第118話 実食!!!

「──うっ!」


 あれ? たこ焼きを口にした船長が、動かなくなったぞ?

 まるで毒でも盛られて、倒れる直前のような台詞だけを残し動きが止まった……。


 会場からも船長を心配するかのような声がチラチラ聞こえてきている。──い、言っておくが俺は盛ってないぞ? ギリギリ我慢できてるから、盛るの我慢できてるから!


「──あ、あのぉ~船長さん?」


 このまま倒れたら船員に殴り殺される……心配で声をかけたその時だ。


「う~~~まぁ~~~い~~~ぞぉぉぉ~~~!!」


 大声で叫びながら、自身のシャツを掴み、破り捨てていく船長。ま、まさか、普通のたこ焼きでここまでのリアクション取られるとか思いもしなかった。


「なんだいなんだい、このたこ焼きってやつは! 外がカリカリしてるのに、中がトロットロではないかぁ! その中に入っている具材も絶妙なバランスで食感と味を生み出し、あのレクト・オクトパスが最後まで俺が主役だぞ、っと主張してくる様だ!」


 大袈裟、大袈裟だから……。それよりいいのか? そのシャツ、マジックアイテムだろ。前にティアが教えてくれたけど高いんだろ、それ?


 船長のコメントに、船員達が「あの、レクト・オクトパスが?」と、ざわついているようだ。


「戦友よ。それにしても、ここまでのカリカリ感簡単には出来ないはずだろ? 何か秘密があるんじゃないのかい?」


 そ、それがわかるのか! この人、実はただ者じゃないだろ? 船長、ただの筋肉フェチだと思っていたよ……。


「別に、難しいことじゃありませんよ。ひっくり返す前に表面に薄く油を塗っただけです」


「なるほど、そのような工夫が……君には驚かされっぱなしだよ」


 おもむろに俺の手を掴む船長が、そのまま手を空に掲げた。


「──勝者は、我らが戦友だ!」


 船のいたるところから拍手の雨が、俺とハーモニーに降り注ぐ。完全勝利だ。


「──ティアさん、いい勝負でした。今回は俺の運が良かったようですね」


「カナデ様……」


 完全にお世辞である。きわどい水着を逃れた俺は、この後彼女に酷いことを言わなければならない。

 その為か、思ってもいない優しい言葉を口にしてしまったのだろう。


「ティアさん? 勝負の前にした約束、覚えてますよね?」


 俺の発言に彼女は顔をひきつらせた。


 そもそも、あの料理でよく勝負を挑んだものだ。

 うっすら予想はしてたのだが、今なら確信できる。彼女はリスクを負ってでもトゥナと料理がしたかったのだろう!


 もしそうだとしたら、全て彼女の思惑通りだったのかもしれない。試合に負けて、勝負に勝ったとさえ思ってるのかもな?


──しかし、世の中そんなに甘くはないぞ!


「カ、カナデ様……私に乱暴する気なんですね! あの本の様に! あの本の様に!」


 ティアが変なことを言うもんだから、俺の背後にハーモニーがピッタリとくっつき聞き耳を立ててるんだが……。


 きっとこれも計算の上だろう。しかし、ここからは思うようにはさせないぞ?

 元よりやましい事をする気もない。ただ、この勝負を受けるときからひとつの考えがあった。


 俺はおもむろにマジックバックを開き、一冊の本を著者である彼女にこっそりと見せる。


「今後、こういう本に俺を登場させるのはやめてくれ……」


 それを聞いたティアの顔が青ざめた。予想外だったのだろう、俺の言葉に彼女は驚きを隠せないようだ。


 足元がふらつき、蚊帳の外であったトゥナの胸元へと倒れ込み、抱きついた。


「──ティアさん、大丈夫ですか!」


 心配するトゥナを他所に「グヘヘヘ」と不気味に微笑むティア。──よくよく考えれば、結局のところ俺になんの利益もない勝負だったな……。肖像権が守れただけでもよしとするか?


「戦友よ、話は済んだか?」


「あ、はい……」


 半裸の船長の圧迫感が凄い。あまり、近づかないでいただきたいものだ。


「戦友が作ってくれたこの……たこ焼きだったか? あれを皆に振る舞ってもらいたいのだが」


 船長の言葉に「たっこ焼き! たっこ焼き!」とたこ焼きコールが巻き起こる。それを聞き、嬉しくならない訳がなかった。──この餓えた筋肉どもめ!


「良いですよ。それでは、大量に作るのでお待ちください!」


 いまだに抱きつき離れようとしないティアを、トゥナとハーモニーの二人掛かりで頭をなで、慰めているようだ。


「ほら、ティア。いい加減お楽しみを止めて手伝ってくれ」


──その時だ。


 おもむろに残りのたこ焼きを見ると、突如タコ焼きが一つ消えてしまった。


 しばらくすると、俺の持っているマジックバックは勝手に開き、その後すぐ閉じられる。──犯行方法も分かった。やはり犯人はアイツだ。手段はミスディレクションと魔法の併用、器用な真似をしよって……。


 俺はティア達が使っていた厨房に向かい、プロテインを少し拝借する。──さぁ、目にもの見せてやる。


 マジックバックを開き、中を覗くとあら不思議。うちの精霊様が、ハムスターの様にたこ焼きを頬張っているではないですか……。


「ようミコ、自分だけでも姿を隠せたんだな?」


 俺の掛け声に、ミコがビクッと体を震わせ顔をあげた。


「へへへ、カナデとの特訓の成果だシ! ボクにとったら、ちょちょいのちょいだったカナ」


 そう言いながら、ミコはたこ焼きを背後に隠す。──完全に丸見えなんだけどな?


 そうかそうか。特訓した成果を、早速ここで出してきたか。見事な魔力コントロールに俺は驚きだよ。


「俺の作ったたこ焼きの味はどうだ?」


目の前の精霊様の額から汗が流れ、目が泳ぐ。必死で言葉を探しているのであろう。


「お、美味しいカナ、でも僕はもっと濃い味の方が好きカナ」


 なるほど、やはりソースとマヨネーズが必要のようだ。マヨネーズは作り方わかるけどソースはな? おっと、それより。


「喉が渇いたろ? これでも飲めよ」


 俺は笑顔でプロテインをミコに手渡し「慌てて食べなくてもいいからな?」と、優しい声を掛けバックを閉じた。


 閉じる際に笑顔で「ありがとうカナ!」と声が聞こえた。別に、お礼の言葉なんていらないんだよ。


──だってそれは……。


「ブフゥ~! ゲロマズダシ!」


──そう、罰なのだから!


 マジックバックから謎の液体が滴り「み、水~!」の呻き声が聞こえる。

 その声を知らん振りし、この後みんなでたこ焼きを作り、美味しく食べたのであった──。

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