第54話 能ある兎は前歯を隠す? 2
あれだけ言葉にしても、どうやらハーモニーの興奮は冷めやらぬようだ……。次々と出てくる衝撃の事実。しかし彼女の冷めやらぬ興奮が、今話した事だけでは無いことを物語っている。
──そして俺の予想通り、彼女は更に言葉を続けた。
「次はビーキチさんですが、彼は驚くほどの才能は無いですが、料理意外の家事全般を完璧にこなして来ますよ……驚きですよね。洗濯物を畳む姿は主婦そのものです~」
お、おう……。ビーキチは若干華やかさに欠けるが、とても重要な役割だよな……うん。
「シータさんは、持ち前の明るさで子供達に大人気。泣いてる子供でも、あやして歌えば眠りに落ちてしまうほどの美声なんです……。私も一度~……」
そういいながら、地面に片膝をつきうつむくハーモニー。──何があったか知らないがよっど悔しかったのだろう。
そうか~。それにしても、子供の面倒担当はシータか……。不安だ。変なことを教え込まないといいんだけど……。もう一度言うが不安だ!
「じゃぁ、ディランはどうなんだ? アイツは流石に何もないだろ……?」
だってアイツは話し声が落ち担当だ。十分おいしいポジションだ、それだけで満足だろ? そうに決まっている……。
顔を上げ首を傾けるようにギロッとこちらを見るハーモニー。──怖いって……。
「何言ってるんですか、あの人が一番ヤバイですよ~! ウサウサ言って、馬と会話できるんですよ~? なにしてるんですか~って聞いたら、動物とお話が出きるウサって……。私はどうツッコミ入れたら正解だったんですか? カナデさん、教えてくださいよ~!」
……オッサンが動物とお話とか。──もう、見てられない!
中々に壮絶な話だったな……。異世界舐めてた。本当、予想の斜め上を行く……。
「そ、それでも今まではハーモニーが一人で全部やってたんでしょ? スゴいと思うわ……」
「そ、そうだシ! すごいカナ!」
そう言って励ます二人の機転。あのミコでさえもフォローに回るなんて……。
しかし、その甲斐あってか心なしかハーモニーに笑顔が戻ったぞ?
「でも話を聞いてても、ひどいのは聖母様よ! いくらハーモニーが用済みになったからって、簡単に追い出しちゃうんだもん!」
トゥナのまさかの一言で「グフッ~」と、その場で両膝をつくハーモニー……。──トゥナさん本当そう言う所あるよ? マジで……。
俺はハーモニーに手を差し出しながら「別に必要なくなったとかじゃないと思うから安心しろよ」と、優しく声をかけた。
差し出した俺の手を握り、潤んだ瞳を向けてくるハーモニー……。
「カ、カナデしゃん~……グスン」
──って、マジ泣きしてるのかよ! 俺にも責任がある。なんとかフォローをしないとな……。
「聖母様もハーモニーに気を効かせたんじゃないか? 俺がハーモニーを〔パーティーメンバーに〕下さいって頼んだからさ? 旅立ちやすい配慮をしてくれたんだよ、きっと……」
それを聞き、ハーモニーの手に力が入る。俺が動けないほど強い力でがっちりとだ。──どうやら俺のフォローが効いた様だ。こんなにも力強く……。
──しかしその刹那、俺はそれが元気が出た為ではない事を知らされた。
瞬きをする間もなくレーヴァテインが俺の喉元に到達していたのだ……。まるで打ち合わせていたかの様なそのコンビネーションに、俺は息をする事も忘れそうになる。──あれ? 俺死んだかも。
「カナデさん……。遺言があるなら聞きますよ~?」そう言いながらハーモニーが手を引っ張る力が徐々に強くなる。その度にレーヴァテインの先端が喉に近づき……。
「──ゴクンッ」
生唾を飲み込み額からは汗が滴る。──今、一瞬でも気を抜いたらヤバイ! 俺にはまだやることが……。
ため息をつき「冗談よ……」とレーヴァテインを鞘に納めるトゥナ。
まったく、人が悪いよ……。異世界に来て初めて、まじで死ぬかと思った瞬間だったぜ。
そんな中、手を離さずしがみつくハーモニーの両頬は未だ膨らんだままだ。
「解いてください~……」
「解く……何を?」
「聖母様の誤解を解いてください~!」
そ、そんな事突然言われてもな……。子分達には次行くの二日後って言ったし。何より面倒くさそうだ!
「誤解を解きに行ってあげなさいよ。全面的にカナデ君が悪いわよ?」
呆れながら手を頭に当てため息をつくトゥナ。これは本気で呆れてる顔だ。
「来てくれないと……本気で泣きますよ~?」
本気で泣くって……どんな脅迫だよ? でも、こんな幼女を本気で泣かせる……。それは絵柄的にもマズイな?
──あぁ~もう!
「分かった、行くよ。行くから泣くな!」
これじゃぁ、ちびっ子を苛めてるみたいだしな……。親切心で相談に行ったのに、完全に余計な事しちまったよ。
予定では別れ際に涙、涙、で結局ついてくる的なテンプレ展開を予定してたんだけど……。現実でも異世界でも、中々思うようには行かないものだ。
結局この後、ミコ含めた四人で教会の前まで来ているわけで──。
「──ただいま戻りました~」と、ボソボソ声でハーモニーが教会の扉を開ける。
扉を開けると、絵本を子供たちに読み聞かせているシータの姿があった。──驚いた……。本当に聞いてる子のほとんどが眠ってるじゃないか。
「あれ? ハーモニーの姉御と御二方じゃないっすか? あ、もしかして挙式の話で来たんっすか!」
身体中から汗が吹き出した。そして、トゥナとハーモニーが、すごい形相でこちらを睨んでる。
思ったより話が広がってるぞ? このままじゃ、子分達に「ロリ兄さん」とか呼ばれちまう! 緊急事態だ、早急に対応しなければ……。
「シータ、それは誤解なんだよ。その誤解を解きに来たんだけど、聖母様は何処に居るんだ?」
俺を見るシータの眼つきが明らかに変わる。まるで「今更言い訳っすか~? ニヤリ」とでも言わんばかりな眼つきだ。
「そうっすねぇ~、ついさっきこの前を通ってお祈りに行くとかいってたっす。兄さん、わっしは分かってるっすから!」
腕組みをして何度も頷くシータ。──こいつ、後でぶっ飛ばそう。
「それではきっと、勇者様の像の前ですよ! いつもあそこでお祈りしています~!」そう言って、俺の服の袖を引っ張るハーモニー。
さらにそれを見て「仲良しっすね」と温かく微笑むシータ。──ぶっ飛ばした後にその憎たらしい前歯、折ってやる……。
そのまま服の裾を引っ張られた俺は、シータを遠目に睨みながらも勇者像のある大広間に連れていかれた。
目の前には赤い
大広間の中央にある象の手前では、その場で膝をつきお祈りをしている、修道服に身を包んだ老婆の姿が見える。
「聖母様! ハーモニー、誤解を解くためただいま戻りました~!」
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