、じいちゃんも母さんも、父さんも俺もこの世界に呼ばれることなどなかった。


 でも違う。


「カナデ、お前はよく知ってるだろ? 人は生きてれば必ず争いを生む。宗教、人種差別──人類の歴史は争いの歴史だってな!!」


 父さんの言うことは間違っていない。

 地球でさえ、毎日事件が起き、抗争が起き、人が人を傷付ける……。


 鎮はカラドボルグを喉元に掲げ、舌を出す。そして──


「俺達のような次の犠牲者が出ないように、人類は抹殺する。俺にはその力も、権利もあるからな!」


 っと、俺達に向かい、人類に対しての宣戦布告を行った。


「なんだよ、権利って……。どれだけ大義名分や綺麗事を並べても、奪って良い命なんてあるわけ無いだろ!?」


 俺は立ち上がった。

 正直、グローリアのした事は頭にきている。

 父さんと同じ境遇なら呪いもしただろう、でも俺には守るべきものがある。それを誰かに奪われる事など、見過ごしは出来ない!


「渚さんが守った命だ。カナデ、お前を殺したくはない。俺の元へ来い」


「断る‼ 父さん、あんたは俺が止める──鑑定!!」


 鑑定を使い、魔王を倒すすべを模索しようとした。

 しかしいつもとは違い、視界が真っ赤に染まる。

 そしてその中に、白地のカタカナ文字と、久しく聞く声が聞こえる


<──対象、帯刀鎮ヲ確認>っと……。


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