第177話 予定の打ち合わせ

「ミコとシンシは寝たようだな?」


 俺達は、寝ている二人の隣で今後の打ち合わせをしている。


 食事の後、二人はどこか波長があったらしく、楽しそうに仲良く遊び回っていた。

 そして今は……シンシの上で涎を垂らし、気持ち良さそうに寝ているミコと、その下でうなされているシンシの姿があった。


「記憶喪失とは言え、余程怖い目にあったのね。あんなにうなされて……可哀想だわ」


 違うぞトゥナ、あれはきっと涎のせいで……。いや、冗談は止めておくか。

 確かに夢にみるほど恐怖で震えてるなら、余程ひどい経験をしたのだろう……。


「カナデ様、今後のご予定ですが、このまま次の村のギルドに向かいたいのですが?」


「ここは、このままでもいいのですか? 流石の俺でも、この惨状さんじょうをみたら働きたくないとは言いませんよ?」


「村の状態を見るに、この事件は数日前に起きたものと推測されます。これだけの火災です、生存者がいたとしてもまず生きていないでしょう……。カナデ様にも探していただきましたしね」


 その言葉に、俺達はシンシを見た。──確かにあの焼け跡の中、シンシが今これだけ元気なのは不自然だよな……?


「彼は村が焼けた後、ここに訪れたのかもしれません。その辺りの事情を、知るものは誰も居ないようですが……」


「やっぱり~、盗賊の仕業なんでしょうか?」


 その可能性は俺も考えた。ただ、そう決めつけるのには情報が少ない。


「どうでしょうか? ただ私は、何かの証拠を隠すために、村を焼いたのでは……と推測しております。そうでもなければ、あれだけ隅々まで火を放たないでしょうから……。どうしますか? カナデ様、今はシンシ様を安全な場所に運ぶのが先決だと思われますが?」


 彼女の推測には俺も納得だ。

 そして、シンシを安全な場所に送り届けることも。

 落ち着けば、今回の出来事をこの子が思い出せるかもしれないしな。


「わかった、俺達はこのまま次の町を目指そう。ルーム、俺も気を付けるが、悪いけどシンシから目を離さないようにしてもらっていいか? 魔物と戦闘になるようなことがあれば、ルームが一番手が空くしな」


「もちろんええで、うちだけ何もせんわけにはいかへんしな」


 次の目的地も決まった。情報交換も済んだし、打ち合わせもこれぐらいでいいか?


「それじゃぁ、交代で休もうか? みんな雨に濡れて疲れたろ。悪いけどティアさんは、俺と先に夜の番をお願いします。三人は先に休んでくれ」


 俺の指示に従い、トゥナ、ハーモニー、ルームの三名が馬車の荷台に入っていった。

 

「カナデ様もあんなに嫌がってたのに、今では立派なリーダーですね?」


「そうでも無いですよ……。ティアさんが居てこそです」


 実際俺一人じゃ、何も出来ないな……今もティアの提案に乗っただけだしな?


「シンシ様は、どうしてあそこに居られたのですかね……」


「分かりませんね……ギルドから、先に派遣された冒険者の関係者の可能性もありますが、それだとその冒険者の行方が分からないですし」


 それに、鑑定眼でステータスが見えなかったことも気になる……。彼が、何かしらのスキルを所持しているのか? まぁ、考えていても始まらないか。


 シンシの顔を見ると、悪夢は去ったのかスヤスヤと寝息をたてている。


 夜は深まり、雨は上がっていた。湿った土の匂いと、まだ残る建物が焦げた香りが鼻につく。

 

 俺とティアは、今後の具体的な話と雑談をしながら、交代の時間を待った──。



「──シンシ! 行くカナ! カナデに日頃の恨みを返してやるシ!」


 ミコ声? 日頃の恨み……なんの事だ……。


「──ぐふぅ!」


 夜の番を交代し、テントで寝ていたはずの俺の腹部に、激しい重みと痛みが走り、ウトウトしてた俺の目は一気に開かれた。


 目の前を見ると、俺の腹の上にはミコを頭の上に乗せたシンシが、馬乗りになっていた。


「お兄ちゃん! お兄ちゃん! 起きようネ、朝だヨ!」


「シ、シンシ、朝はおはようだ……。後……どいてくれ、お願い」


 夢から覚めたはずなのに、再び夢の中に落ちそうになった……。──ル、ルーム……目を離すなって言っただろ?


 今日の朝は、そんな爽やかとは程遠い内容で幕を開けたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る