第335話 緊張
俺達は無心で姿を消し、音を立てないように移動を開始した。
念のために、移動中の会話は念話でおこなっている……。
普段は心を読まれて苦労するけど、こんなときは本当に便利だな、このスキル。
『それにしても、この島の魔物は寝てばかりだな? オオヤマアラシと言いバルログと言い』
『ただの偶然スラ。でもこれなら、侵入も容易スラね』
確かに、問題視していた手段を考える手間は省けたな。
『まぁな、あいつが偶然寝ているからの話だけど……』
それでも、唯一の出入り口の前で寝てるとか勘弁願いたいものだ。
俺達はひっそりと近付き、バルログと壁との間を抜け中に足を踏み入れた。
『お邪魔しま~っす……』っと。
しかし──その時だった!!
『まずい──!?』
俺が真横を通り過ぎようとすると、バルログの鼻先がピクリ! っと動き、なんと巨大な瞳を開いたのだ。
一歩踏み出し手を伸ばせば届くほどの距離……相手からはこちらの姿は見えてはいないはずだ。
『落ち着け、慌てるな……呼吸を止めろ!』
バルログは明らかに俺の方をジッと見つめている……。
しばらくその
『……ふぅ、助かった』
姿が見えなかった為だろう、何事もなかったかのようにまた寝てくれたみたいだ。
俺は音を立てないよう注意を払い、バルログの動向を確認しながら抜き足、差し足、忍び足と、火山の中へと侵入した。
◇
「はぁ~~! ……さっきのはかなりヤバかったな。でも、なんとか潜入に成功したようだ」
中へと通じる洞窟を抜けると、開けた空間に出た。
バルログの姿も見えなくなったとは言え、未油断は禁物か。
「ミスリン。それでここが、お前達の住みかなのか?」
「そうスラよ。仲間はすぐ近くスラ!」
なるほど、彼らにとってここが楽園を……。
足場は山の内側に沿ってほぼ平らに広がっており、中央付近は巨大な穴が空いている。
その穴の下を覗くと、赤々とした溶岩が
「まさかこんなところに来ることになろうとはな……照り返しの熱が凄いな」
空が開けている為か、もしくは
マグマの熱気が、火山の上方に吹き上がっている……覗き込むだけで、肌がチリチリと焼かれるようだ。
地面に下たる汗は、熱した鉄板の上に落ちたかの様に一瞬にして蒸発してしまう。
ミスリルスライムはこの過酷な環境の中で平然と生活しているのか……。
きっと、熱に耐性でもあるのだろう。
これだけ熱いと、そのうちミスリル製のコイツもアツアツになりそうだな。
「冷静に観察してる場合じゃないスラ! 一刻も早く、仲間を救出してほしいスラよ!!」
もう十分アツアツか?
でも確かに、バルログが起きてしまったら脱出が困難なものになる、さっさと向かった方が良さそうだ。
「それでどっちなんだ、ミスリン?」
「あっちスラ!」
金属のボディーの形状を器用に変え、手を作り指をさす。
その先は中央の大穴の反対側を示していた。
「分かった──行くぞ!」
急ぎミスリンが言う彼等の住みか、その目の前まで辿りつくと、俺はひとつの疑問に教われた。
「なぁ、ミスリン……」
「何スラか?」
俺に助けを求める際に、確かミスリンは言ってた「退路を塞がれ」っと。それってつまり……。
「もしかして、お前達が外に出れない理由って、これじゃないよな……?」
俺の問いかけに対し、ミスリンは怒りのあまり、俺の肩の上でその小さなカチカチボディーを小刻みに震わせるのであった……。
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