第174話 廃墟の謎

 雨は強くなったためだろうか、それとも馬車の速度が上がった為か? 

 先程より強く強く雨粒が顔に打ち付けられる。前を向き続けるのがしんどいほどの、雨と風だ。


「カナデさん~見えてきました!」


 手で雨風を遮りながら、手綱を握るハーモニーが叫ぶ。──見えてきた? 何処にだよ……。


 ハーモニーの様に、手で雨を遮り進行方向を目を凝らして見るが、俺にはまだ見えない。


「雨が強くて、まだ見えないぞ……」


 トゥナもそうだが、この世界の人間は本当五感に優れてる。俺が鈍い奴みたいじゃないか……。

 更に少し走るとと、前方にうっすらと人工物が姿を現したのだが……。


「見えた……でも、あれは──本当に村なのか?」


 そびえ立っているはずの構造物は視界には映らず、そこには黒ずんだ墨の様な柱がチラホラそびえ立つ……。どう考えても非常事態だな。

 くそぉ! 俺達は見事に、面倒事に巻き込まれてしまった様だ。


 村があったと思われる入り口に馬車を止め、村を見渡した。ここから見ても、無事に形が保たれている建物は一軒もない。──こんなの……知性に乏しい魔物には無理だろ? 明らかに人の手で行われた行為だ……。


「ティアは魔法で連絡を、トゥナはティアに着いていてくれ! もしかしたら危険があるかもしれないからな。何かあったら無理をせず、大声かティアの魔法で知らせてくれ」


「分かったわ、カナデ君達はどうするの?」


「俺達は村の調査だ。もしかしたら、生存者や、この状況の理由や切っ掛けが分かるかも知れないからな? 流石に見て見ぬふりも出来ないだろ……」


 そして、俺とミコ、ハーモニーとルームは先行して村の中に入った。町の中を見渡すがひどい有り様だ……。


 焼けた建物の跡に触れても、全く熱を持っていない。雨で冷えただけかもしれないが、建物の材料に使われてた木々は、ほぼ燃え尽くされていた。


 雨で鎮火したのであれば、燃えていない所がもう少し残っててもいいよな? 雨が降り始めて、言うほど時間も立っていないし……。一日、二日前じゃないな?


 鑑定眼で見渡しても、これといっためぼしい情報は無い……。

 これだけ一面焼け野原だと、きっかけや原因を突き止める方が難しいな……。


「誰かいますか~?」


「いたら返事しいや~!」


 ハーモニー達が大声で叫ぶものの、人の気配すらしない。──これだけの惨事だ、建物内に逃げ遅れた人がいてもおかしくないハズなのに……。焼死体の一つもない。


 盗賊や何かに村が教われた? 十分考えられるな……。先に送られた冒険者も、村人達と一緒に、連れ去られたのか? でもそれなら、足の遅い老人までつれていくだろうか?


『──カナデ、あっちに誰かがいる気がするカナ!』


 勘かよ! しかし、ミコも凄い精霊……のはず……。

 どうせこんな焼け野原じゃ、すぐさま生存者を探すなんて芸当、俺らには無理だ。ミコの勘をあてにするか?


『はずじゃないカナ! 凄いカナ!』と、苦情の声を上げるミコに構ってる場合じゃない。俺は、先を歩く二人に声を掛けた。


「ハーモニー、ルーム! こっちに来てくれ、もしかしたら誰かいるかもしれない」


 ミコ指示に従い、俺達は村の片隅の廃墟に向かい走った。

 その廃墟を見ると、三匹の黒い塊が何かを漁っている様にも見える。


「カナデさん~! 子供が──狼の魔物に襲われてますよ!」


 俺の目にはまだハッキリは見えないが彼女の目は、ソノ状況をしかと捉えているようだ。


「ハーモニー、ユグドラシルで牽制だ! 頼む!」


 俺の掛け声で足を止め、ハーモニーはユグドラシルを放った。


 魔物は、夢中で何かを食べていたのか、気付かれることなくハーモニーのユグドラシルが一匹をつら抜いた。


 やられた仲間を見て、二匹はこちらに気付いたようだ。


「──気づくのが遅い!」


 瞬時に距離を詰めた俺は、鞘ごと無銘を抜き、二匹を斬りつけ、吹き飛ばした。

 二匹の魔物は犬が出すような悲鳴を上げながら宙を舞い、その後足から地面に着地した。


「グルゥルゥルゥ!」


 足を引きずりながらも、二匹は俺を威嚇する。普通の生き物なら、恐怖で逃げ出しそうなものなのにな……。


 俺は無銘を腰に刺し、抜刀の構えをとった。

 

「やる気か? 次は斬るぞ……」


 無駄とは知りつつも、俺も目の前の魔物に負けじと二匹を威圧した……。


 すると驚くことに、まるで何かに怯えたように後ずさる魔物達。

 そして、二匹は声を上げ負け犬の様に去っていったのだ。


 威圧感に怯えたのか。剣客として、一回りも二回りも成長したのかもな……ってあれ、俺刀匠希望だよな?


「兄さん、この坊主起きたで! 生きてるようやわ!」


 一足先に子供の所にたどり着いたルームから、大きな声が聞こえた。──良かった……なんとか助けることが出来たみたいだ。

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