第185話 ミコの強がり

「──シンシ! 今ママとパパて言ったよな。記憶が戻ったのか?」


「ううん……よくわからないヨ。でも、あっちにいた人を僕、良く知ってたノ」


 シンシが指をさす方をみると、何人もの人々が行き来している。──もしかしたら、あの中にシンシの両親が?


「シンシ君、どの人なの?」


「見えなくなっちゃった……グスン……」


 記憶喪失であるシンシの記憶が、どれ程あてになるかは分からないけど、本当に彼の身内かもしれない!


 俺達は慌てて彼が指差した方に行き、シンシに周囲を確認させた。


「シンシ、どうだ? さっき言ってた人はいるか?」


「いない……どっかにいっちゃったヨ……」


 くそ、何か知る手がかりだと思ったのに!


 しかし、本当にシンシの両親なら、何故こんなところに居るんだ?

 行方不明になった場所で、彼を探していそうなものなんだけど……。


「カナデ君、一度ティアさんと合流しましょう……。見失ってしまった以上、人手が多い方がいいと思うの」


「でも、もしこの村から出てったらどうするんだ?」


「大丈夫よ。いくらなんでもこんな時間に村の外に出ようとはしないわ。危険だって看守の人に止められるはずだしね」


 確かに……魔物が蔓延はびこる世界で、ランプ片手に夜道をフラフラするのは危険だ。人探しをするのであれば、尚更こんな時間には出歩かないか……。


「分かった。一旦、皆のところに戻ろう」


 俺達は宿に戻り、先程の出来事を皆に説明した──。



「そうですか……シンシ様の両親らしき人物の目撃情報ですか」


「はい。この村の出口は一ヶ所だから、そこに誰かいれば外に出てしまうことも無くなると思うのだけど……」


 トゥナの言う通り、この鳥の巣の様な外壁をよじ登って外に出るとは考えにくい。


 日が昇る前に出入り口で誰かが待機して、もしシンシの知っている人が通りかかったら、事情を説明してシンシと会わせれば解決だ。


「それでなんですけど、ティアさん似顔絵とか描けたりしますか?」


「任せてください。シンシ様、先程御覧になられたお父様とお母様の特徴を、教えていただきませんか?」


 ティアはシンシからの情報を元に、絵を起こしていく。

 特徴を主体に作られる似顔絵の方が、写真などの映像より犯人検挙率が高いって話も聞いた事があるな。

 それにしても、彼女の描く絵は相変わらず見事なものだ……。


「どうでしょうか?」


 ティアが描いた人物は二人の男女。その両方共が外套を頭から被っており、目付きは少しキツくシャープな顔立ちだ。優しい雰囲気のシンシとは、似ても似つかない気がするな……。


「うん、そっくりだヨ! ティア姉ちゃんすごい上手だネ」


 その言葉に「あ、ありがとうございます」と、鼻血を垂れ流すティア。──ショタもいけるのか……似顔絵が赤く着色されるだろ。


 後はもう何枚か頼んで、ギルドでも捜索願いを出してみるか? この村が範囲なら、探すのもさほど時間が掛からないだろう。


 ただそうなると気になることが一つあるんだよな……。


「ミコ……大丈夫か? 元気がないようだけど」


「べ、別になんともないカナ!」


 シンシの両親が見つかれば、それはミコが誰かとお別れをすることを意味する。──ミコはその後も、シンシ一緒に居ることを望むのだろうか? それとも俺の元に残って……。


「シンシも、お母さんとお父さんに会いたいと思うシ。大丈夫カナ……。シンシが寂しく無くなればそれでいいモン……。ワガママ、言わないカナ」


 ミコはそう言葉にすると、シンシの頭の上でニッコリと微笑んだ。しかし、その笑顔は今にも泣き出してしまいそうな……そんな印象を受けた。


「ミコ……」


 俺が呟くと、ミコは俺の目の前まで飛んできて、仁王立ちをする。


「ボクがカナデの側にいてやるって言ってるカナ! そんな顔しちゃだめカナ!」


 強がりを見せ俺の心配までするミコを、たまらず抱き寄せた。

 ミコは甚平のえりを掴み、顔を擦り付ける様に「大丈夫カナ……大丈夫カナ……」と呟く。


 ミコの粋な気持ちに決意が固まった。

 

 シンシの為にも、ミコの決意のためにも、絶対にシンシの両親を見つけてやる! ……っと。

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