399話 目前

 魔物の包囲網をかい潜り、鉄の橋を越えさらに東へと向かう。


「まったく、本当に頼れる仲間だよ──」


 見上げると仁王立ちしたククルカンが「ここは任せろ」っと言わんばかりに、空の上からこちらを見つめていた。

 その安心感ときたら……。


 龍神様の視線を背に、二人乗りで馬を走らせている俺達は、新しく出来たばかりの巨大な湖の横を抜け、当時ウサーズ達に襲われた森へと入った。


「──カナデさん、方角はこちらであってますか!?」


「大丈夫です、グローリアの方に迎えば。魔物もそちらから来ている様なので」


 薄気味悪いほど暗い森の中。


 食欲が沸く景色ではないが、俺は後ろに乗せて貰いながらも一人携帯食事を頬張る。

 決してサボりと言うわけではない。


 以前に誰かから、魔力の回復は自然回復の他に、食事と睡眠から取ることが出来る。っと、聞いたことがある。

 こんな状況だ、寝て落馬するわけにもいかないから食べるしかないんだけど……。


『カナデばっかずるいシ! ボクも食べるカナ』


 こんな時にも我等が食いしん坊、暴食のミコ様から苦情が入る。


「──って、言ってる場合か!」


 この緊急事態、ミコに悠長に食事を与えている暇などない、少しでも回復しておかないと。


 そのためか、俺はつい大きな声を出してミコにツッコミを入れてしまった。

 しかしそのことを、自分に言ったと勘違いしたのだろう……。


「す、すみません! 何がお気に触る事を!?」っと、ファーマの義父が謝り始めるしまつ。


「違うんで気にしないで下さい、こっちの話しなので!」


 あぁーもう! 落ちついて魔力回復も出来やしないじゃないか!


 こんな事で、本当に大丈夫なのだろうか?

 相手は伝説上の未知の存在、どんな姿で、どれだけ強大な力を持っているか分かったものじゃない。

 万全を期しても、足りないぐらいなのに………。

 

「──カナデさん魔物です! しっかり捕まって居てください!」


「うぉっ!?」


 突然の横揺れ、俺は必死にファーマの義父に抱きついた。


 道から外れ、正面から襲ってくる数匹の魔物を回避したのか?

 斜め前から、魔物が凄い剣幕で向かって来る。


 木々が立ち並ぶ森の中を、縦横無尽に駆け抜ける。

 まるで、木が俺達を避けているようだ。


「無事に撒けたみたいですね」


 後ろを振り向くと、魔物の姿は見えなくなっていた。

 魔物特有の大きな体が木々に阻まれ、追ってはこれなかったのだろう。


 さらにいくつかの障害物を乗り越え、広い通りへと戻る。


「み、見事な綱捌きですね……」


 内心、ぶつかるのではないかとドキドキだったけど……。


「冒険者時代の杵柄きねづかですよ、私は良く、馬に乗ったままボウガンで魔物と退治してたので。ただ、狙撃の腕はからっきしでしたけどね」


「それはまた、器用な話ですね……」


 その後も何度か魔物と遭遇するものの、彼の馬術に助けられた。


 そして随分と走る……。

 そろそろ、森を抜けるころだけど──。


 目を凝らし先を見えると、出口と思われる明かりが見えた。

 しかしそんな時だ、その進行方向から何か音が聞こえたる。

 何度も何度も繰り返し響く、聞き慣れた金属の衝突音──って事はこの先に、人がいるのか!?


「カナデさん、森を抜けます!」


 森を抜けた先。そこには魔物に取り囲まれ、黒い装いの男と剣を交える、透明感のある長い青髪の女性の姿が見えた──。


「トゥナ!?」

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