第366話 ラクリマ内部

「こ、これは……相当持って行かれてるな──」


 魔力がゴリゴリ削られる感覚が分かる。

 脱力感や倦怠感が増し、気だるさが体を支配する……。


「知らなかった。離れているマジックバックを維持するのって、こんなに大変なのか……」


 考えてもみれば、無限に近い収納能力で、しかも中身の劣化を防ぐ。

 そしてその維持の対価が魔力なら、普段影響ないのが不思議なぐらいか……。


 でもこれ、彼女達が戻ってくるまで本当に俺の魔力が持つのだろうか?


「そうだ──鑑定!」


 鑑定眼を発動させ、自身の手を見てみる。

 すると、そこには俺のステータスが現れ、刻々と変化していたのだ。


「──って!? 魔力がゴリゴリ減ってるぞ!」


 予想を超えるペースで、みるみる数値が減っている。

 最近、少しばかり強くなったからって油断していた──これは言うまでもなく、一目見て分かるぞ……。


「駄目だ、このペースじゃ絶対にもたない!」


 今回は仕方がないとは言えミコのやつ、大飯食らいなだけじゃなく魔力も際限なく吸うのな……。

 普段の魔力切れは、勝手にリミッターみたいなのが働いてなのか睡眠モードに入るけど、魔力って切れても使い続けたらどうなるんだ?


 そういえば、いつしかミコが口にしていた。

 魔力は命。魔力は記憶と思いの設計図だって。そんなのが完全に無くなれば、ただじゃ済まないよな……。


「さっき、ミコが距離が離れるほど……とも言ってたよな?」


 それってもしかして、直線距離の話か?

 それなら彼女達の真上を着いて行けば、いくらか楽になるのではないだろうか。

 しかも彼女達の状態が知れて、一石二鳥。


「よし! このままだとどのみち魔力が枯渇する、試してみるか」


 馬を引き、ラクリマの方へ歩き出す。

 鑑定眼を使い、常に自分の魔力の消費量を確認しながら進めば──。


「おぉ~、やってみるものだな……」


 森から出た辺りまで来ると、明らかに今までと比べ魔力の減りが遅くなって居た。

 つまり、地面越しだけどハーモニー達に近づいたと言う事だろう。


「魔力の減り具合からすると、今はこの真下ぐらいか? しかしこれ、ゲームなんかの状態以上を受けた気分だな……」


 地味にキツイし、不安になる。

 そんな状態でちびっ子組を追い回して、彼女達の心配でドキドキいるなんて……なんだ、この状態。


「あまり深く考えるのはよそう……。おっ? このまま進むと、村の中に入りそうだ」


 馬車を引き、村へと足を踏み込んだ。


 確か最後に訪れたのは、村が焼け雨が降った後。

 未だに、焦げた臭いは残っている。


 それでも──。


「前に比べると、中は随分片付いているな」


 ティアがマールのギルドに応援を送ったって言ってたし、誰かしらここに来ていたのだろう。

 集められた資材や、いたるところに野宿を行った形跡が見られる。


 しかしグローリアの件があってか、今は伽藍堂《がらんどう》だ。


「頑張っては、いたみたいだけど……」


 それでも未だ焼け焦げた建築物が並ぶ。その町並みは、痛々しいとしか言いようがない。


「ん? 前はあんなもの無かった気が……あれは、墓石? 」


 近づくと、そこには『ラクリマの民よ、安らかに眠れ』と、誰かの手によって書かれていた。

 シンシが死体の大半を回収したため、ほとんどが残ってはいないだろう……。それでもその優しさ──粋だな。


「せめて、手だけでも合わせて行こうかな?」


 手を叩き、御辞儀をする。

 ここで不幸があった人々が、安らかに眠れますようにと……。


「おっと、また離れてる。探し直してたら魔力が切れちまう」


 再び鑑定眼を頼りに、彼女達の上辺りだと思われる場所へとやって来る。

 離れては探すため近づき、無事に動くと彼女達が無事なんだと一喜一憂いっきいちゆうする。

 先ほども感じた、不安や心配。期待が入り混じった不思議な気分……その正体に、俺は気づく──。


「そうか、分かったぞこれ……はじめてのおつかいを、影で見守る親御さんの気分だ……」


 子供も居ないのに、経験する事になっちゃったか……。


 無力な俺は、結局地面越しにちびっ子達を見守るしか出来なかったのであった──。

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