第207話 ストーキングキング

 奴が投げた手袋が俺に向かって飛んでくる。──俺の知識が正しければ、地球の西洋辺りでは決闘の申し込みだったはずだ。


「──よっと!」


 俺は投げられた手袋を見事に避け、それは野次馬をしていた男に当たった……。──よし!


 周囲は不穏な空気に包まれ、ざわめきはより一層強いものへと替わった。

 それもそうだろう、言いたい事を言った挙げ句、いざ決闘を挑まれたらそれから逃げ……いや、上手に回避した訳だから!


 例え格好悪いと言われようが、甘んじて受け入れよう!

 だって、面倒事の方が嫌なんだもん。


「流石カナデ様ですね。そう言う常識に囚われない姿が……とても素敵です」


 おい、先程から言動がおかしいぞ? 後クネクネしない!


 まさか避けるとは思っても居なかったのだろう、ストーキングキングは、顔を真っ赤にして俺を睨み付けてきた。


「き、き、き、貴様! 避けるやつが居るか!」


 いや、ここに居ただろ? っとは流石に言えない雰囲気か……。

 感情を逆撫でしないよう、何か言わないとな。


「いや、すみません……。つい!」


「──つい! じゃねぇよ! ティアさんの前で、恥かかせやがって!」


 ストーキングキングは、怒りをあらわにしながら腰から剣を抜いた。

 ギルド内の野次馬からは、冒険者達の叫び声や煽る声が響き渡る。


「こんな所で刃物を抜くなよな!」


「──うるせぇ! 貴様が悪い!」


 抜かれた剣の形状は細身のサーベル……。

 このタイプは片刃の半曲刀か? 軽く長くが特徴で、突きも切りもこなす万能武器……。


 ストーキングキングは距離を詰め寄り、上段から真っ直ぐサーベルを振りかざしてきた。──遅い? 明らかに牽制の一撃……挑発しているって所か!


 攻撃を軽々と避け、俺は説得の声を掛ける。


「おい、止めろって。何を考えてるんだよ!」


「うるせぇ、貴様が悪いんだ! ティアさんを賭けて勝負しろ!」


 くそ! ティアは物じゃないんだぞ!


 しかし目の前の男には、何を言っても耳に入らないだろう……。

 被害が出ても困る……何とかするしか!


「ティア、仕方がないから外で迎え撃つ。着いてきてくれ!」


「──はい、カナデ様!」


 俺はティアの手を引き、ギルドの外に出る。

 表の広場なら、スペースも広い。例え野次馬ができても、自分達で距離を取ってくれるだろう。


「──待て、逃げるな!」

 

 流石にそのまま逃がしてはくれないよな?

 まったく、どうしてこんなことになるかな!


 俺はギルドの外に出ながら、マジックバックを開ける。

 

「ミコさんよ……この騒動でよく寝れるな!」


 ミコを起こさない様、気を使いながらも中から木刀を取り出した。

 流石に無銘で斬り合うわけにもいかない……何かの拍子に殺しちまったら夢見が悪いしな。


 広場の噴水前。あそこなら、人もいない!


「ティア、こっちに!」


 左手でティアの手を引き、右手には武器を持っている。

 これだけ見れば、絵になりそうなものだけど……。


 噴水前に着き、ティアの手を離した。振り向くと、奴はしっかりと追って来ている。


「少し離れててくれ……なるべく直ぐ、終わらせるから」


「カナデ様、止めてください! 私を賭けてあなたが傷つくことなど、何もないのですから!」


「い、いや……どうしたよ、そのノリ。大事だから。心配しなくても勝てるハズだから」


 ステータスすべてではないが、それでも俺とストーキングキングにはかなり大きな差がある……。本気を出さずとも勝てるであろう。

 所でティアの奴、さっきから変なスイッチが入ってないか?

 普段と違って何処かがおかし……ん? おかしいのは前からか。


「──鬼ごっこは終わりか? どのみち我からは逃れられないけどな! 痛い目を見たくなければ、さっさとティアさんを渡すがいい!」


 くそ、子悪党の様な台詞を言いやがって……。

 

 木刀を左手に持ち、抜刀の構えを取っる。──少しお灸を添えてやらないといけないな……。


「さぁ、我と決闘をしてもらうぞ! この追跡……」


「──ストーキングキング! 覚悟しろ、俺が目を冷まさせてやる!」


「──それ止めい! 我が名はストーキングキングホムラ…………ちゃうわ! 間違えただろう!」


 こ、こいつ……アホだ。

 この時俺は、決闘の勝ちを確信したのであった。

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