第299話 開拓開始
「ただいまから、カナデ村長からありがたい言葉をいただく頂く。皆の者、心して聞くがよい!」
おかしい──何故こうなった!?
早朝訓練を終え朝食を済ませると、開拓開始のためメンバーが勢揃いしてまして。
そこで「リーダーである、カナデさんより一言いただかないか?」っと言う流れになってまして……。
そして何故か、目の前にいつの間にか作られていた壇上があるわけでして……。
あ、うん。もう諦めよう。
俺は背を丸くしながらも、階段を一歩、二歩と上がっていく。
頭の中は、聞くも涙、語るも涙の演説内容でフル回転だ。
『......zzzZZ』
──おいミコ、寝るんじゃない!!
演説、そんなにつまらない内容か? 起きてくれ、不安になっちゃうだろ?
階段を上りきってしまった──えい、ままよ!!
「あーおほん!」
キャラバンの皆が、黙って俺に注目する。
まぁ確かに。最初ぐらい同じ方向を見て歩かないといけないよな?
別に上手に話す必要はないか……思いの丈を、彼等にぶつけよう──。
「……刃とは、命を奪う事を目的に振ってはならぬ。何かを守るために振るえ。これは生前、俺のじいちゃん……勇者が俺に言い聞かせてきた言葉だ」
誰一人、無駄話をするものは居ない。
ただただ皆は黙ったまま、俺を注目していた。
「俺は、ずっとこの言葉の本当の意味を考え続けてきた。理不尽にも突然この世界に呼ばれ、自分が生き残るために、刃を振るった……自らの身を守るためだ、その事に後悔はない」
目を閉じれば、召喚されたあの日を今も思い出す。
その後追われる身となり、逃げながらも最低限とは言え、生き物の命を奪ってきた。
「勿論それを正当化するつもりはない、奪った命は戻ることがないから……ただ、正直そんなことは──もうウンザリだ!!」
身振り手振りを加え、俺は訴えかけた!!
忘れはしない……生き物を斬った時の感覚を。
忘れはしない……斬った瞬間、吹き出るあの真っ赤な血を。
「当時は戦争中だ、きっとじいちゃんも……勇者も俺の様に命を奪うことに心を痛めてたんじゃないか? だから俺にその言葉を何度も繰り返すように……」
無銘を引き抜き、空に向け掲げた。
「刃とは、これだけの事じゃない。力や強い意思、技術や知識、それを含めたすべてを指す言葉では無いだろうか?」
心の無い力は人を傷つけ、やられたものは意思をもって仕返しをするだろう。
正しく使われない技術は兵器を生み、知性ある生き物だけが、無用に多くの命を奪う。
「だから、この村を作るにあたって皆にお願いがある。自分達を守るため、食べるため以外で他者に刃を振るうのはやめて欲しい!!」
命に価値の違いなどない。
等しく尊く、等しく価値のあるものなのだから。
「君達が今までどんなに虐げられ、辛い思いをしてきたのかを、俺は経験もしてないし共感してやることはできない。きっと人を……エルフを……獣人を憎んでいる者はこの中にも居ると思う。ただ、それでもし仕返しをしよなんて考えれば、争いは必ず生まれる」
憎悪は呪いだ……。
どれだけ時が経とうが、体にへばり付くように離してはくれない。
彼等も俺と同じように……いや、もっともっと理不尽な目に合っているはずだ。
事実、俺の演説に対「それは……泣き寝入りをしろってことですか?」「やっぱりカナデさんも俺等とは違う普通の……」などの声が聞こえる──。
「──俺とおまえ達に違いなんかない!! 先の長い今後の明るい未来、争い事で人生を棒に振る……そんなの勿体無いだろ!?」
彼等は何処かで、自分の存在に負い目を感じているのだろう。
きっとこの村作りの成功が、自信へと繋がるはずだ。
「戦わない覚悟……それが俺の希望する、皆に持っててほしい刃の名だ」
無銘を鞘に納める。
そしてありったけの声を振り絞り、俺の心からの思いを打ち明けた──。
「俺が皆を守る!! だから全員で幸せになろう。優しい村を俺たちの手で作るんだ。差別してきた世界中に言ってやろうぜ? 俺達は幸せになった──ザマァってな!!」
って、今更だけど無茶苦茶恥ずかしいことを言ってないか──俺!?
パチパチパチ、パチパチパチパチ──。
一人の少年が周囲の目も気にせず、一心不乱に手を叩く。
「シバ君……」
それにつられるかのように、一人、また一人と拍手が巻き起こって行く。
それはいつしかその場にいるすべての人が、それをおこなっていたのだ。
俺は頭を下げ、壇上から降りていく。
やっちまった……感情的になって熱くなった!?
これを期に開拓村の着工が始まり、村ではザマァっと言う言葉が流行ったとか……流行らなかったとか──。
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