第246話 薬売りの少女 ララ

「えっと、私がお話を聞かせていただきます。よろしいでしょうか?」


 ギルド職員の女性は、頷くと席を明け渡した。

 突然の出来事に、目の前の女の子は混乱し動揺を隠せないみたいだ。

 しかし、震えながらも彼女は帰るそぶは見せない。──周りは大人だらけで怖いだろうに……きっと、逃げないにはそれなりの理由があるのだろう。


 ティアは受付席に腰を下ろすと、今まで見せたことのない優しい笑顔で少女に微笑んだ。


「大変お待たせしました。私、ギルド職員のティアと申します。お嬢様、お名前を聞いてもよろしいでしょうか?」


 ……ティアには悪いが鳥肌が立った。──こ、こんなビーナスの様な微笑みをする、王道美女見たことないぞ! 

 俺が狼狽うろたえる中も、着々と話は続いていく。


「わ、私はララ……今日はギルドにお願いがあって来たの。でもお金が足りなくてダメだって……」


 ギルド側も商売だ、慈善事業ではない……。確かにそれじゃぁ何ともならないよな?


 しかし少女はそれだけ言うと、涙を流しながら自分のスカートを強く握っのだ。

 俺は辛そうな彼女の姿を見て何でかは知らないが、ついお節介を焼きたくなり、横から口を挟んでしまった。


「取りあえず、言うだけ言ってみろよ? 内容次第じゃ、何とか出来るかもよ?」


 俺の発言を聞き、トゥナとティアが凄い勢いで俺の顔を見た。──え、余計な事を言っただろうか?


「ほ、本当、本当に聞いてくれるの?」と、少女は期待の眼差しを向けてくる。

 ちょっと軽率だったか? 話を聞くと言ったつもりなんだけど……。まぁ、どちらにしても──。


「──このお姉さん達は優しいからな? よっぽどの事じゃなければ、多分首を突っ込むぞ?」


 いつもの事だ、何となく予想がついている。それなら理由は知らないが、状況が悪くなる前に動いてしまえ、そんな風に思ったのだ。


「そ、その言い方は少々心外ですね」


「で、でも。強く否定できないわ……」


 やっぱり首を突っ込む気だったか? 彼女達らしいって言えばらしいな。

 しかし、慣れてしまえば悪くないっと、つい心の中で思ってしまう。


『カナデ……気持ち悪いカナ、頭でも打ったのカナ?』


 本日ミコさんは、そちらに入るようですね。気持ち悪いって……。


「あ、あのね? お願いしたい内容なんだけど──」


 俺達は、なるべく彼女を恐がらせないように優しく話を聞いた。

 この手の展開だと、何かを退治してくれ! 等が定番化と思いきや、少々予想とは違ったのだ。


「──なるほど……病気のお母さんの薬を買うために、お金を稼ぎたい。売り物にする別の薬は準備してあるが、売り方が分からない為、冒険者に考えて貰おうとしたわけだ?」


「……うん。私一人だとどうしたらいいか分からないの。ギルドは何でも屋さんだって、昔お母さんから聞いたから、もしかしたら教えてくれるかな? って……」


 ふむ、それにしても稼ぐためにお金を払って、稼ぎかたを考えて貰う……それって本末転倒じゃないか?

 でも、この少女が真剣なのはヒシヒシと伝わる。


「ん~、私達がお金を貸してあげれば解決するんじゃないかな? もしくはその薬を買い取るとか?」


「いや、いい案とは言えないな。その場しのぎにはなっても、その手段じゃこの先困るだろ? お母さんの病が、薬ですぐ治る保証もないしな」


 少なくとも、この子の家庭は薬を買う金がないほど生活が厳しいと言うことだ。

 先の事を考えるなら、別の方法を模索するべきだ。


「なぁ、その薬は今までお母さんが売ってたのか?」


「ううん……今まではお父さんが隣町に売に行ってたの……でも先月に死んじゃって……」


 そう言うことか、だからこんな年端も行かぬ子がこんな所に……。


 う~ん。それじゃぁ、販売ルートが今までのように隣町ではダメだな。彼女一人で行かせるわけにもいかないし、冒険者を雇おう物ならいくらか掛かるか……。


「その薬、少し見せて貰っていいか?」


 ララと呼ばれた女の子は「うん」言いながら木製の入れ物に入った薬を、ひとつ俺に差し出した。


 受けとると俺は蓋を開け中を覗く……。


「──鑑定!」


 どうやら、この薬自体一般の塗り薬のようだ、実際に回復効果が見込めると書いてあるな。


 ──何より、この効果は……。


「……なるほど、面白い薬だな。ララちゃんって言ったっけ? これはまだ沢山あるか?」


「う、うん……作り方を聞いて私が沢山作ったから、お家に薬は沢山あるよ?」


 そうかそうか、うまく行けば問題が全て解決するな。


「じゃぁ、全部売るか? そうすればお母さんを治す薬も買えるし、もしかしたらこの町でも顧客が出来るかも知れないだろ?」


「──カ、カナデ様、その様なことが出来るんですか?」


 確信はないが、可能性はあると思う。

 地球でもこの世界でも、商売の相手が人である以上、試す価値はある。


「あぁ、仕込みに時間が掛かるけど、面白い方法がある。ひとまずララの家に薬を取りに行こうか?」


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