第343話 問題解決1

「この島に来て、四日目か……ずいぶん経つな」


 バルログとの激戦から数日。

 魔力が底をつきかけていた俺は、未だにミスリルスライムと共にいた。


 ミスリンの容態の心配と、今だ残っている問題を解決するための、協力関係だ。


 俺達はまず第一に、バルログに塞がれていた通路を確保した。

 俺が振るった無銘により、道を塞いでいた大岩は細かく切断される。


 その後、天敵が居なくなったミスリルスライム達は、住みかを移り変える必要もなく。

 通る事が出来ないと懸念していた穴を、埋める作業を行った。


 マジックバックを使い、斬った大岩の残骸や、外から砂をかき集め、無事通路は開通する。

 その間にミスリルスライム達は、周囲の警戒や、この島に自生するフルーツ等を集めてきてくれた。


 そして、ミスリルスライム側の問題は無事片付いて──。


「残りの問題は俺の方だよな……本当に直るのか? これ──」


 ミスリン達の住みか、その洞窟の前で、俺は現状に頭を悩ませていた。


「ひとまず……これを切って──」


 つまるところ、この島を脱出する為のハンググライダーの修理中なのだ。


 バルログを斬った際に、斬り落とした翼。

 その飛膜が、これまた丈夫で軽かった。

 その為、それを加工して、破れ箇所の穴埋めに使うつもりなのだ。


 俺は修復作業中、ハンググライダーの穴を見て、ふと気になる事があり、ミスリンに尋ねることにした。


「──なぁミスリン。今さらなんだけど、合体してでかくなれば、あの穴ぐらい飛び越せたんじゃないのか?」


 いつしか俺の肩の上が、定位置になっているミスリン。

 青色だったボディーは、新たな外皮に覆われ、少しずつ元の金属色に戻りつつある。

 出来立ての外皮はまだプニプニで、なんとも言えないさわり心地だ……癖になる。


「合体スラか? あれは偶然スラよ。今まで一度もあんな事無かったスラ」


 マジか──俺は奇跡に助けられた訳だ。


 終始ついてない旅だと思ったが、そう考えると、最終的に足し引きぜろなのかもしれないな。

 何より、コイツらとも仲良くなれたし──。


「きっとあの時、皆の気持ちがひとつになったからじゃないスラかね?」


「なるほど。ってことは、ミスリルスライムの皆が、俺を心から助けたい! そう思ってくれたって事だよな?」


 照れるけど……なんか嬉しいな。


「そうスラ! やっぱり、スラフォーオール・オールフォースラの精神があれば、奇跡だって起こるスラね!!」


 あれ、おかしいな。聞きなれない単語が聞こえたけど。

 壊れたか、俺の加護…………ツッコミを入れるべきなのだろうか?


「なんスラかなんスラか! 僕が良い話をしてたのにスラ!」


「あぁ、悪い。聞いてない振りをしてしまった」


「振りスラか! 良い話をしてるスラから、しっかりと聞いて欲しいスラ。この前の優しさはどこに行ったスラか!!」


 うむ、俺がツッコムタイミングは完全に失ったな。

 触らぬ神に祟りなし、とりあえずミスリンのボケはほかっておこうか。


 肩の上からクレームを受けつつも、俺は作業へと没頭した。


「──よし、切れた。後はこれで穴を塞ぐだけで……」


 正方形に切ったバルログの皮膜を、目の前に広げて見せる。

 後はこれで塞ぐだけで…………。


「──しまった! これ、どうやって付けたらいいんだ!?」


 考えてもみれば、材料を切った所で縫い付ける道具や糸が無いぞ!?

 そもそもハンググライダーの修復って、縫い付けてもいいものなのか?


「ピギ、ピギピギー」


 途方に暮れて座わると、二匹のミスリルスライムが、膝の上に乗ってきた──。


「ん、もしかしてお前達がつけてくれるのか?」


 体全を縦に振る二匹のミスリルスライム。

 自分達に任せろ……そう言っている気がしたのだ。


「カナデ……なんで分かるのカナ……」


「いや、何となくな? 仲良くなったし、以心伝心いしんでんしんってやつだろ」


 何が面白くなかったのか、ミコが頬を膨れて見せる。

 そして聞き逃すぐらい小さな声で「ちょっとだけジェラったカナ……」っと呟いたのだ。


「ジェラ……ジェラシーの事か? 誰に習ったんだよ、そんな言葉」


 まったく、やきもちを焼くとはうい奴め。


 それにしてもジェラった──じいちゃんが教えたのなら、何となく嫌だな。


 う~ん、このまま拗ねられても、面倒だ……。


「──なぁミコ。今考えてること、当ててやろうか?」


「ほんとカナ! 分かるのカナ!?」


 待望の眼差しを向けるミコ。


 ご機嫌取りで言ってみたものの、彼女の目を見つめても、何を考えているか分かった訳ではなかった……でもミコならきっと──。


「お腹空いたカナ……だろ?」


「…………」


 しまった、外したか!?

 そうだよな、いくらなんでも嫉妬して拗ねかけてたんだ。

 そんなときに空腹は、流石にあり得な……。


「──カナデ凄いし!! 良く分かったカナ!?」


 うちの精霊様、まじチョロい……。

 

 ミコ事を知ってる奴なら、俺じゃなくても誰にも分かりそうなものだ。

 そんな事を思うと、それが無性に可笑しく、俺はつい声を上げ笑ってしまったのだった。

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