第176話 シンシ2

 降りしきる雨の中、生存者の捜索のために俺は村中を歩き回った。

 

 しかしと言うべきだろうか? やはりと言うべきなのだろうか……。そこには生存者どころか、村人の遺体を一人も見付けることもできず、全く成果をあげる事ができなかった。


 結局俺は、力動眼を使い続け雨に打たれ歩き回り、クタクタになりながらも仲間の元へ戻ることとなった。


「カナデ様、お帰りなさ……ってどうしたんですか! その格好は!」


「ただいま……。まぁ、ちょっとな?」


 ティアが驚いているのは、戦闘で怪我したとかそんなことではない。おそらく、この泥だらけの俺の身なりを見ての事であろう。


 俺とティアが話していると、無銘からミコが出てきてた。

 説明しずらくて言葉をにごしてた俺の代わりに、彼女が余計なことを口走ってくれたのだ。


「カナデ雨の中、何回も転んでたカナ! ビシャーって前から後ろから、何回も転んでたカナ!」


 くっ──余計なことを言いよって!

 格好悪いだろ? そんな言い方をされたら……。


「こ、転けたくて転けてた訳じゃないだろ、念話で俺の思考が読めてただろ? 力動眼を使ってたから、足元が見にくかったんだよ。ただでさえ、暗くなってきたみたいだし……」


 空を見上げると、雨のピークはさったのか、先程よりはいささか雨は弱くなっているようにも感じる。

 ただ日が落ちてきたのか、周囲は見通しが悪く、闇が支配する時刻になっているようだ。


「カナデ様。どちらにしても、着替えてきた方が良いと思いますよ?」


「そうですね。村の井戸は使えそうだったし、ついでに水でも被ってきますよ。それより、シンシの記憶はどうでしょうか?」


「あの子ですか? 記憶に関しては、混乱……と言うよりは何もかも覚えていないようですね。余程、恐ろしい目にあったのかもしれません……」


 ティアが指をさす方を見ると、少し離れ火に当たる、シンシの姿があった。


 馬車の荷台だけでは手狭だったのか、地面の少し盛り上がっている場所にテントが張られ、その回りには簡易水路が掘られていた。

 そのテントと連結するように、ルームが作ったのだろう、タープの様なものが張られていて、その下で焚き火台を使い、焚き火をしているようだ。


「シンシの体調は……あれから問題ないですか?」


「はい、外傷も見られませんでしたし、今も意識がハッキリしてるので大丈夫だと思います。ポーションを与えようとしたら、嫌がられてしまいましたが」


「確かにあれは、美味しいものじゃありませんしね……独特の薬臭がしますし。俺もなるべくなら飲みたく……」


 ティアと、雑談をしていると、雨の中こちらに気付いたシンシが駆け寄ってきた。──きっと命の恩人の、俺の所に来る気だな? でも今は汚れてるからな~抱きつかれるのは……。


「──あ! 妖精のお姉ちゃんだ!」


 そう言いながらミコを捕まえ、頬擦りするシンシ。──お、俺じゃないのかよ……危うく恥をかく所だったぜ。


「やめるカナ、やめるカナ!」


 シンシも、もっと落ち込んでるかと思ったけど……元気そうで何よりだ。このままミコに面倒を見てもらおうか?


「じゃぁティアさん、俺は水を浴びて着替えて来ます。二人の面倒、よろしくお願いします」


「分かりました。これはこれで尊い……いえ、何でもありません。流石に不謹慎ですよね」


 流石の彼女も、場をわきまえたようだ……。


 「さぁ、ここでは濡れますよ?」と、ミコとシンシを連れて、ティアは二人を焚き火のある方に連れていく。


 うぅ~流石に寒くなってきた! 俺も、さっさと水浴びして温まろう……。


 村の井戸につき、水浴びをしながら甚平を洗う。──何があるか分からないし、日が昇るまでは動かない方が良さそうだな……。


 今後の予定を思い描きながらも、身なりを整えていく。


 水浴びを終え、皆の元に戻ると「ボクの方がお姉さんダシ! お姉さんの言うことはちゃんと聞くカナ!」と息巻いているミコの姿が……。──うちの子は、こんな幼い子と上下関係を作ろうとしてるのか? 微笑ましいのやら、悲しいのやら……。


「お帰りカナデ君、お疲れ様です」


 トゥナは、鍋で温められているシチューを入れ物に装い、俺に手渡した。


「ありがとう。頂くよ」


 シチューの見た目からすると……ハーモニーが作ったかな? 安心して食べられそうだ。

 スプーンですくい、口の中に入れる。熱々のシチューが、体を芯から温めていく。俺は舌鼓したつづみみを打ちながら、それを完食した。


 トゥナにおかわりを頼みながら、今の状況を見て思った。


 それにしても、ミコにハーモニー、ルームにシンシ……。

 うちのクラン、託児所待ったなしって感じだな……っと。




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