第19話 討伐依頼

 俺達は、宿屋での一件の後、ギルドで正式な依頼として、山に住んでいると思われる魔物の討伐クエストを受けた。


 ギルドを一度経由しないといけない理由は、ギルド側に無断で犯罪絡みの違法な依頼を受けたり、似たような内容で周囲に迷惑を及ぼすものがいる。そう言った者のライセンスの剥奪や処罰を与える為らしい。

 その他にも、お互いの金銭によるトラブル防止。依頼が失敗したとしても、次の結果に繋げることが出来なく、仕事の引き継ぎや、依頼の難易度の見直しが出来なくなるなどいくつかの理由がある。


 今回のフィーデの父の死亡も、驚くことにギルド側は連絡を受けていないようだ……。

 それどころか近くの山に大型の魔物が住んでいるかも? 位しか知らされてなかった。──ますます胡散臭くなってきたな……。


 俺達は、魔物の正体の具体的な情報もハッキリとしている訳ではないので、あえてコチラからは口にしていない。

 あくまでも付近の山の魔物の調査、及び可能な限りの討伐と言った内容となっている。


「それに、素直に全部報告してたらランクが足りず、私達じゃ受けれなかったわよ? 私達は知らなかった、良いわね?」だそうだ……。──これもバレたら罪に問われるのではないだろうか……?

 

 それで翌朝、日が登る前に宿を出て目的の山に向かった。道中には所々に雪が積もっており、新しい衣装に身を包んでいても体が冷えていく。


 目的の山には、村を出て一刻ほど歩けば着くらしいのだが、向かっている最中も何種類かの魔物に襲われたのだ。──街道も外れて道は獣道みたいな通りだし……。寒いし歩きにくいし……こんな所で襲われるのは勘弁してもらいたいものだよ……。

 

 葉の無い林を超え、目的地の山が視界に入って来る。──なんだこの山は……。


 日本のような木々が生い茂っている山を想像していたのだが……目前に見える山はイメージとは全然異なるものだった。


 回りには木も草も生えていなく生き物も居なさそうだ……地面は岩肌が出ており人が通った後も獣道も見られない。例えるなら死の山とでも言うべきだろうか?


「足元も岩ばっかりで歩きにくいな……」


「そうね……雪がないだけましだけど」


 そうなんだよな…これだけ寒いのに何故か雪がない。ある意味それだけが救いなんだけど……。

 しかし、普通これだけ寒いなら、雪の一つぐらいあってもいいと思うんだけどな? クレバスの心配が無いのは非常に助かるのだが……。


 不思議に思い、何気なくしゃがみ地面を触れてみた。


「温かい……?」


 理由は分からないが、雪が降ってもこの地面の熱で溶けてしまうのだろう……。

 俺は不意に地面に横になってみた。──温かい……これ人をダメにするやつだ……異世界の魔法か何かかもしれない……眠たく……。


「カナデ君……置いてくわよ……?」


 そう言うと、呆れた顔をして普通に俺を置いていこうとするトゥナさん……。

 残念ながら魔法みたいな幻想的なものではなく、俺のただのダラケ心が原因だったらしい。


『カナデ! トゥナンが行っちゃうカナ!』


 それを見て、俺は慌てて彼女を追いかけた……。──トゥナ、はやる気持ちが押さえれないのだろうか? 余裕が無さそうだ……。置いて行き方に優しさがないぞ?


 ちなみにミコは、さきほど風でいい感じに飛んで行きかけたので、今は無銘の中に突っ込んであるのだ。

当人は『ピューっとしたシ! ピューっとしたシ!』と、もの凄いはしゃいでたんだけど……。ちょっと飛ばされるぐらいじゃ、うちの子はめげないらしい。


 何れだけ歩いただろうか? 山に差し掛かってから魔物一匹として遭遇しないな? 平和でいいことだけど……。

 見る限り標高はあまり高くなさそうだ、それに綺麗な逆お椀型の山……。例えるなら子供が砂山で作るような、凹凸も崖もない見通しの良い山。


 低い山だし十分に日帰りも出来る。どうせこの後に戦闘が控えているのなら、このまま体力温存したいな……。


 亭主が言うに魔物の巣が山頂近くにあるって言ってたけど……。ここから頂上を見上げても、まだここからは見えないようだ……。


「──カナデ君! こっち来て!」


 トゥナの慌てる様な声に呼ばれ、そちらに向かった。その場にはには戦闘の跡とおびただしい量の血痕、剣とリュックが転がっていた。──おそらく坊主の父親の物であろうな……。


「カナデ君、これ……ファーマに持って帰ってあげてもいいかな……?」


 まぁ、拒否する理由もないので、俺は落ちていた物をマジックバックにしまう。 剣はそのまま縦に入ったが、リュックは中身を出し、入れ物は丸めて詰め込んだ。

 マジックバック非常に便利なのだが、バックの口より大きいものが入れれないのは弱点だな……。


「ありがとうね、カナデ君……。あの子もきっと喜んでくれると思の、今のも大切な形見だしね?」


 今改めて思うと、あの坊主も中々に気の毒ではあるな……。

 俺のじいちゃんの時とは違って、あの坊主は自分の父親の死に目にも会えなかったわけだ……。帰ったら、少しだけ優しく接してやってもいいかもな。


 頂上に向かう方角に向かい、滴下血痕から飛沫ひまつ血痕に変わって行く……。頂上に向かっていったのは間違いないようだ。──恐らくだが……ファーマの父の遺体を咥えて……。


「ロック鳥からそんなには逃げ切れないはず……もうすぐだと思うわ、カナデ君行きましょう」


 再び歩きだし山頂へと向かう。少しずつ足場も良くなっており斜面も緩やかになってきている気がする。──この辺りがほぼ頂上だと思うけど……辿ってきた血の後もドンドン小さいものになっているな。高度でも下げたのだろうか?


『カナデ! 鳥いるカナ! 大きいやつ! 前々! こっちに気づいてるカナ!』


 俺にはまだ見えないけど…ミコには見えているのか?どんな視力をしてるんだよ……。


「トゥナ……ミコが前方に大きい鳥がいるって」


「うん、私も今何となく羽音が聞こえたわ……。後、強い血の臭い……」


 異世界人スペック高いな……全然分からないんだけど……。

 俺達は前方を警戒しながら、体勢を低くしつつもゆっくりと……少しずつ前へと進む……。


「おいおい……ロック鳥ってあれの事かよ……」


 しばらく進むと俺にも、うっすらとシルエットのようなものが見えてきた。まだ幾分か距離があるからはっきりとは分からないが。そいつの大きさは想像をはるかに凌駕しているように見えた。


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