第373話 交渉とデート

「あぁ……しかし、とんでもない目にあったな」


 ギルドも暇なためなのか、あの後のお説教はとても長く、気付けば外は暗闇に覆われていた。

 そのため今晩は、キルクルスで人数分の宿を取り宿泊する事になった訳で……。


「なぁハーモニー。マジックバックを使いたいって、いったい何をしてるんだ?」


 パジャマ姿のハーモニーが俺が使っている部屋のベットに腰を掛け、何やらミコと話をしている。

 実の所、それだけの事なのに俺……どぎまぎしているんだが。


 あっ、ミコが何ら魔法で文字を書き始めたぞ? あれは……伝鳥?

 

「あの~……カナデさん。あまりこちらをジロジロ見ないでください、恥ずかしいです」


「わ、悪い!?」


 見ている事に気付かれていた……。

 いやしかしこの状況、男に見るなっと言う方が難しいだろ。


「これはですね、ミコちゃんに頼んでティアさんに連絡を取って頂いてるだけですよ~」


「連絡?」


 ハーモニーから、ティアに連絡……。俺の額に汗が浮かんだ。

 大丈夫だ、悪いことはなにもしていない、なにもしていないよな? っと、疑心暗鬼になりながら……。


「ま、まさか、俺が他所の女性にうつつを抜かしていた……なんて連絡したんじゃ……」


「違いますよ。ただの女の子同士の、秘密のやり取りです」


「秘密のやり取り?」


「えぇ、昨日の敵は今日の友です~。私達は争っている場合じゃありませんでした。皆の立場は違えど協力して事に当たるべきだと、身に染みて理解したのです~」


 なんだそれ? 元より対していがみ合ってたって訳でも無いだろ。

 まぁ、協力して何かを成し遂げようとするなら、良いことだし──。 


「お、おぉ。良く分からないけど、仲良くするって事かな? それならいいんじゃないか?」


 ミコの手が止まったかと思うと、光の文字は鳥へと姿を変える。

 そして伝鳥は窓辺から羽ばたき、凄い速度で空彼方へと消えて行ったのだ。


「はい、これで無事に連絡終了です~。それでは明日も早いですし、部屋に戻りますね?」


 ベットから立ち上がると、ハーモニーはペコリと可愛らしくお辞儀をしてみせる。


「おやすみなさい~カナデさん、ミコちゃん」


「あぁ、おやすみ」


「おやすみカナ! ハモハモ!」


 そして挨拶だけ済ませ、ハーモニーは隣の自室に戻って行った……。

 なんかミコが若干嫌な笑みを浮かべてるんだけど、めんどくさいし今日は疲れたな。

 俺は追求することも無く、先ほどまでハーモニーが座っていたベットに横たわり、睡眠を取ることにした。


「ミコ、おやすみ」っと、一言だけ残し……。





「──さて、それじゃ買い出しに向かおうか?」

 

 翌日の早朝、宿で食事を済ませた後。

 ルームを一人宿において、目的の一つである食料の買い出しへと向かうことにした。


「はい。楽しみですね、デート」


 ……このちびっ子、今なんと?


「いやいや、これはただの買い出しで……」


「いえ、デートなんです~! それとも私とじゃ、嫌ですか?」


 身長差のため、自然と上目使いのハーモニー。

 その彼女の目はどこか潤みながらも、何かを決意したように力強く俺を真っ直ぐ見つめていた。


 今までも女性と外出の経験はある。

 しかしこうもはっきり、相手から「これはデートです」っと言われた経験などない。

 

 当然嬉しいし、舞い上がる気持ちだ──後の事を考えなければ……の話だが。


「そう言う訳じゃないけど……マズイだろ? ミコがティアに連絡を入れるぞ?」


「それなら大丈夫です。既に手を打ってありますので~」


「手を打ってある?」


「はい、昨日の伝鳥でティアさんからの許可は取ってあります。ですので、何も気にせず楽しみましょう~」


 なるほど、昨晩のあれか? 


「あのティアからよく許可が取れたな?」


 出発前は、あれほど俺達の中を警戒していたのに……ティアの奴、どういった心境の変化なんだ?


「内輪揉めしてる場合じゃないのを実感しましたからね~。ここ最近のカナデさん、モテ方がおかしいですから……。大丈夫です。帰ったらティアさんと、連れて帰ったトゥナさんとも個別でデートしてもらう事になりましたので」


「なりましたのでって、俺の意思は?」


 俺の言葉を聞き、ハーモニーが怖い顔をして詰め寄った。


「そもそも、優柔不断なカナデさんのせいでこんなことになってるんですよ~? それとも嫌なんですか、私達とのデート!?」


「い、嫌じゃないけど……」


「では問題ありませんね、行きましょうか~?」


 手の平を上に向け、こちらに向かい手を指し出す。

 流石の俺でも分かる……その手を取り、エスコートするのが正解なのだと。


「……分かったよ、デートするぞ!」


 覚悟を決め、差し出された小さなその手を握りしめた。指を絡め、恋人繋ってやつだ。


 それは無性に恥ずかしく、しばらくの間、俺達の間に言葉が無かったのは、言うまでもないだろう……。

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