第350話 元老院再び

「うむ、久しぶりじゃの、奏。息災にしておったか?」


 な、なんでここにキサラギさんが?

 それに目の前の少女二人、誰かに似て──もしかして!


「キサラギさん、彼女もここに来てるんですか!!」


「おいおい主よ、挨拶がさきじゃ……まあ良いがの。あの娘のことじゃろ? わっちも会えぬ者同士の気持ちは、痛いほど良く分かっておるしの」


 しまった、つい感情的に。

 この人の前では、いつもこんな感じだ。


「すみません……。お久しぶりです、キサラギさん」


 口には出しては居ないが、頭の中があの子の事で一杯だ。


 ──彼女は元気なのか?

 ──彼女は未だにあの集落に?

 ──彼女は俺達と離れ、泣いていませんか?


 ──なんでもする……だから、彼女に会うためにはどうしたらいいですか?


 空気を読まない質問を、キサラギさんが嫌うのは知っている。

 問いたいが、どう切り出したら良いものか……。


「落ち着くのじゃ、奏。あの娘には重要な任務があるからの。堪忍せい」


「──っ! そ、そうですよね……。そんな都合よくは」


 重要な任務ってことは、やはりここには来ていないか……。


 エルフの国の掟だ、元より簡単に事が済むとは思っていない。

 ただ、一瞬でも会えるかも──そんな風に思ってしまった。

 それは詰め込んでいた感情の蓋を、どうやら開けてしまったみたいだ。


 涙で別れた、あの時のあの子に──会いたい、会いたい、会いたい!!


「……まったく。久しく再会したと言うに、そんな顔をされたとあっては、元老院の名も形無しじゃのぅ。……まぁ、あんな別れ方を強いたのじゃ、恨まれておっても致し方あるまい」


「──い、いえ、恨んで何ていませんよ! 嬉しいです、また会えて、すごくうれしいです!」


 じいちゃんの知り合いだ、その気持ちは嘘じゃない。

 ただ、会いたい気持ちが先走っただけで……。

 

「かっかっか、い奴じゃ、世辞でも嬉しいぞ」


 嬉しそうに笑うキサラギさんを見て、上の空だったのが少し悪い気がした。

 よし切り替えよう──そう思ったときだ。

 

「キサラギ様、お噂はかねがね聞き及んでおります。私が連絡係を務めさせていただいた、ギルド職員のティアと申します。以後お見知りお下さい」


「ほう、主がのぅ……? あー、まあそう固くなるものでもあるまい。わっちと主の仲じゃろ」


 わっちと主の仲? まぁいいか。


 ところで、この目の前にいるエルフの少女二人。

 さっきから品定めするように、チラチラと俺を見てるんだよな?

 この外見、もしかしてだけど──。


「キサラギさん……もしかしてこの二人、彼女の妹だったりしますか?」


 俺の質問に、二人の少女が互いの口を手で塞ぐ──うん、分かりやすくていい子達だ。


「流石じゃの、奏。まさしくその通りじゃ」


「ええ、まぁ。二人とも良く似てたので……」


 二人は慌てながらも「キサラギ様ぁ~」「なんで言っちゃうかな~!」っと、責め立てた。

 

「おっとすまん。口が滑ってしもうたわ」


「「キサラギ様の意地悪~!」」


 二人の少女は、じゃれつくようにキサラギさんを叩き始めた。


 あ~やって怒っている姿を見ると思いだす。

 彼女は家族と出会う事が出来たんだな。感動の再会だったのが目に浮かぶ。


 微笑ましく眺めていると、俺はとある事実に気付いてしまう。

 嘘……だろ? あの子達より、姉の方がよっぽど年下に見えるだと!?


 二人とも確かに背丈は低い。

 それでも、彼女達のほうがきっと高いぞ……。


 感動の再会だった──そんな様子を想像して、俺が目頭に涙を浮かべた時だ。


「「──ねぇねぇ、お兄ちゃん?」」


「ん、なんだい?」


 どうやら、後ろで楽しそうに笑っているキサラギさんを見ると、彼女達は完敗したらしい。

 この年頃の子だ。俺にも協力を仰ぎ、打倒キサラギさんとか言い出すんじゃ……。

 

「あんなちんちくりんな、ハモ姉の」


「どこを好きになったの? ロリコンなのぉ?」


「──ぶふぅ~~!」


 吹いてしまった。

 最近の子供はませてるな……いや、この子達はエルフ。

 もしかして俺よりも年上じゃないのか? 


 ──ガタン!


「ん?」


 なんだ? キサラギさんの方から、今物音がしたような……。


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