第195話 決戦2

「カナデ兄ちゃん……。残念でした(笑)」


 無銘を振るおうと思った俺は、突然の出来事に唖然としてしまった。


「──シンシが、地面に飲まれた!」


 突然、落とし穴にでも落ちたようにシンシは姿を消したのだ。

 あまりの事に思考がついていかず、無銘を抜くことが出来なかった俺に、大きな隙が出来てしまった。


『──カナデ! 後ろ、避けるシ!』


 ミコの念話を聞き我に返った俺は、とっさに前に飛ぶものの、背中には激しい痛みと熱を感じた……。

 そして同時に激しい倦怠感けんたいかんと、何かを抜かれた感覚が……。


「──ぐあぁぁぁ!」


 痛みで叫び声を上げながらも、前につんのめった。突然の出来事に、状況が飲み込めない。


「驚いた。カナデ兄ちゃん……あれを避けるのか! きっとミコ姉さんが知らせたんだね? 」


 そして、痛みと声のする方角を振り替えると、先程までは俺の前方に居たハズのシンシが、俺の裏で薄ら笑いを浮かべ、剣を振り抜いていたのだ。


「なんでだ──マジックバックは、生き物は入らないはずじゃ……」


 思考が……何とか追い付いた。シンシは地面に飲み込まれたのではない。マジックバックに自らを入れ、即座に黒のマジックバックから出てきたのだ。


「誰が生きてるって? 見たんだろう、その眼で!」


 そうか、シンシが使ってる体は、死んでる死体……本体である剣は、元より物体だ。

 

 もしかして先程の黒い手による攻撃、あれもこの為の布石だったのか!? シンシのマジックバック……ここまでの応用が効くのか。


「気づいた様だね? この移動方法は、いくつか制約あるけどね? でも教えな~い。はぁぁ~カナデ兄ちゃんの魔力……美味しいな、癖になりそうだ」


 そう言いながら、剣に付着した俺の血を舐める仕草をするシンシが、突然目を大きく見開き、驚いた顔をして俺を見つめた。


「お前──あの時のガキなのか……!」と、意味不明の言葉を残して。


 しかしそれどころではない、俺は血を流しながらも無銘を抜きシンシに向かい振るう。

 しかし任意に姿を消すことが出来る彼には、刃は届くことはない。


 いや……剣を切らないと言うハンデさえなければ、それでも俺の抜刀術の方が早いのかもしれない。

 シンシもその事に気付いているのだろう。時折、自らを盾にするかの様な仕草を見せている。


 このままじゃ不味い……瞬時にあのマジックバックに入られたら、腕だけを切り落とすなんて芸当不可能だぞ。


「くっ──何とか隙を作らないと!」


 しかしシンシは黒のマジックバックを経由し、俺の死角を狙い何度も攻撃を仕掛けてくる。

 周囲を確認しても、地面は至る所に黒のマジックバックが配置されている。

 この辺りから逃げ切る事も出来そうにない。


 先程までは当たる事がなかったシンシの攻撃が、肌を掠める回数が増えてくる。そして同時に、少しずつ魔力を持ってかれて……。


 ──もう、一か八かしかない!


「弐ノ型……残心!」


 シンシが消えた瞬間を見計らい、二体の動く陽動を生み出した。大技分の魔力を残すと、二体の陽動が限界だと判断した結果だ。

 ミコに何度も魔力を吸われ、体で覚えている!


 何度かシンシの攻撃を肌で受け、俺は制約の一つに気付いた。

 黒のマジックバック内の移動は、潜って出てくるまでのタイミングに緩急がつけれないと。


 俺と残心による陽動は、三方に別れ走り出す。

 姿を現したシンシはそれを見て慌てるように剣を振るうが、振るわれた先は俺では無く残心の陽動の方であった。


 その隙を──見逃さない!


 無銘を握る手に力が込められる。このタイミングなら、隠れられるより俺の抜刀の方が早い!


「──今度こそ止めだ!」


 俺がそう声を上げた瞬間、シンシの体に巻き付いていた黒い手が無銘の剣の軌道を塞ぐ。


「切り札は、最後まで取って置くものだよ? カナデ兄ちゃん──」


 このまま切り込めば、無銘が闇のマジックバックに吸われる。

 もしかしたら、シンシはこれを狙っていたのかもしれない。


「──あぁ……その通りだ!」


 無銘が鞘越しに輝きを見せる。──その刹那、俺は抜刀をした。


灯心とうしん 直刃すぐは!!」

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