第189話 正体

 

「これは一体──どうなってるんだよ……」


 目の前の信じられない光景に俺は驚きの声を洩らし、一同は絶句した……。


 床には外套を羽織った男がうつ伏せに倒れており、ピクリとも動かない。

 そしてシンシの母を名乗った女性はと言うと──シンシの持つロングソードで腹部を貫かれているのであった。


「なぁ? 何とか言ったらどうなんだよ……シンシ!!」


 俺の声に気づいたのであろう、シンシは首だけを動かし、俺たちを見て目を光らせた。


「皆……来ちゃたんだネ。皆には見せたく無かったのにな」


 口では残念そうに答えたが、すぐに俺達から視線を外した。

 そして、女性に向かい何かを話しかけているようだ。

 横たわってる男を鑑定眼で見透すが、すでに死んでいる……。──これを……シンシが?


「やめろよシンシ、何で剣を突き立ててるんだよ。そのままだと、その人も死んじゃうだろ?」


 外套の女の子生命力が徐々に低下していく……。急いで救命処置をしないと、助からないであろう。


「何で? そっか~お兄ちゃん達は知らないんだよね。ラクリマの村を焼き払ったのネ、この人達なんだ。今ネ、他の仲間の居所を聞いてる最中なんだヨ?」


 そう言いながら不気味に微笑み、ロングソードをゆっくりと上下に動かすシンシ。まるで、その行為を楽しむかのように……。


「──ア゛ア゛ァァガガァ!」


 血が溢れ、外套の女が吐血する。

 常軌じょうきいっしている……。これが、あの純粋で無垢だと思っていたシンシの正体だったのか?


「止めて、シンシ君!」


「──トゥナ姉ちゃん、何で止めようとするノ!! コイツら、僕の友達を殺したんだヨ!?」


 トゥナの制止の声に怒鳴り返し、手に持っているロングソードをひねるシンシ。──友達を……殺した? 何を言って。


「ガァ……アァ……ガフッ………………」


 必死に抵抗するようにロングソードの刃を、血まみれの手で掴んでいた女は、力無くその手を下ろすこととなった……。


「あ~あぁ、死んじゃった。も~う、お兄ちゃん達が邪魔するから、全然聞き出せなかったよ」


 ……駄目だ、手遅れだ。


 外套女の生命力も底をついてしまった。シンシの言通り、完全に死んでいる……。

 それを、マジックバックの隙間から見ていたのだろう。ミコが飛び出し、小さな体を一杯使い、身振り手振りを踏まえ、シンシに語りかけた。


「シンシ、何で殺しちゃったカナ! 人の命は……無くなったら戻らないカナ」


 ミコの悲痛な声が教会に木霊する。誰しもが思っているだろう……こんな状況で再開したくは無かったと。


「ミコ姉ちゃん……。ミコ姉ちゃんも武器精霊でしょ? なら、持ち主の意思で命を奪う。それって普通だよネ」


 ──ミコ姉ちゃん……も? 


 シンシの言葉が気になり、俺は自分の右目をさらに凝らし、シンシの姿を見据えた。しかし、シンシの身辺の能力値をみるには至らない。


「くっ。何で鑑定が出来ないんだよ!」


 シンシの首が、まるで壊れた人形のように動き俺を見つめた。


「カナデお兄ちゃん……。勝手に鑑定しないでよ? その目、嫌いだな~? 気持ち悪いよ」


 自身が鑑定されていたことに気づいている!

 やはりシンシには、鑑定を阻害する何かの特殊なスキルがあるのか。──そうだ! 鑑定じゃない、このスキルなら。


「力動眼! 対象……シンシ」


 シンシを対象にした力動眼は、シンシ情報を映し出す事に成功した……。

 ただ俺のまなこに、鮮明に映し出された、人の肉体ではなく彼の手に持っているロングソードの方であった。


「おい……武器精霊って、世界にミコだけなんだよな? それともなんだ、生きてる剣が、この世に存在してるってことか?」


 シンシを指定した筈なのに、映し出されたのは、彼が手にしている脈を打つロングソード?

 力動眼がしっかり機能しているなら、つまり──そう言う事に……。


「伝承に残ってるのは、間違いなくミコ様だけです。それは私も調べた事がありますので……。カナデ様、そ、それが何か関係をしてるのでしょうか?」


 俺はティアの返事に「あぁ、シンシと言う人間はこの場には存在しません」と答えた。


 俺の目が見通した事実。シンシの発言から推測すると、まず間違いない。


「シンシの正体、それは──人形ひとがたの肉体ではなく、手に持っているの方だ!」


「あれ~、なんでバレちゃったのかな。何かやったんだね? ヤッパリ、思った通りだ……カナデ兄ちゃんが一番厄介。ミコ姉ちゃんを従えてるしさ!」


 人の体に伸びている魔力の糸、それは剣であるシンシ本体から飛び出している。

 アルラウネの分体に良く似ているが、それとは比べる程ができないほど複雑に絡み合っていた。


「流石カナデ兄ちゃんだヨ。そう、僕もミコ姉ちゃんと同じ武器精霊。ただ…………失敗作だけどね!?」

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