第351話 予想外

 音がした方を見ると、キサラギさんが樽に腰を掛けていた。


 どうやら先ほどのは、彼女が座った音らしい。


 含み笑いを浮かべる彼女の口からは、少女等を止める声が聞こえる訳でも無く、むしろ……。


「かっかっか、主らよぅ踏み込むのう! ……いいぞもっとやれ!」


 ──っと、けしかける発言がなされた。


「キサラギさん……本当、色々とお変わりないようで安心しました……」


 この人ははいつもこうだ、人を困らせる行動、言動を好む。

 それなのに彼女の人柄の為か? 憎めないから不思議だ。


「さて、キサラギさん。すみませんが、そろそろ頂ける物資の確認がしたいのですが、よろしいでしょうか? お話はその後でも……」


「──えぇ~~~まだハモ姉の事、聞いて無いよ?」


 無かった事には出来なかったか……。


 少女達は俺の手を引き「お兄さん、本当にハモ姉の事が好きなんですかぁ?」っと再び問いかける。


 うっ……この様子、どうやら引き下がる気は無さそうだ。


「ん~……」


 さて、どうしたものか?


 ココでの言動は、きっとこの子達を介して相手の耳にも入るだろう。

 それならこれを機に、今の俺の思いを彼女に伝えるまたとないチャンスではないだろうか? 


 ──よし!

 

「ごほん…………好きだよ。君達がお姉さんを好きな気持ち以上に、俺は彼女が好きだ。その自信がある」


「「「「おぉ~!」」」」


 俺がこんな事を言うとは思ってもいなかったのだろう。

 姉妹達どころか、ティアやキサラギさんからも拍手が巻き起こる。

 

 言ってやったぜ!

 面と向かったら絶対へたれて言えないからな……彼女の耳に一度でも入れば、顔を合わせた時もハードルが下がるってもんだ……。


『──理由が情けなさすぎるカナ……』


『──主……情けないスラ』


 肩に乗っていたミスリンにバレることはは覚悟してたけど、ミコさん……今日はそちらでしたか?


 それにしてもミスリンも増え、ツッコミも二倍だな。念話……嫌いになりそうだ。


 まぁいい、二人とも見てろよ? 今から格好良いところを見せてやるから──。


 両手を上げると。拍手は止み、俺は彼女達から注目をあつめる。

 深呼吸をして、俺は──思いのたけを叫んだ。


「この仕事が終わって、君達が帰った時にお姉さんに伝えてくれ。俺はお前を諦める気なんてさらさらない、必ずいつか迎えに行ってやる!! ……ってね」


 決まった……決まったはずなのに可笑しいぞ?

 何故か四人が腹を抱え、必死に笑いを堪えているようなな……。


 ──ガタガタ。


「ん? やっぱり今、何か音がして……」


 気のせいじゃない。今、確かにガタガタって……。


「……なんじゃ、わっちの顔なぞみて。わっちは主になどなびかんぞ?」


 この人はまったく……。

 突拍子の無い事を平然な顔で言う。


「じょーだんじゃ。それより主よ、さっきから聞いとれば曖昧な呼び方ばかり……名を言ってみてらどうじゃ。わっちらも勘違いしとるかも知れらんぞ?」


「うっ、キサラギさん……的確に嫌な所を突いて来ますね……」


 この人、実は相手の弱点でも見えるんじゃないのか?

 つまりもう一度言わせたいんだろ?

 あーもう! ここまでやったんだ、上等だ!!


「分かりましたよ、見せりゃ良いんでしょ? 俺の本気を!」


 キサラギさんがその場を立ち上がる。

 俺が臆するとでも思ったのだろうか? 彼女のは俺に向かい、不適な笑みを浮かべる──だが!?


「俺は、ハーモニーを愛してる!!」


 叫びを上げた時だ。それと同じくして、彼女が自分が座っていた樽の蓋を開けた。──そこから出てきた光景に、俺は驚きを通り越して混乱していた。


 な、なんでここに!? 聞いていた話と違うじゃないか!!


 今までの自分とキサラギさんのセリフを思い返して、彼女の掌の上で踊らされていた事に気付く。


 キサラギさんに──してやられた!?


 開けた口を閉じる事も忘れ、いきなり現れたから目を離せないでいたのだった。

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