第81話 特訓、対決、強制?

 グローリア大陸を出港し早数日。世界最速と言われているギルド船、オールアウト号の上に俺達は居る。


 今回は客として乗っているので、久しぶりに完全のオフ、お仕事もなく、やることもない……。


 よって、現在俺は、と言うと甲板の上で──。


「ミコ! まだ明るいぞ! さっきのを維持しないとおぉぉ~! 魔力、魔力吸いすぎてるからぁぁ!」


『やってるカナ! がんばってるカナ!』


──特訓中なのである! まぁ、主にミコの……なのだが。

 具体的に言うと、鑑定眼で自分の魔力残量を見ながら、ミコに消費量をコントロールさせる特訓だ。


 俺は、無銘を鞘から引き抜き構え、ミコに指示を入れているだけ。

 もっと分かりやすく言えば、ミコが無銘を光らせるだけの特訓だ。


 この前、鑑定眼で自分の能力値を確認した時に気づいた。どうも俺は、その他の能力は上がりやすいみたいだが、魔力の上昇がいまいちよろしくないようだ。


 よって、効率よく魔力を利用する特訓をすることにした訳なのだが。これも非常に悪戦苦闘している。


「ちょ、ちょいミコ!」


 どうも以前の勇者は、特殊なスキル持ちだったらしい。その勇者仕様のミコは、魔力の蛇口を一杯に開くのは得意だが、その経験が少ない為か、絞ることが非常に苦手らしい……。


「スト~ップ! ミコ待った。干からびる、干からびるから!」


『ボクは急に止まれないカナぁ~! ヨイショ!』


 俺の止める声で無銘から光が消え、なんとか魔力の消費も収まった。──ね……ねむぃ。

 その後無銘を鞘に納め、バタンッっと甲板に背を預ける。


「これは、もうしばらくかかりそうだな……」


 空を見上げると、何処までも続きそうな青い空が広がっている。──いつか帰れるのだろうか?

 物思いにふけていると、目の前にはTシャツがバタバタと揺れる光景がちょくちょく視界に入ってきやがる。


「俺は、黄昏たそがれる事も許されないのか!」


 誰にでもなく、突っ込みを入れてしまった。

 はぁ~……それにしても、シャツが上になければ、このまま昼寝もいいんだけどな? 何故か眠いのに目が覚める……不思議だ、ある種の異世界効果なのか?


「──カナデ君、何してるの?」


 声に誘われるように横を見ると、トゥナが俺の直ぐとなりに立っていた。非常に残念だが、スカートを手で押さえている……。もうちょいで見えそうなのだが、もう一度言う、非常に残念だ!


『カナデ、少しは欲望隠すカナ……』


 そう言えばミコこっちだったよ! 男の子なら、この状況誰しも同じこと思うだろ? だから、謝るのでゆるしてください、ごめんなさい!


「──カナデ君?」


「あ、あぁ今、特訓? してたんだよ。この前結構やばかったからさ」


「なんで疑問系なのよ……。カナデ君が特訓ね~……」


 そう言いながらトゥナは辺りを見渡した。どうやら、何かを見つけたようだ。


「それなら折角だし、私と打ち合いする?」


 そう言って甲板の壁に向かっていく。そこに立て掛けてある木剣を手に取り、寝ている俺の所まで持って来た。


「はい、カナデ君」


 それを受け取らずに視線をはずし、寝た振りを決め込んだ。打ち合いとか、めんどくさいのだ。


「も~う、なんで普段はそんななのよ? この前はあんなに格好良かったのに……」


 流石に寝た振りは無理か、何かやんわり断る理由を探さないと。──そうだ!


「こんな風の強い中、模擬戦なんてやったら久しぶりに見たその可愛い帽子が風で飛んでっちまうぜ? それにその木剣も、この船のだろ?」


 トゥナが手に持っている木剣は、魔物がでる世界の為か、海上での船員達の戦闘訓練用に使われている木剣だ。許可無く、船の物を使う訳にも行かないしな?


「あら? 元々利き手でしか武器を持たないし、今みたいに帽子は押さえながら戦えるから良いわよ? でも、確かに勝手にコレ、使うのはまずいわよね……」


 こんな時、彼女の正義感は助かるな。

 この話はここまで、そう思ったその時だった。


「トレーニングとは中々の心がけだな!」


 そう言いながら、舵のある階段の上から降りて来る船長。──嫌な予感がプンプンするぞ!


「ワイバーンを討伐した、英雄の君らの実力、是非拝んでみたいねぇ。その木剣、壊しても構わないから手合わせしてる所を見せてくれねぇかい?」


──悪い予想が当たった。


 船長の申し出にトゥナは喜び、対照的に俺は落ち込んだ。

 しかもどうやら、船長の無駄に大きな声を聞き、ギャラリーが次々と集まって来てしまったのだ。──まじか! 外堀を埋められたぞ!


 くそ、どうしたものか。木剣じゃぁトゥナに勝てるきもしないしな。俺の剣術は抜刀術。鞘もなければ、反りもないのにどうやって抜刀するんだよ!


「──はい、カナデ君」


 俺は問答無用で木剣を手渡された。どうも今の状況に逃げ道は無いらしい。


「分かった、相手するよ」


 仕方ないので起き上がり、木剣を受け取ると、二度、三度ブンブン! っと振り回し、木剣の具合を確認する。


 形状は、一般的な西洋のロングソードを模して作られているようだ、重さはかなり軽いな?


 せめて木刀であればもうちょっと何とかなると思うのだけど……。 例えるならバットでゴルフをするような、ってこの例えは分かりにくいか?


「トレーニングだからな? 相手に直接当てないように寸止をする事! 何度やられてもいいが、相手に敗けを認めさせた方の勝利でどうだ!」


 なんだよ船長、その無限に戦えますルールは……。でもこの条件なら、頃合いをみて降参すれば格好悪いところは見せるにしろ、しんどくなったら止めれるか?


「分かってると思うけど、手とか抜かないでね?」


 彼女は、本気の俺とやりあいたいようだな……。


 俺は左手で腰の帯を握り、右手に握る木剣を前に出して中段に構えた。右足を前に出し腰を落とす。


 それに対し、トゥナは帽子を左手で押さえながら、逆に右足を下げ中腰で低い位置に木剣を構える。

 今更だけど帽子を取ればいいと思うのだが?


「じゃぁ、準備はいいな?」


 船長の声を聞き、俺とトゥナは同時に首を振る。


「──始め!」



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