第381話 笑顔
「──いやぁ驚いたの。奥手だったはずのわっちの孫が、小娘たちをたらしておるわ。なんだか寂しくなるのぅ。……やはり、血は争えんというやつかの」
しまった! つい周りのことを忘れてた……。
キサラギさんとルームは、手で口元を隠しながらあえて聞こえるようにヒソヒソと話て見せる。
「いやぁーうちら完全に空気やな、むしろお邪魔虫ってやつやないか?」
やめてやってくれ! 俺はこんな状況を慣れてるが、二人にはほぼ耐性はない。
ほら見て見ろ、二人そろって恥ずかしそうにしてるだろ?
ただこの二人が、今さら止めるはずもない。
むしろキサラギさんに関しては、好機と見て活き活きし始めたのだ──。
「しかしまあ、この様子ならひ孫と会える日も近いかの? 男か女か……わっちはどちらとも会いたいぞ」
この人、何言って──っておい! ティアが鼻血を出したぞ!?
ハーモニーを、ハーモニーを離してやれ。下に居るハーモニーが血まみれになるぞ!
場を混乱と混沌が支配するそんな時だ、見かねちゃったんだろうね……この人が現れた。
無銘から飛び出す神々しい輝き、言わずと知れている……。
「茶化すのは良くないカナ!」
「ミ、ミコ!?」
そう、うちのトラブルメ……ムードメーカーの彼女だ。
ミコの発言からすると、どうやら今回はこちらの味方のようだ。
しかしだからこそ、心配でならない……。
「今のちゅ~は珍しく邪な気持ちは無かったし! 純粋な愛故のちゅ~だったカナ!!」
「──ヤッパリか!」
この後も、俺の心のうちを次々と語り始めるミコ様。
そもそもなんだよ、純粋なちゅ~って……。もうやめてくれ、改めてそんな言われると、悶絶するほど凄く恥ずかしい!
しかしその甲斐あって、さっきの暗い雰囲気から一変、皆の表情は笑顔に変わっていた。
ただその中、キサラギさんだけは見えてはいない瞳で何処か遠くを見ている気がした。
「キサラギさん、何か気になることでも?」
「すまぬ。少し昔のことを思い出しておっただけじゃ。あやつもわっちと別れるときに同じようなことがあってな……。カナデよ、響のやつは戻ってこんかったが、主はこやつらにわっちと同じ思いはさせるでないぞ」
「……はい。俺の居場所はここなので!!」
さて、気も引き締まった。
皆の笑顔も見れたし、そろそろ出発を……。
「──所で兄さん、ずっと疑問やったがグローリアまではどうやって行くんや? あちらさんは、もう着いてるころなんやろ?」
「それなんだよな……。誰か、何か良い案はないか? なにか凄い早い乗り物とかさ?」
俺の問いかけに対し、いい返事が帰ってくることは無かった。
そもそも、そんなものがあれば既に使われているはず……。
しかたがない。オスコーンには悪いが、頼んで単身乗せてもらうのが最速だろう。
言葉も通じ、賢いあいつなら馬に乗れない俺でもきっと乗れる。
港までついたら、自力でここまで戻る事も……。
しかしそれでは、一月の差は半分も埋まらない。そもそも港から船が出るかどうか……。
その間に、トゥナに何かあったら──。
『乗り物などではないが、厄災の下へは我が連れて行ってやろう』
「なんだ……今の念話は──!?」
突如、今までに聞いたことのない、貫禄のある低い声の念話が頭に響いた。
すると直ぐ様、家の外から多くの村人達の悲鳴にもにた叫びが聞こえる──。
「カナデ様、外です! これはただ事ではないのでは!?」
「あぁ、行くぞ──!」
俺達は皆、慌てて外へと飛び出した。
まったく…こんな時に!!
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