第62話 仮説と可能性
「ティアさん? その仮説って言うのは、なんなのですか?」
全員が静まり返り、蟹を手に持ちながらティアに注目する。こんなときでも抗うことの出来ない蟹の魔力……恐るべし。
「みなさんは、この国が軍事力に力をいれているのはご存じでしょうか?」
「あぁ~そう言えば、昼間にハーモニーがそんな事を言っていたな?」
俺の問いに頷くハーモニー。火の無い所に煙は立たぬ……これだけ何人も知っているってことは、恐らく事実なのであろう……。
「事実この国は、他国に対して軍事力を見せつけて、貿易を優位にしようと言う動きがあるのです。しかし最近、その行為が目に余ったのでしょう。二大国が共同してグローリア国に貿易的圧力をかけたのです」
「二大国って?」
俺のその質問にハーモニーが「獣人の国と、私の故郷エルフの国だと思います。両者は現在は仲が良いので」と説明を入れて、それにティアが頷く。
「そこで最近、グローリア国が勇者召喚を行ったが失敗に終わったとの情報が入りました」
おぉ~なるほど……。その失敗作が俺な訳だ。確か、その後に二度目の召喚をしようとしたんだっけ? ミコがそんな事言ってたな。
「その数日後に、聖剣が折れたとの噂が流れたわけです。そしてカナデ様の元にはミコ様がいる……」
その言葉を聞き、俺はトゥナの顔色をうかがった。──あれ? いつもなら非難の目を向けて頭を抱えるのに、今日はそれがない。それどころか、何となく元気がないような……?
「トゥナ? 元気がないようだけど、どうした?」
「えっ? ううん、大丈夫よ。元気だから」
俺には、そうは見えないんだけどな……。そんな事を思っていると、目の前のハーモニーが何度も頷いている。
「分かりますよ、トゥナさん~。憧れの勇者様がカナデさんじゃ元気もなくなりますよね~。……可愛そうです」
おい! それはどういう意味だよ! 今まで格好いいところを見せて……は来なかったかも知れないけど。皆のために頑張って……もないな?
…………いいしね! 別に~? 勇者になりたい訳でもないし、なる気もないもん! 変な期待をされても困る。
「そもそも、俺は召喚されたものの、能力不足だって追い出されたんだよ。勇者って訳じゃないの!」
そうだよ! ソシャゲのガチャで言うところのSSSキャラじゃなくてSSキャラなんだよ俺は!
「つまり、曲がりなりにも。勇者として召喚されたカナデ様を、勇者として祭り上げ、貿易を有利に運ぶ。……もしくは戦争の再開を目論んでいるのかもしれませんね」
「曲がりなりにもって……言い方……他にあるだろ?」
なんでうちの女性陣は俺に厳しいんだよ……。泣きそうになってきたぞ?
「カナデ元気だすカナ! カナデの非道さは世界一だシ! スパンッ! だっても凄いカナ!」
「あ、ありがとうな。ミコ……でもスパンッ! は内緒な? それ秘密だから……」と小声で言い聞かす。
所で一つ。大きな疑問なんだが……。
「なぁ、勇者って一人いるってだけで、貿易交渉に優位に立てる様になるのか? 勇者だって一人の人間だろ? 俺にはその価値が分からないんだが」
まぁ、過去に行った偉業を聞くと、ただの人って感じはしないけど。それでも相手の国家や軍隊。そいつらが一人の人間にビビるなんて事は……。
「過去の文献通りなら、勇者様が放った一撃で魔王の城を海に沈めたと言われていますよ?」
──え……えぇぇ~~~~!
「いやいや! やっぱり俺は勇者でも何でもないわ! そんなの無理だから、出来ないから……な? ミコ?」
「うん、カナデじゃ無理カナ~? たぶん、干からびるシ」
干からびるって、嫌な表現だな……。魔力的な話だよな?
「出きる出来ないが重要じゃ無いのでしょうね……。交渉の件もそうだと思いますが、あの国のことですから、聖剣が折れたのも恐らくカナデ様の責任にするはずですよ? 勇者が召喚されたので折れた……と。自分達に責任が無いって言うに決まってます」
それは、粉うこと無き俺のスパンッ! が原因なんだけどな……。うん、内緒にしておこう。
俺は慌てる様にミコの口を塞ぐ……。──トゥナも、先程から何かしら、考え事をてるみたいだし……聞こえていないだろう。こいつの口さえ塞げば、情報漏洩はあり得ない!
「ですので、私の立場から意見しますと、ギルドとしてもカナデ様がグローリア国に捕らえられるのは、好ましく思いません……」
「ん? この国が潤えば、この国のギルドは潤うんじゃないのか?」
俺の答えに首を横に振るティア。どうやら、俺の考えは間違っていたようだ。
「この国は腐敗しています、例え潤ったとしても民までは裕福にはならないでしょう。何より、ギルドはリベラティオ国の企業ですので……」
なるほど……。確かにもっとまともな国家だったら、この様な事態にもならないか? 俺も召喚される事はなかったかもな……。
「なるほど、海外進出企業なわけだ。まぁそれは置いといて、もしかしてギルドの創設者って……」
「はい、勇者様です」
やっぱりそうか……。なんかギルドの存在が、漫画臭いと思ったんだ。一般的にギルドは技術独占の為の同業者同士の商業組合だったはず。この世界の様に仕事の斡旋を主にするギルドは……無いとは言い切れないが、主にゲームや漫画の中の話だろう。
それにしても、リベラティオ国は中立国だから、俺達は現在はそこに逃げようとしてる……。 ソコまではイイとしよう。
しかし、ティアがギルド側。リベラティオの企業の人間なら、その情報が国に入り何かしらの軍事、政治に巻き込まれる気がしてきたぞ?
──ここは一つ、吹っ掛けてみるか……?
「ティアさん、俺がリベラティオに入ったとして、そこで軍事利用されたりする恐れがないと言えますか?」
「──そんなことは絶対にありえないわ!」
ティアへの質問に対して大声を上げながら突然立ち上り、トゥナが会話に割って入ってきたのだった。
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