第74話 ワイバーン戦 中
「──くそ! 参ノ形、残心!」
俺は咄嗟に複数の分身体を作り、対象にされる的を増やしたのだ……。
あんな自滅覚悟の上空からの攻撃など、避ける事などできない! 魔力を大量に消費するが、狙われる確率を下げる為にはやむ無しだ!
ワイバーンは目の前の状況に
地面に激突する激しい音が響き渡り、音を追いかけるかの様に石混じりの砂嵐と衝撃が俺達を襲った。
「いててて……」
どうやら、体当たりの衝撃で飛ばされたみたいだ……。運良く、陽動の方に向かってくれたのか? 体は痛いが、大きな怪我はないな……。
しかし、状況は最悪だ。舞っている砂埃で目を開けることもできない。──そうだ! トゥナ……トゥナは無事なのか?
声を大にして安否を確認したいが、今叫ぶとワイバーンの標的になってしまう……。
砂埃が立ち込める中、なんとか
今ので位置関係が大きく変わってしまった。 俺とトゥナがワイバーンを間に挟む様な形だ。挟み撃ちは本来有利な戦法ではあるが、空を飛ばれている以上ほとんど意味がない……。
顔の形状を見ても視野はかなり広いはずだ。それに、変則的に動く毒のある尻尾側は、まともにやりあうにはリスクが高すぎる。
「さっきの分担分けをするにも、この視界の中動くのは危険だな……」
策を考えても思い付かない、とりあえず息を潜め砂ぼこりが収まるのを待つとしよう……。
──そう思ったその時だ。ワイバーンが力強く羽ばたく音と共に、風が砂ぼこりを吹き飛ばす。そしてその後すぐ、何か数字の様なものがこちらに向かってきた。──嫌な予感がする!
砂埃が薄れ、ひらけた視界から棘のついた何かが、目の前に突如現れた!
「──くそ! 尻尾か!」
回避行動を行うと、すぐ目の前を尻尾の棘が通り過ぎた。
ヤ、ヤバかった……。鑑定眼が無ければ、気づく事も出来なかったかもしれない。なんたって、カスめることも許されないんだ。
どうやら、俺側が尻尾か……。なんだよ……ハズレばっかだな!
ただ、こちら側がトゥナではなかった事に安堵している。
自惚れって訳でもないが、先程の死角からの攻撃は特殊なスキル持ちか、相当な運の持ち主でもなければ避けられなかっただろう。
視界は晴れ、目の前ではトゥナとワイバーンが再び交戦し始めた。
彼女に先程までの余裕がないのか?
「バリスタはまだなのか……!」
こちらから様子を
これだけの風や石が飛び交っている状況だ、もしかしたら彼女達に何かあった可能性もある。
最悪の状況が脳裏をよぎる、逃げるか……? まだ早い、まだやれる事を全てやった訳ではない!
無銘に手を置き、鞭のようにしなる尻尾を掻い潜りながら斬りつける。──トゥナの元へと向かおう……さっきのフォーメーションなら!
何度も、何度も合流を試みる。しかし、ワイバーンはそれを嫌がるかの様に抵抗を見せ、俺達は合流に至らない。
回避しては斬りつけ、斬りつければ、回避の為に後ろへと戻される……。残心を使い陽動を出せば結果は変わるかもしれない……。だがもし、魔力を使いすぎて前みたいに寝てしまえば……その時点で死が確定する。
「切り札を……簡単に使う訳にもいかないよな!」
一撃カスっても終わりの状況に、俺はスタミナだけではなく精神力……集中力まで奪われていく。息は上がり余裕が無くなっていく。
無銘を振るう手までも重く感じてきた……。これ以上は俺もトゥナも危険だ…。一度体勢を立て直した方がいいかもしれないな……。仕方ない、残心を使ってでも!
撤退命令を出そうとした……。その時──。
『──カナデ様! 大変お待たせしました、バリスタいつでも行けます!』
表現が難しいが、ティアの声が風に乗って耳元でささやいた。おそらく彼女の魔法の一種なのだろう。
向かい側で交戦しているトゥナと目が合った、どうやら彼女にも声が届いたらしいな……。
「よし! これがラストチャンスだ!」
俺はトゥナに見えるようにハンドサインを出す。それに合わせて二人同時に攻撃を回避しながら、徐々に半時計回りに回って行く。
視野が広いため効果はあまりないかもしれないが、バリスタ側から見てワイバーンを裏側に向かせるためだ。運良く死角に潜り込む事が出来れば、命中精度が上がるかもしれない。
「今だ! ハーモニー!」
俺の大声と共に、バシュゥゥゥゥ! っと矢が風を切る音がした。一直線にワイバーン目掛けてロープのついた銛が飛んで行く……。
「当たれぇぇぇ!」
ハーモニーの狙いが良かった為か、バリスタの銛はワイバーンに直撃するか……っと思われた。
しかし、それがワイバーンの視界に入ったのだろう。力強い羽ばたきの風圧により、ワイバーンは緊急回避を行い、風で弾道も反れた。銛は胴体と首の間の辺りを通り過ぎる事になったのだ……。──くそぉ! 万事休すか?
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