第390話 忠告

『わっぱ、主に一つ忠告がる』


 海水で、塩水に濡れた無銘を空の上で手入れしている時だ。

 突然、頭上からククルカンが俺に声を掛けてきた。


「忠告? それってやっぱり……」


 目的地の事か、もしくは魔王の事についてだろう。

 神様がわざわざ忠告をするって言うんだ。それはもう、よほど重大な内容に違い……


『余計な世話かとは思うが、最低限相手を選んで交友関係は築いたほうが良いと思うぞ?』


「──って、本当に余計なお世話だ!」


 船上でのやり取りを空の上から見てたのかよ……。

 それにしてもこの神様、真面目な雰囲気で何てこと言い出すんだ。


「あいつらだって良いところが沢山あるんだ。例え神様でも、言っていい事と悪い事があると思うけど?」


『す、すまぬ、やはり余計な世話だったな』


 まさか、素直に謝ってくれるとは。

 てっきり神様って、もっと偉そうで人の話を聞かないイメージだったけど……。

 勝手に決めつけたら駄目だな、俺も反省しなければ。


『──我は人の価値観は良く解らぬ。主の言う、良い所とはどのあたりなのだ?』


「……えっ?」


 彼の表情と言葉に、悪意や害意などはなさうだ。

 ただ純粋に、興味で聞いたのだろう。

 彼らの良くないイメージを払拭する、またとないチャンスなわけだ。


「け、健康な所とか?」


『……』


「……」


 ──出てこなかった、咄嗟に出てこなかった!


 そんな俺の気持ちを察してなのだろう。

『重ねて謝罪しよう、無理を言わせてしまったようだ』っと、フォローが入る。


 やめて! そんな変な気を回さないで‼


「じょ、冗談だよ! あ~、あいつら、あれですごく仲間想いなんだ。そして何より、一緒にいると退屈しない……。いや、楽しいんだよ!」


 それに負けず劣らず疲れるが……。

 だからと言って不思議と憎めないんだよな。それがアイツらの魅力でもある。


『強さが全てではない生物……。人とは、中々に興味深いやもしれぬな』


 納得したのか……?  


 俺が見上げると、気のせいだとは思うが、彼の表情は寂しそうにも見えた。

 もしかしたら龍神言う立場上、孤高な存在だったのかもしれない。


「ククルカン、俺はあんたとも仲間になりたいな」


 きっと世界でも稀だろう。

 龍の──それもその中の神様を驚かせて目を丸くさせたのは。

 

『仮にも神に向かい仲間になれと?』


「なれ、じゃない。ただ仲間になれたら良いなって思っただけだよ。本当、命令とかそんなんじゃなくて……やっぱ駄目だよな? 神様なんだし、本来は敬うべき相手なんだから」


『どうやら本心の様だな。構わぬ、興が乗った』


「えっ──良いのか!?」


 まったく、思わせ振りな態度を取りやがって……。

 あれか、もしかして今までずっと一人だったから照れてるんだろ、ツンデレってやつか?


『その様なものではない。主の言う仲間と言うものに、少々興味を持っただけだ』


「──思考が読まれて!? そうか……念話だから、考えてる事が筒抜けなのか」


 あれ? 俺、結構失礼な事を考えてたような……。


『今さら気にする事ではない。それに主は元より、本心と口にする言葉がほとんど同じだ。気を付けたほうが良いぞ? これは仲間からの忠告だ』


 あははは、見た目に反してククルカンが寛大で良かったな……。気を付けよ。


『それより、目的地が見えたぞ』


 目的地だって?

 

 俺は手入れを済ませた無銘を鞘に収め、立ち上がる。

 そして、指の間から彼の言う目的地を覗き見た。


「あれは……オーロラ?」


 目の前を埋め尽くすほどの、七色の光のカーテン。

 これは気持ちの問題なのかもしれない。

 ゆらゆらと揺れる風景は美しいのだが、俺には何処か寂しく映って見えたのだった……。

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