第134話 ナイショの話
「流石ガイアのおっさんの娘だな、これだけの説明で欠点に気づくなんて……」
彼女の言う様に、実は欠点だらけなんだよな。
結局のところ、武器って最終的には使い手次第なんだよ。
「そりゃ、流石に分かるわ……一番ネックなんわリーチやろ?」
まさしく、その通りだ。本当に良く見てる。
「あぁそうなんだよ。小さいひ弱な体に合わせて、種類も刃渡りも短くデザインしてるからな。これぐらいじゃないと、持ち主になる女性には、振り回すことが出来ないんだよ……」
いくら考えても、こればかりはどうにもならないんだよな。
軽く丈夫な素材を選んだとしても、刃渡りを長くすれば手首に負担がかかる。
手首事固定する武器【パタ】の様な形状にして、刀身を伸ばしても良いのだが、扱いが難しくなる上に、重量は増してしまう。
もちろん【ダガー】も悩んだ。けれども、彼女にその手の武器を持たせると、何となく危険な気がしたのだ。
この際、手っ取り早く彼女に筋肉をつけさせるしか……。いや、やはりそれだけはダメだ!
「うーん、そやな。ひとまず、兄さん達が持ってる素材を見せて~や。ここはウチの、魔技士の出番やろ!」
自信に道溢れた顔で胸を張る。──あの人の娘さんなら、任せても面白いかもしれないな。
マジックバックから、アルラウネの魔石と糸、ロッククラブの甲羅、ワイバーンの皮膜と骨、鱗を取り出しルームに見せた……。
すると「宝の山やないか!」とすごい勢いで食いついてきたのだ。──そうなのか? 俺にはまったく、この価値が分からないんだけど……。
「なんや! あんたらアルラウネどころか、ワイバーンの子供まで退治したんか! こりゃたまげたわ!」
彼女の発言にこっちも脅かされた。切って小分けにしてるのに、一目見ただけで見分けがつくのか……凄い知識量だな。
「これだけで良く分かるな?」
「当たり前やわ! ウチを誰だと思ってんねん! じきに世界に名を轟かす、伝説の魔技士になる女やで?」
人差し指の甲で鼻の下を擦り「へへ~ん」得意気な顔を見せる。
「それは頼りになりそうだ、それじゃルーム頼んじゃおうかな?」
「分かったわ、これだけの物があればウチが何とかしたるさかい。図面引いとくんでまた明日来てや、パーティーの事お仲間はんに是非とも頼みまっせ!」
それだけ言葉にして、室内を漁り紙とペンを使い何かを書き始めた。
「あ、あぁ~よろしく頼むよ。それと明日の……」
目の色を変え完全に自分だけの世界に入り込んだようだ。──もう聞いてないな、これは。
「──あらあら? この子はまたお客さんを放っおいて……」
ルームの母が飲み物を俺とトゥナに手渡し「粗茶ですが」の言葉と共に
「変なところばかり旦那に似ちゃったのかしらね……」
否定的にも取れる台詞なのに、その眼差しは暖かかった。そんな姿を見て、ほんの少しだけ、家族と言うものを羨ましく感じたのだ。
ルームの様子を見ると、何となく邪魔したら悪い気がするな……。
頂いた飲み物を飲み干し、器をルームの母にお返しする。
「さて、用件も話してありますし、今日のところは帰らせてもらいます」
「あら。たいしたおもてなしもできず、申し訳ないかしら」
ルームの母に見送られながら、俺達は来た道を戻り宿屋に向かうことにした。
大きな太陽が海の中に潜るように沈む。先ほど賑わってた通りも、賑わいがずいぶん大人しくなったようだ。
「いやぁそれにしてもルームは、中々に強烈だったな……最後なんか、人の声がまったく耳に届かないし」
俺の発言を聞き、トゥナがしかめっ面になる。──なんだよ……俺が何か不味いことを言ったか?
「あのね。カナデ君も、なにか作ってるときは大体あんな感じよ? 人の話を聞かないって言うか……聞こえてない感じ?」
歩きながらも、いつものポーズでため息をつくトゥナ。──まじか! ま、まぁ? 多少なり自覚はしてたけど……。
「ところで、俺もあんなに酷いのか? 少し自重した方が良さそうだな……」
トゥナの発言からするに、何度も彼女の話を聞かなかったことがあるのだろう。
悪いと思う反面、何か惜しい気もするな……。
「──でも、私から見たら、とても羨ましいかな?」
「え、羨ましい?」
人の話を聞かないことが、だろうか? って、そんな訳ないか。じゃぁ、何を羨むことが……。
「私も目標は持ってるけど、それがは蜃気楼のようなものなの。自分ですら、今歩んでいる道が正しいのかさえ分からないのよ……」
彼女の夢は確か、勇者のようになりたい、だったか? 手段も方法も分からないもんな……絵空事の様な内容な分、叶えにくいだろう。
「トゥナはこんなのじゃ納得できないかも知れないけど……異世界に放り出されて右も左も分からない俺に声をかけてくれた事、俺は感謝してるけどな。今では心から救われた、そう思ってるよ」
話ながらも足を止めることはない……だって恥ずかしいだろ? らしくないことを言っている、今の顔を見られるのは。
「カナデ君……?」
名前を呼ばれたが顔を見ないよう、歩幅を合わせてゆっくり歩く。──照れ臭いけど……彼女に伝えよう。少しでも自信をもってもらうために。
頬をゆびでかきながら「あのまま一人だったら、生活苦で飢えて死んでたかもな。だから、俺はトゥナの事を命を救ってくれた、勇者みたいに思ってるんだぜ?」と、精一杯の……しかし、本心で励ましの言葉を送る。
「ふふっふ、何よそれ……?」
花が咲いた様に、笑顔になった彼女の顔を横目で覗く。──良かった、少しは元気になったかな?
『カナデ超臭いカナ! ププップップ』
──なんてこった、くそぉ! お前が居たこと忘れてたよ! 絶対誰にも言うなよ? 晩御飯分けてやるから。
『交渉成立カナ?』
くっ、晩御飯は減ったが、何とか秘密の漏洩を防ぐことはできそうだ。
「ありがとう。やっぱり、私の勇者様はカナデ君みたいね」
小声だったため、彼女の声がよく聞こえなかった。
「ん? 何か言ったか?」と聞き返したが、眩しいな笑顔で「ナイショ」とだけ答え、彼女は弾むように少し前を歩いて行くのであった。
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