第213話 万能薬

「──ティア! トゥナが助かる方法があるかもしれないぞ!」


 部屋の扉を勢いよく開けた俺は、つい嬉しくて大きな声を上げてしまった。


 その声を聞いたのだろう、座っていたティアはその場を立ち、ツカツカと歩いて来て俺に詰め寄る。


「──それは本当なのですか! カナデ様!」


 ティアから返ってきた返事は俺のものより大きく、正直俺は少し尻込みしてしまった。


「あ、あぁ~。く、詳しくはハーモニーが今から説明するから……落ち着こうな?」


 一同の視線が、俺の隣にいるハーモニーに集まる……。

 緊張の為なのだろうか? 俺の服を掴んでいたハーモニーの手に、更に力が込められていた。──先ほど抱き締めてしまった手前、非常に恥ずかしいのだが……出来れば少しだけ、距離を取っていただきたい。


「あ、あのですね? 本当にトゥナさんに効くかは分からないのですが~……」


 ハーモニーの話を聞くために、あのミコでさえも静かになっている……。

 一同息を飲み、彼女を見つめた。


「エ、エルクシルなら……トゥナさんの容態も、回復すると思うのですが~」


 ハーモニー話を聞いたティアは、まるで落胆するかのように肩を落とし、その顔は再び暗いものへと変わる。


「ハーモニー様、エルクシルってあのエルクシルですか? 伝説に唱われる不老不死の霊薬。エリクサーや賢者の石とも呼ばれる万能薬……。確かに存在しているのなら、フォルトゥナ様を助ける事は十分できるかと思いますが……」


 助けれる方法って、伝説上の薬か。

 名前だけなら俺も聞いたことはあるけど、そんな眉唾まゆつばもの、本当に存在しているのか? 

 

 それにあったとしても今から探しに行って、果たして間に合うのだろうか……。


 しかしハーモニーは、ティアの話を聞き首を小さく左右に振った。


「この町に来る道中、塩湖がありましたよね? 幸か不幸か、あの先には小さなエルフの集落があるのです~。昔、そこにエルクシルがあると聞いたことがあります……」

「──エ、エルクシルは存在するのですか!」


 先ほどまで俺を掴んでいたティアは、今度はハーモニーの肩に手を置き顔を近づけた。──き、気持ちは分かるけど近すぎる、ハーモニーが話し難そうだ。


「わ、私も実物は見たことはありません、聞いたことがあるだけなので~……」


 一同がなんとも言えぬ顔をする。確かに、あるか無いか分からない薬な訳だ、素直に喜べないのは分かる。ただ──。


「──いや、十分だよ。可能性が少しでも見えたんだ! 何かしないより……よっぽどいい。トゥナ、絶対に助けてやるからな?」


 俺は、辛そうに寝ているトゥナを見た。

 彼女は、この世界で初めて俺に手を伸ばしてくれた人だ……。絶対に死なせてなるものか!!


「じゃぁ、早速行こう、今は時間が惜し……」

「──待って下さい、カナデさん!」


 俺の決意は、ハーモニーによって早速出鼻をくじかれた。

 このタイミングで、制止する理由でもあるのだろうか?


「行くのは、私とカナデさんだけです。この様なことは言いたくありませんが、ハーフエルフのティアさんと、エルフとあまり仲が良くないドワーフのルームさんは、同行を控えた方が良いかよ思われます~……」


 なるほど、確かにハーフを忌み嫌うエルフなら、ティアも一緒に行ったら中にも入れてくれないかもな……。同じ様な意味でルームもダメか。


「で、でも私もフォルトゥナ様を!」

「──ティア!! ……すまないが、リーダー命令だ!」


 俺の命令に、ティアは「カナデ様、そんな時だけリーダーらしくするのは卑怯です……」と不満の声を上げる。


 しかし、彼女自身が一番分かっているだろう。エルクシル獲得の確率を上げるのであれば、自分はここに残るべきだと……。

 その為か、ティアは潔く身を引いた。


「ティアは、トゥナを見ててやってくれ。大丈夫だ、俺とハーモニーに任せろよ。命に変えても、トゥナを助けるから……な?」


「そうですよ。カナデさんは普段はさっぱりダメで、とってもですが、ここぞと言うときにはやる男なんです。ティアさんも、ご存じですよね?」


 ──おい、ちょっと根に持ってるだろ?


「はい……そうでしたね。ここぞと言うときだけは、頼りになりましたね」


「常に頼りに……まぁ、そう言う事でいいや。それじゃぁ、行ってくる。ティア、ルーム、しっかりトゥナを見てやっててくれよ?」


「はい、こちらもできる限りの最善を尽くします。カナデ様、ハーモニー様……。フォルトゥナ様を、助けてあげてください!!」


「二人とも、気を付けるんやで? こっちは任せとき!」


 二人に見送られ、俺とハーモニー、ミコの三人はエルクシル入手の為に、部屋を出た。──よし! 目指すは、エルフの集落だ!


「──所でカナデさん。少々気になっていたんですが、いつからティアさんにタメ口を使っているのでしょうか?」


「おい、今それを言うのかよ。いい子だから、ユグドラシルはしまえ……な?」


 こ、今回はいつもにまして危険な旅になるかもしれない。

 でも、必ず助けるからな? それまで頑張るんだぞ、トゥナ……!


 

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