第27話 盗賊?

「ハイよ~! ハイよ~!」


 木々が生い茂る森の中、二頭立ての荷馬車がガラガラガラ! っと、すごい勢いで大きな音を立て勢いよく走り去っていく。


 舗装ほそうされてない道を、木製の車輪に何かの革を貼っただけのタイヤが、地面から跳ねながらも走っていく……。

 今にも壊れそうになりながら。──いてぇ!頭打った!


 なんで今こんな事になっているかと言うと、 時はさかのぼる事、数時間ぐらい前の話だ──。


──俺達は 昨日までいた村を出て、川に沿うように馬車で移動し、馬車馬が疲弊したその都度、何度も馬を休ませながら次の目的地に向かっていた。


「ごめんなさい~……。時々こうやって、お馬さんを休めないとダメなのです~……」


 この声の主と積み荷が、今回の依頼の護衛対象らしい。

 次の町までに無事に届けることが依頼内容だ。


 それにしてもビックリしたよ……。ポンチョのような外套のフードを外したら、その下はなんと! 可愛らしいエルフの女の子だったのだ。


 プラチナブロンドの白金の様な髪色、グレーがかった碧眼へきがんの少女の名前は『ハーモニー』と言うらしい。外見だけを見れば十三歳前後に見えるけど……。


「貴方達が依頼を受けてくれて、本当に助かりましたよ~。積み荷が食べ物ですからね~……おかげで腐らせずに済みそうです~」


「私達も、隣町に用事があったので、この依頼は非常に助かりました」


 ハーモニーと呼ばれる少女の事情を聞くと、行きの護衛も片道のみのもので、帰りの護衛を探して立ち往生していた所、俺達が依頼を受けてくれたという経緯があった。


「最近はこの辺りも色々物騒で……。護衛なしでの積み荷運搬は考えれませんからね~。ここだけの話ですけど~? 指名手配犯と似た特徴の人を見たと報告もあったそうでよ? 怖いですよね~? 極悪人が~近くにいるかもって思うと……」


 まったくだ! この世界は本当に物騒だよな……心休まる暇もないじゃないか? 本当、その指名手配犯ってやつの顔が見てみたいものだ。


「その悪人ってどんな奴カナ?」


「え~っと……? 確か黒髪の……って……あれ~?」


 俺達の会話の最中、マジックバックの中からサラっとミコが顔を出している……。

 トゥナと狭い馬車の荷台で二人っきりだと、邪な気持ちになる可能性もあるので心を読まれたくなくコッソリとマジックバックに出したのだ……。


 俺は慌ててミコをバックに押し込み、トゥナと二人で笑いながら場をごまかそうとしたものの「精霊様じゃないですか~? このあたりで見るなんて珍しいですね~」と、ハーモニーは思ったより驚いた反応を見せなかった。


「精霊とか、見ても……ビックリはしないのか?」


 この世界の人も、精霊はかなり珍しく思うものだと思っていたが、目の前の少女は思いのほか動揺を見せずに、それどころか過去にも見たことがあるような口ぶりだ。


「言われてみればそうですね~? 久しぶりにお会いしました。故郷では~よく見かけたのですが~……」


「エルフの里には、精霊様も住んでるんですか?」と、トゥナもハーモニーの話に興味津々の様だ。

 なるほど、精霊も決まった国や住処の様なものがあるのか? 初めて知ったな……。

 

 そう言えばしばらく一緒に旅をしているが、ミコの事もトゥナの事も何も知らないな。今後、少しずつでも彼女たちの事を知っていけたらいいかもな。


「それじゃ~そろそろ行きましょうか~? お馬さんも休息できたようですし~」


 そう言いながら二頭の馬を馬車に繋ぎ直し、ハーモニーは出発の準備を行った。


 それにしてもミコの件……大事にならなくて良かった、本当にうちのミコは学習と言う事を知らないのか……後でお仕置きしなければな。


 俺達は準備を手伝い、馬車の荷台に乗り再出発をした。

 川が流れている以外は、これと言った特徴もない、ただ広いだけの平野を進む。しばらく目新しい風景が見えなかったが。目の前に青々……とはしてはいないが、木々の生い茂る森が姿を現した。


 開けていた道は森へと差し掛かる。視界が悪く、通り道以外は木々があるため逃げ場などない。──こりゃ……馬車では逃げ道がないな。間違いなく今回の護衛任務での最大の注意スポットだ……。


──しばらく進むと、突然馬車の速度が上がり荷台にいた俺は藁の山に突っ込んだ……。バフッと……。


 突っ込んだ頭を「んがぁ!」っと藁から引き抜き藁まみれになった頭や服を手で払う。


「──ハーモニー! 何があったの!」


 荷物の間をすり抜けるように、トゥナはハーモニーに今の状況の確認を取る……。──さすが冒険慣れしている為か? 俺みたいに藁に突っ込んだりは……。


「カナデ……格好悪いカナ……」


 それは本人が一番分かって……ってそれどころじゃないだろ!


「ミコそれは後にしてくれ! トゥナ一体どうなってるんだ?」


 これはどう考えても異常事態だ。荷馬車でこんな速度出して大事なのか?


「盗賊よ! 馬が慌てちゃって言うこと聞かないみたいなの!」


 くそぉ、案の定だ! 荷馬車の後ろのほろを持ち上げ、後方を確認した。──馬に乗った盗賊が……二人みえるな?


「トゥナ! 裏からは二人来てる!」


「前と横には三人いるわ!」


 合計で五人か……。見事に囲まれてるな……。


 馬車は盗賊たちに誘導される様、二股の道を急に右へと曲がった……。

 荷台が中の重みで傾き、元に戻ろうとした。──その時、何かが外れた様な音の後荷馬車を引きずるように、大きな音を立て馬車が止まってしまった。──いってぇ……! 頭打ったよ!


 そんなことを考えながら何気無く後ろをみたら、車輪が軽快に外れ、転がってくのが見えた……。──あ~あぁ……。

 

 俺とトゥナは馬車を降り、いつでも戦える準備を取る……目の前には先程の盗賊達が集まりだし、何やら揉め出した……。


「おい、予定よりだいぶ手前じゃねぇか! どうなってんだ!」


「お、親分があおり過ぎなんっスよ! スピード出させ過ぎなんっスよ!」


 話を聞くに……馬車が壊れたこの状況、彼等にも不本意だったのだろうか?


「あぁん? 何だと? 俺が悪いってのか?」


「そういう訳じゃないっスけど……ごめん……親分……」


 う~ん、何となく小者臭が漂ってきそうな盗賊だな……。

 まったく行動に移さない盗賊達……。揉めている間に、俺は転がった車輪を回収して戻る……。──良かった……車輪が外れないように固定していた楔が外れただけのようだ。


「この状況で……よくマイペースにしてるカナ……」と、ミコのあきれ声が聞こえないけど気にしない。


 俺がそんなことをしていると「ハーモニーは、さっき私が言った通りに!」っといいながら、トゥナは護衛対象が馬車から降りないように促した。

 ハーモニーはトゥナの指示に従い、幌から顔を覗かせるも降りては来ない。──思ったより冷静なようだな……。


 トゥナは「カナデ君は馬車をお願い、盗賊は私が何とかするから」っと剣を抜き歩いていった……。


「トゥナ、油断はしないように」っと声をかけるものの、鑑定眼を使って相手のステータスを見てもトゥナなら余裕で大丈夫そうだ……。


「なぁ、ミコ? この世界の馬丁ばていって、盗賊家業もするものなのか?」


「カナデ……何言ってるカナ。そんなのボクが分かるわけ無いカナ!」


 ──分からないのかよ! まあいいや、盗賊は任せて俺は馬車を何とかしましょうかね……。

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