第190話 影打

「……失敗作? もしかして、聖剣の影打か!?」


 刀でも、何振りも打ってその中で質の良いものだけが真打ちと呼ばれる。もし──聖剣も同じだとしたら……。


「そ、それなら十分考えられるわ! おとんやって、魔王を打ち倒すための聖剣を、失敗無しで一回で打ったとは考えにくい! 剣に命を宿す事……そんな簡単やない!」


 俺達の回答を聞き、シンシは気が触れたかの様に腹を抱えて笑いだした。


「凄いヨ! 正解だヨ! 打たれた後、直ぐに感情に目覚めなかった聖剣の一振り……それが僕さ!」


 外套の女からロングソードを引き抜き、刃に滴る鮮血をその舌で舐め取る。

 そして、その刃は真っ直ぐミコへと向けられた……。


「ミコ姉ちゃんは凄いよね? 僕、未だに人の体を通さないと外に出られないのに……。媒介も無しに実体化しちゃうんだもん。僕は、ず~っとず~っと剣の中で動けなかったのに──ずるいよ、ミコ姉ちゃん!」


 それだけ言葉にしたシンシが剣を振るい、付着していた鮮血を飛ばした。すると──死んでいたハズの外套の男女が急に起き上がり、こちらを向いたのだ!


 その顔からは血の気が引き、開かれた瞳の焦点は何処に合っているかが分からない……。


「ふっふっふ、魔力をに寄越せ! 足りない……。本当に自由になるためには、魔力が足りないんだよ!」


 シンシの口調が変わり、突如自分の顔を引っ掻く。

 その下からは肉が剥き出しになり、その光景はとても痛々しく恐怖すら覚える。──シンシの様子が、明らかにおかしい?


「今のシンシは聖剣じゃないシ……。例えるなら……魔剣カナ」


「──どう言うことだよ、ミコ!」


 外套の男女は、まるでゾンビの様にゆっくりと此方に近づいてくる……。

 力動眼で目の前の二人を対象にすると魔力で動いているのが分かる。しかも、何かと繋がっているわけではない、完全な遠隔操作だ。


「シンシはきっと、刺すことで相手の魔力を吸収してるカナ! ボク達精霊は魔力の塊ダシ。生きてる人間の魔力を吸ったせいで……シンシの中に、さっきの二人の記憶が流れた……カナ」


「だから──どう言うことなんだって!!」


 無銘に触れ、抜刀の構えを取る。今からの戦闘は避けられない……それは肌でヒシヒシと感じている。


 ──しかし。


「シンシは、怨念おんねんに縛られたカナ。魔力を吸い上げる為に人を襲う……呪いの剣ダシ……」


 ミコの言葉が終わると同時に、二人の外套のゾンビは一目散に走って向かってきた!──今さっきまで生きていた人を……俺は切らないといけないのか!?


 躊躇ためらった俺は、無銘をギリギリまで抜けずいた……。

 しかしその中、二つの刃が俺の両脇を通りすぎ、外套のゾンビ達の足を切断したのだ。


「ミコちゃん……。それってつまり、シンシ君をこのまま野放しにしたら無差別に人を襲うって事かしら?」


「ミコちゃん。なんとか元に戻す方法はないのですか~?」


 武器を納め、俺の両脇に並び立つ二人。

 彼女達が言うように、元のシンシに戻ってくれれば……。

 いや、そもそも俺達が出会った時の彼は、既に演技だったのかもしれないな……。


「分かんないシ! あるならボクが教えてほしいカナ!」


 くそ、真面まともに戻す方法は分からないか! 


「邪魔を……しないでヨ。お前達モモモ……殺す! ……ヨ?」


 シンシが剣を床に突き刺すと魔方陣が広がり、それは教会の外にまで広がっていく。──シンシ! 何をするつもりなんだ?


「ま、不味いかな。範囲が大きいシ! お墓のも、さっきみたいになっちゃうカナ!」


「──は? そこの二人のみたいにか!」


 俺は両足を失い、床に這いつくばる二人のゾンビを指差し答えた。──コイツら……動いてやがる。死んでるだけあって痛みを感じないのか?


「た、多分そうダシ! でも……正直良く分からないカナ!」


 もしかして……死んでれば何でも動かせるのか!?

 入り口で出会った狼も、シンシが操って……。でもそれならどうして、あの魔物の死体がこんなところにあったんだ……。


 ──いや 、今はそんなことより!


「皆。シンシは俺が何とかするから、村の人の避難と外のゾンビを頼む! ティアさん、皆をまとめてくれ!」


「わ、分かりました。カナデ様も、お気をつけください!」


 俺の指示でティアとハーモニー、ルームは避難誘導に向かった……。

 しかし──トゥナだけは何故かその場に残っていた。


「トゥナも助けに行ってやってくれ! シンシは俺がなんとか──」


「──いえ、私は残るわ……。足が遅いその魔物なら、村の人でもよっぽど逃げ切れる。三人もついてるしね? それより魔物がここに入ってきて、カナデ君が囲まれたら逃げ場が無くなるわよ、背中は私に任せて!」


 俺の背後に立つよう、レーヴァテインを抜き構えトゥナ。──内心不安で仕方なかったんだ……。トゥナが居てくれると、心強い!!



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