第214話 キルクルス→エルフの集落へ

「──なぁ……これってどういう事なんだ?」


 宿に来るときは、咥えられ運ばれていたので気づかなかったのだが、ユニコーン達の見た目にちょっとした細工がされていた……。


「何を言ってるんですか、カナデさんがこの町に来た時に言い出したんですよ?」


 お、俺、何か言ったっけ?

 少なくとも、こんな事を頼んだ記憶は一切無いのだけど。


「なぁ、全く意図が理解出来ないんだけど……?」


「も~う……察しが悪いですね。手を打っておくって言ったじゃないですか?」


 手を打つ……あ~確かハーモニーをった時にそんな様な事を言っていたな。

 ハッキリと思い出したぞ、手綱を放置したときの!


「──その上でこの結末かよ!」


 手を打たれた結果、なんとユニコーンの角は紐で縛ってあり、その先端が顎の下で結ばれていたのだ。

 この角は、飾りですよ? 的な偽装のつもりだろう。


「え~何が駄目なんですか? 完璧なカモフラージュじゃないですか?」


「か、完璧ってどこがだよ!? こんな穴だらけの完璧、始めてみたわ!」


「カナデさん、急ぎなんですよね? 目的地に向かいながら結果を見てください!」


 う……確かにこんな事を言ってる場合ではない!

 それにしても彼女のどこから、その自信が出てくるんだろうか?


 俺とハーモニーはオスコーンとメスコーンを馬車に繋ぎ、御者席に乗り込んだ。


「それじゃあ急ごう、ハーモニー頼んだ」


「はい~!」


 手綱を叩く音と共に、ユニコーン達は歩みを進め馬車が動き出す。

 人々の往来の中をゆっくりと俺達は進んで行く。

 そして、しばらく進み衝撃の事実に気付かされた。


「──う、嘘だろ?」


 相も変わらず、ユニコーン達は注目を浴びてしまう……。

 しかし今回は、普段とは若干反応が違った。


 周囲からは「あの御馬さん達、ユニコーンさんだ~」「あら? あの角飾りオシャレね?」っとの声が聞こえるのだ。


「ほら言ったじゃないですか? ユニコーンは希少なのですよ~。町中にいる方が信じられないのです」


 マジでか……これだけで? 悪い夢でも見ているのではないだろうか。


「あ、あぁ~認めるしか無いみたいだな……。でも、オスコーンのご機嫌はすこぶる悪そうだけど」


 時折、俺の事をを睨んでるような……。角、角の紐のせいだよな?

 もしかして、俺からメスコーンの涎の臭いがするからじゃないよな?


 町の中を抜け、行きに通った橋を渡る……。

 ハーモニーが手綱を叩くと、馬車の速度が上がる。

 

 この速度なら、行きより時間はかからないだろ。まってろよトゥナ。必ず……必ず……。


「──カナデさん……せっかくの二人っきりの旅なんですし、同乗者がそんな怖い顔をしていたら私は悲しいですよ~?」


 突如、ハーモニーが俺に声をかけていた。笑顔で茶化しながらも、どこから瞳は憂いを帯びている。


「トゥナさんが心配なのは私も同じです。しかし俯いていても、助ける事は出来ませんよ? 大変だからこそ肝心なときに動けるよう、常に張り詰めているのはよくないと思います~」


「ハーモニー……」


 確かに……そうかもな? 少し気を張り続けていたかも知れない。

 暗い顔ばかりしていても、周りに気を使わせるだけか。


 空を見上げると、青空が広がっている。トゥナの瞳と同じ、透き通った青い空……まるで、トゥナに見透かされているようだ。


「そう……かもな? 笑う門には福来るって言うしな」


「何ですか、それは? 初めて聞きましたけど、何かいい響きですね……」


 手綱を片手でもったハーモニーは、不意に俺の手の上に自分の左手を重ねた。──ど、どうしたよ? 急に積極的になって……。


 ただ、手を繋いでいるだけの状況なのにドキドキが止まらない……。

 童貞には、これでも充分刺激が強いのだ。


「……カナデ、ハモハモ。いい雰囲気の所悪いカナ。でも、ボクもいるカナ……」


 ミコの突然の登場に、慌てるように手は離された。──こ、こいつが居たこと、完全に忘れてた!


 どうやら、俺に恋愛的な展開はまだ早いようだ……。なに、まだまだ一緒にいれる時間は山ほどある。何にしても、焦る事は何もないさ。


 ミコの「ボク、おじゃま虫だったカナ……?」の疑問の声に、答えるものは居なく、俺達は苦笑いを浮かべつつも急ぎ馬車を走らせるのであった。

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