第267話 星に願いを─ティア視点─

「──ところで……さっきの話は……」


 カナデ様が、私を見る目が泳いでいます。

 それは軽蔑の視線でもなければ、動揺しているときの目とも違います。

 何度も見てきた、何かを心から心配しているときのソレ……。


 まったくこの人は、出会った時から誰かを心配してばかり。

 嫌われてないかとか、脈ありとかなんて心配しているのが、バカみたいじゃないですか?


「盗み聞きされてましたよね? それなら、聞き直すのは野暮ってものじゃないでしょうか?」


 彼が誰かの事を嫌いになれるはずが無いですね……。

 嫌な顔はしても、どんなメンドクサイ相手とでも真っ正面から向かい合える。

 私が好いてしまった、彼の素敵なところの一つ……。


 ──最後ですし……少しだけ勇気を出して見ましょうか?


「カナデ様?」


 隣に来てくれと、黙ったまますぐ横の地面を叩いた。

 そんな姿を見たカナデ様は、頭をかきながらも私の隣に腰を掛けたのです。


「おほん! えっと、さっきの話は聞き間違いじゃないよな? ティアはリベラティオのギルドで勤めるのか?」


「はい、私の所属はそこなので。皆様から離れるわけですし……今ぐらいは飛びっきり優しくしてもらってもいいんですよ?」


 照れ臭くてつい茶化すような物言いになってしまいました。

 しかしそんな私の頭を、あろうことかカナデ様は撫でてくれたのです。


「ふぁぁ、本当にカナデ様が優しい! こ、これは中々悪いものじゃないですね……」


 それどころか最高の気分でした。膝にはトゥナ様をのせ、頭をもう一人の愛する人に撫でられ……嬉しくて泣きそうになりますね、これは。


「自分から言ったんだろ? 優しくしろって」


 彼も照れ臭いのでしょうか? 露骨に顔を背け、私の目を見ようとしない……。

 彼は、私が居なくなる事を、どう思っているのでしょうか?


「あのですね……カナデ様、泣いてくれてもいいんですよ?」


 私の言葉に、カナデ様は「んっ?」って顔をしました。私は、何か変なことを言ったでしょうか?


「泣くも何も、ティアはリベラティオにいるんだろ? トゥナの故郷だし、そこの町を拠点にするつもりだから。やることもあるから、いつでもとは言えないけど……それでも町中で仕事を探して、生活する家を探さないとな。だから会おうと思えば会えるし、今とさほど変わらないだろ?」


 きっと彼は、心からそう思っているのですね? でも彼は勇者のお孫さん……そんな方が普通に町中で働き住まう。

 例え中立国のリベラティオでも、そんな事が許されるのでしょうか? 難しいとは思いますが……。


「あら、それでも顔を会わせる時間は減りますよ? 私は少し寂しいですね……。なんならギルドうちで働きますか? 私が責任もって、面倒を見ますよ」


「いや、しばらくは冒険者をするよ。トゥナの事や、ハーモニーの事を調べて回るし。定職につくと、動き回れなくなる。でももし全部解決したら……それも悪くないな。ギルドで安全に稼いで、自分の鍛冶屋を持つ。それはいい案だ!」


 そんな未来が来てくれたら本当に嬉しいですね。

 同じクランとしてはもう無理かもしれませんが、ビジネスパートナーとして……友人や、男女の関係として歩む未来。確かに素敵ですね。


「ミコも、伝鳥ができるようになったんだろ? トゥナの事やハーモニーの事で外出することもあると思うけど、何食とられようと定期的に連絡するよ。世の乙女は、憧れてるんだろ? 伝鳥の文通に」


「カナデ様……会うたびにガリガリになって行きそうですね?」


 フォルトゥナ様を起こさないように、気を使いながら私達は笑い合った。

 一頻り笑うと、カナデ様は不意に私を見つめ──真剣な顔を向けた。


「そうならないように、たまに食事ぐらい奢ってくれよ?」


 まったく、この人は。どう考えても告白する流れでしょうに──私の気持ちを知っている癖に……。


「あら、それはデートのお誘いって事でよろしいのですよね? フォルトゥナ様とハーモニー様に聞かれたら怒られてしまいそうです。愛人関係は大変ですね?」


 カナデ様は、「違うから! そんな不純な関係でも、動機でもないからな!?」っと慌てて見せる。一矢報いる事は出来たでしょうかね?


 流れ落ちる星を見て、何度も何度もみんなで過ごす未来を夢に見る。


「ずっと、一緒にいることが出来ますように……」


 っと、星に願いを込めながら……。

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